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2話 森の邂逅

 歪み(アビスリフト)、それは地中で暴走した理力が生み出すと言われる空間の亀裂。亀裂からは黒い霧(アビスマター)が滲み出しては、周りにあるあらゆるものを穢していく。


国境近くの森の奥で口を開いたそれは、この大陸で最初に生まれた亀裂だ。その亀裂はあまりに巨大で、拡大を続ける星の傷跡は【大歪み】と呼ばれている。


そこから溢れる黒い霧(アビスマター)は濃く渦を巻き、近づくだけで人の身を異形へと変異させていく。

だから僕らに課された任務は突入じゃない。ただ状況を“調査する”こと。


「……空気が重いな」

隣を歩くカリナが鋭い目を光らせ、足を止めた。


その瞬間、茂みがざわりと揺れる。闇の奥に、赤い光点がいくつも浮かび上がった。


「魔物か!」

カリナが剣を抜き、口元に薄い笑みを浮かべる。


現れたのは、獣が黒い霧(アビスマター)に侵食されて変異した小型の黒い異形(アビスモーフ)。それに理性はなくただ本能で目の前にいる生物に襲いかかる異形だ。先の、変異した兵士たちもこれに該当し、危険度的にはE〜Aまで存在してAに近づくにつれて凶暴かつ強くなっていくとされている。


しかしここで現れた個体は牙を剥き、唸り声を上げるけど、動きは粗雑で力も弱い。


「Eランクの雑魚だ。フィオル、肩慣らしには丁度いいな。早速魔法を撃ってみろ」

「わ、わかってる!」


僕は杖を掲げ、深く息を吸った。喉は震えていたけど、しっかり言葉に力を込めて詠唱を紡ぐ。


聖光の矢(ルミナ・レイ)!」


詠唱の直後、光を纏った眩しい矢が走り、異形の一匹を吹き飛ばす。


ここで補足しておくと、詠唱をしている間は無防備だ。もちろん火力の高い上位魔法になればなるほど詠唱時間は長くなる。


場数を踏んだレベルの高い魔導士は、この詠唱の時間を限らなく減らして隙をなくす。上級魔法だろうが、人によっては下級魔法並みのスピードで詠唱を終わらせて次の動きに備えることができる。


「上出来だ。押し切るぞ!」

カリナが剣閃を舞わせ、群れを切り裂いていくと数分も経たず、森に静寂が戻った。





「ふぅ……弱い相手なら、僕でもなんとか……。だけど、回復魔法も唱えられたらな....。もっと力になれるんだけど。」


額の汗を拭いながら、擦り傷を負った兵に手をかざす。けど回復の光は弱くて、癒えるのに時間がかかってしまう。独学で鍛錬を積んではいるが、身を結ばないのが現実。


「回復は他に任せればいいさ。お前はと結界に集中しろ。それが大切な役目なんだ」

カリナの即答に、胸の奥が少し軽くなった。


その時森の奥、不気味な黒霧の中から甲高い悲鳴が響いた。


「いまの……人の声!?」

カリナが剣を構え直し、鋭く告げるとすぐさま声のする方は走り駆け抜けていく。


「ま、待って! 僕も行く!」

僕は慌てて結界を展開し、彼女の背を追った。





木々を抜けた先にあったのは黒い異形(アビスモーフ)の群れに囲まれた二つの影。


青銀の髪の少年が怯えて身を縮め、その背を庇うように立つ青年が、血の滲む手で短剣を振るっていた。

だけど数が多すぎて、もう限界が近いのが見てとれた。


「セレナ!も、もう無理だよ!」


青銀の髪の少年の叫びに、セレナと呼ばれた青年は唇を噛み、必死に立ち続ける。

気づけば、僕は杖を構え詠唱を紡いだ。


聖光の帳(ルミナ・カーテン)!」


光が天から舞い降り、二人を包む。光の帳が広がり、迫る牙を火花とともに弾き返した。


「守りは任せて!」

声を張り上げると、カリナがふっと笑う。


「ふふ……頼もしいな。じゃあ、斬り込むよ!」


光の結界を背に、彼女は矢のように飛び込み、しなやかな剣閃で群れを切り裂いていく。やがて森に再び静寂が訪れた。


「はぁ……はぁ……」

胸を大きく上下させながら、それでも僕は笑った。

「ぼ、僕の結界……役に立って、よかった……」


これは『僕にしか出来ない戦い方』。僕の持つ【光の理力】は聖光の矢(ルミナ・レイ)の様な攻撃魔法はもちろんだけど、唯一無二の結界を張れる特徴がある。


他の理力にも、【結界魔法】はあるにはあるんだけど僕の持つ【光の結界魔法】は、他の属性とは一線を画している。防御力や、持続時間、結界を張れる範囲。さらには詠唱時間の短さ。


つまり、詠唱で出来てしまう隙もこの詠唱時間の短い結界を使いこなせば自分のことも守ることができる。僕が、こうして戦線で前を張れるのはこの力のおかげ。


「立派なもんだ。お前がいなければ危なかったな」

カリナが肩を叩いてくれて、少しだけ誇らしい気持ちになった。


救い出されたのは、怯える少年と、その背を必死に守ろうとした青年。この出会いは、ただの救助で終わらなかった。


この出会いこそが僕らの運命を、大きく動かす始まりだった。



 


『2話 森の邂逅』を最後まで読んでいただきありがとうございました。


今回のみどころは

歪み(アビスリフト)の調査へと派遣されたフィオル達は

黒い(アビスマター)の影響で、異形と化した獣と一線交えます。


通常、魔導士は詠唱の隙を狙われやすく詠唱の隙を

埋めてくれる仲間がいないと攻撃には不向きとされていますが

【光の適性者】であるフィオルは、唯一無二の光の結界でその弱点を補うことができる自分だけの戦い方を

掴み自分のものしています。


これは【おちこぼれ】と言われてきたフィオルが必死に努力をしてきた賜物なのです。


ガツガツと主人公が斬り込み

つえー!かっけー!ってなる展開ではないのが

この物語の特徴的なところなのかな?と思います。


そして、新キャラ登場。

青髪のエルフの少年・ラピス。そして彼を守る青年・セレナ。

この二人との出会いは

フィオルの運命を大きく変えていくことになります。


いまはまだ“救助された二人”ですが

彼らの本当の存在意義は

これから少しずつ明らかになっていきます。


次回『3話 邂逅と理の真実』は

10月13日AM7:00に投稿いたします。


お楽しみに!

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