25話 「ラピスの運命」
村へ戻った僕たちは、祠での戦いと歪みの鎮圧を報告した。
胸をなで下ろす声。
何度もくり返される「ありがとう」。
その重みが、じんわり手に残る。
夜。宿場の一室。
灯火が卓上を揺らし、張りつめた神経が少しずつほぐれていく。
カリナは机に向かって羽根ペンを走らせていた。
「イリシアに報告を送っておく。歪みの鎮圧、それから【アルセリア】の痕跡らしき石碑の件もな」
横顔は真剣。
剣だけじゃない『隊長』の責務がにじむ。
ラピスは布団に潜り、スラチャビに頬をくっつけてすやすや。
ぷるぷる揺れる小さな体と小さな寝息が、ぴったり同じリズムで動いて見ているだけで肩の力が抜ける。
思わず笑みがこぼれた。
やがて灯りのそばに残ったのは、僕とカリナ、そしてセレナだけ。
静けさが戻ったところで、口を開く。
「セレナ……君とラピスのこと、
もう少し聞かせてほしい」
セレナは一瞬だけ目を伏せ、ゆっくり語りはじめる。
「わかりました。まず、私たちの村は森の奥の静かな場所でした。自然に囲まれ戦もない、平和な森の中エルフだけの営み。自給自足の中で、皆おだやかに暮らしていました」
「その中でもラピス様は、生まれながらの羽ゆえに神格化されていた。学ぶことも、自由に外で過ごすこともほとんど許されず、【聖樹精霊】の血を継ぐ者として大切に―いえ、『守られすぎて』いたのです」
「窮屈な思いをされていたはず。
だから私は護り手として、
せめてその不自由を和らげたいと……身分は違えど、『友として』傍にいたいと」
一呼吸置いて、声が低くなる。
「……けれど、胸騒ぎがするのです」
僕とカリナは顔を上げた。
灯火がセレナの瞳に揺れる。
「私たち『異世界の住人』がこの世界へ呼ばれたこと。
この世界の人々が【聖樹精霊】を神話として知っていたこと。」
「そして【聖樹精霊】が、この世界で何かの『鍵』になっているように思えるのです」
部屋の空気がわずかに張る。
セレナは布団のラピスへちらりと目をやり、やさしく微笑んだ。
沈黙。
外の風が窓を震わせ、遠くの犬の遠吠えが滲む。
カリナが筆を止め、低く吐き出す。
「つまり……ラピスは、否応なくこの戦乱に巻き込まれる運命かもしれない、ってことか」
布団のふくらみを見つめる。
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(ラピスの運命……)
と、その時。カリナがにやりと口角を上げる。
「で、結局セレナは
ラピスのことが好きなんだな?」
「なっ……!? す、好き……!?
な、なにを……!
私はあくまで護り手として!」
耳まで真っ赤。声が裏返るセレナ。
「ふーん。護り手ねぇ。
顔に全部出てるぞ? なあ、フィオル」
カリナが片眉を上げる。
「そ、そんな……!
わ、わたしのような者が……
ラ、ラピス様に! そのような感情など!」
否定するほど色が増していくのがおかしくて、こらえきれず吹き出した。
「あははっ……セレナ、動揺しすぎだよ」
「フィッフィオル殿まで……!」
セレナは両手で顔を覆い、観念したみたいにベッドへ倒れ込む。
布団を頭までかぶって、小さな声だけ。
「……もう、今日は休ませてください……」
カリナは肩を揺らして笑った。
「素直になれば早いのにな……な?」
僕もつられて笑う。
温かな笑い声が、静かな夜に溶けていった。
灯火の揺らぎが、ほんの少しだけ明るくなった気がした。




