22話 「チュートリアル終了」
旅立ちの朝は、すぐにやってきた。
王都の空は、まだ淡い光に包まれ、鐘楼が低く鳴り、街路には白い朝靄が漂う。
城門を抜けた僕ら四人と一匹は、東へ続く街道へ歩みを進めた。
カリナが剣帯を軽く叩き、肩をすくめる。
「ここから先は、もう誰も導いてくれない。
あたしたちで道を作るんだ」
口元に笑み。
「”チュートリアル”は終わり。
ここからが本編スタートだ」
「……あはは」
思わず苦笑いがこぼれる。
少しだけ、肩の力が抜けた。
ラピスは羽を揺らし、朝の光を受けてきらめかせる。
「ぼく達で切り開いていこうね。
みんなで一緒に!」
セレナは東の空をまっすぐ見据えた。
「進む先に何が待とうとも、私は護ります。
ラピス様を、そして皆を」
僕も深く息を吸い、拳を握る。
「七理力を揃えて……
この戦を、この乱世を終わらせるんだ」
視線が交わり、全員が静かに頷く。
東へ伸びる街道は白い靄の向こうで途切れ、冒険への旅路は、まるで未知そのものだった。
それでも迷わず、一歩を踏み出す。
背後で城門が軋み、夜明けの光が差し込む。
地に刻まれた長い影は、未来を指し示す矢印みたいにまっすぐ伸びていた。
かつて伝説に語られた【召喚魔導士】。
何度も笑われてきた。
何度も無理だ。と言われ続けてきた僕の夢。
それは百年前、七理力を操り、召喚獣や精霊と共に世界の理を結び直した唯一の存在。
破滅を超える希望の光。
今、次世代の召喚魔導士を目指す僕たちの旅が始まる。
歩みは小さくても、確かな道は、ここから続いていくんだ。
◇
うっすらと、道端の草木には霜が降りている。
冷たく澄んだ空気の流れる東街道を進んでしばらく進んだ。
緩やかな丘陵と畑が広がり、遠くに小さな村の煙。
そのとき、草むらの奥から低い唸り声。
「……来るぞ!」
カリナが足を止め、剣を抜いた。
茂みを割って現れたのは、背に硬い甲殻を持つ昆虫型モンスター【ストーンビートル】。
魔法耐性が地味に高い。
単体は弱いが、群れると厄介な下級。
大型と小型、合わせて三体は牙を剥き、突進。
セレナの矢が閃き、一体の脚を正確に射抜く。着弾点から氷が広がり、動きが止まる。
そこへスラチャビの火球が炸裂すると、モンスターは悲鳴とともに転げ回った。
「残りはあたしがもらおう!」
カリナが駆け、正面から大型に切り結ぶ。
風を纏った刃が横薙ぎに閃き、鈍い衝撃。
巨体が地面に沈む。
最後の一体が逃げに転じた瞬間、カリナが踏み込み、二撃目で沈黙させた。
「ふう……」
剣を収めたカリナが振り返り、笑う。
「このくらいの雑魚なら無双できるくらいに、あたしたちも強くなったな」
「ほんとに……前より全然余裕だね。
戦線前の鍛錬がかなり効いてる」
僕も自然と笑っていた。
セレナは周囲を警戒しつつ、淡々と矢を戻した。
「確かにこの程度なら問題ありません。ただし油断は禁物。旅は始まったばかりです」
僕らは歩を進める。
東街道の先に待つ、まだ見ぬ試練を思うと、胸が高鳴った。
◇
半日ほど歩き、やがて小さな村に辿り着いた。
石造りの家々、広がる畑の緑。
なのに、空気はどこか重い。
「……活気がないな」
カリナが辺りを見回す。
道端の老人は深くため息をつき、子どもたちの声もか細い。
食堂兼宿で席に着くと、香ばしいパンと野菜スープ。
スラチャビはぷるっと揺れてご機嫌。
匂いを嗅いでは、ラピスの許可待ち状態。
「とりあえず腹ごしらえだね。
お腹すいたぁ」
僕はパンをかじる。
ラピスはスープをひと口、ほっと笑顔。
「……あったかい。この世界の食べ物って落ち着くしほんっとに美味しいよね」
そう言って、スラチャビにもスープを分けてあげた。
食後、僕は村人に声をかける。
「この辺りで、
何か変わったことはありませんか?」
腰の曲がった老婆が小声で囁く。
「東の森だよ。夜になると妙な『揺らぎ』が見えるってさ。ここ最近じゃ、畑の作物も枯れやすくてね…。」
セレナの表情が険しくなる。
「この村の近くに歪みがあるのでしょうか」
僕は仲間と視線を交わした。
カリナが顎に手を当て、低く言う。
「まずはその揺らぎってやつを、
確かめに行くか」
食堂の灯りに照らされた仲間の顔に、もう迷いはなかった。




