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18話 大歪み戦線

鐘の音が王都に鳴り響いた。訓練の疲れがまだ体に残る中、僕たちは息を切らせながら城へ駆け込んだ。広間にはすでに魔導士や弓兵が詰めかけていて、空気は刃のように張り詰めていた。


王の使者が前に進み、鋭い声を放つ。

「ヴァルディアの軍勢が国境の森道を突破!進軍先は【大歪み】周辺!直ちに布陣を整えよ!」


広間がざわめきに包まれる。胸の奥がぎゅっと縮んだ。この大陸で一番最初に出来た歪み(アビスリフト)。国を分かつ原因となったとされる【大歪み】。理力そのものが壊れ黒い霧(アビスマター)を絶え間なく吐き出す災厄の地。


(……なんだろう。嫌な予感がする……)


鼓動が早鐘を打ち、僕は深く息を吸い込んだ。


森道に着くと、イリシア軍は布陣を整えていた。前衛には魔導士が結界を展開し、後衛には弓兵が矢を番えて待機する。


一方、漆黒の旗を掲げるヴァルディア軍。盾を揃えた騎士団が槍を構えまるで鉄の壁そのものが迫ってくるようだった。地面が震えて、森全体がざわめいている気がした。


カリナが剣を抜き、低く吐き捨てる。


「イリシアの結界軍を力で粉砕するつもりか。脳筋集団め」


仲間達も武器を手に握り力を入れた。そんな仲間達の顔を見て僕も杖を握る手に力を入れる。


ヴァルディアの甲冑の音が一斉に森を揺らした瞬間、前線が動いた。合図とともに鉄の壁が一斉に前へ。盾と槍と剣が轟音を立てて突き出される。それと同時にイリシアの魔導士たちが一斉に詠唱を重ねる。炎が、氷が、風、そして雷が奔り、結界が張られた。


【大歪み戦線】後にそう語り継がれる凄惨な戦場。その悲劇の幕が開けた瞬間だった。


後衛の弓兵は矢に理力を宿し、一斉に空を裂く。見慣れたくはないけれど、見慣れてしまった戦の情景。ある者は悲鳴をあげ、ある者は怒声をあげ、国と国の信念を掲げてぶつかり合う。


【大歪み】から溢れる黒い霧(アビスマター)の中響き渡る衝突の轟音。炎が鎧を焼き、氷が足を凍らせ、鉄と鉄がぶつかり合って大地が震えた。叫び声、剣戟、理力の奔流…。森の空気そのものが焼き裂かれるみたいに感じた。目には見えない幾百の理力が空気を満たしていく。そして地面には息耐えた魔導士と騎士が横たわる。


だが、均衡はすぐに崩れた。


「なっなんだ!?」

「まずい!!また黒い霧(アビスマター)が暴発してるぞ!!」

「ダメだ!あの日のように、飲み込まれる!!」

「退散!!退散っ!うっうわぁぁぁぁ!!」


【大歪み】の方角から吐き出された黒い霧(アビスマター)が音を立てて戦場全体を覆い始まる。その濁った霧は、過去に見たことのない程の濃度で辺りを黒一色に染め上げていく。


「ぐあああああっ!」


ヴァルディアの騎士の体が膨れ上がり、甲冑を突き破って黒い爪が伸びる。


「やめろ……やめてくれぇ!」


悲鳴と共に味方を突き殺し、瘴気に呑まれて異形へと変わっていく。


「きゃああっ!」


イリシアの魔導士も、詠唱の最中に魔法陣を侵されて術が暴走。氷の魔法が仲間を貫き、彼女自身も暴走した理力に巻き込まれ凍り付き砕け散った。


次々と仲間が、敵が、人でなくなっていく。叫びと絶叫が重なり、血と黒霧が渦を巻く。地獄絵図。混沌。この世のものとは思えない絶望が戦場も心も支配していく。


(…やめて。もうやめて……!)


「くそっ、こんなのもう戦争じゃない!あたし達も巻き込まれる。まずいぞ!フィオル!」


カリナが歯を食いしばり、剣を振り抜いて異形を弾き飛ばす。


「わかってる!みんな、下がって!」

聖なる光域(ルミナ・サンクトゥム)!!」


僕は叫び、光の結界を呼び出した。光の川が仲間を覆い、黒い影がぶつかるたびに浄化の閃光が弾け黒い影は霧となり散っていく。


「お願い...。持ちこたえて……っ!」


汗が頬を流れ、杖を握る手が震える。結界が軋んでいるのが分かる。セレナはラピスを抱き寄せ、矢をつがえた。


「ラピス様、わたしの後ろに」

「う、うん……!」

「ぷるるっ!」

スラチャビが小さな体を震わせながらも火花を散らし、ラピスの肩にしがみついている。


僕は歯を食いしばった。

(絶対に……守りきる!守り切ってみせる!)



地獄が始まってから何分経っただろうか。やがて黒い霧(アビスマター)の暴走は収まり、外の黒い影が霧散して辺りは静まり返っていた。


「……静まったか」

カリナが剣を下ろし、荒い息を吐く。


恐る恐る結界を解き辺りを見渡すとそこには無数の死骸。異形と化した兵士も、暴走した魔導士も、皆静かに横たわっていた。


「……両軍、ほとんど……全滅だ」

声が震えた。視界が滲み、息が詰まる。


「こんなの……ひどいよ……いやだよ……」


ラピスの嗚咽が耳に刺さる。肩が小さく震えているのを、僕はただ見つめるしかなかった。


森道は廃墟のように荒れ果て、絶望の匂いが立ち込めていた。


そしてその時。


黒霧の晴れた先に、一人の影が立っていた。全身を黒き甲冑に包み、その隙間から雷光をほとばしらせる騎士。剣を地に突き立て、ただ終焉を見届けるように立っている。


「あれは……!」

カリナが剣を構え、目を見開いた。

「あの時の黒騎士……!」


最悪な敵の登場にラピスが息を呑み、セレナは無言で弓を構える。スラチャビも小さく震えた。そして僕は、胸の奥に得体の知れない騒めきを感じていた。


国境の森道。

歪み(アビスリフト)の地獄のただ中で、すべての視線は黒き騎士へと注がれていた。

『18話 大歪み戦線』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


続きは10/19

夕方17:30に投稿いたします。

次回、黒騎士の正体が明らかになります。

もしこの話良かったよ!楽しかったよ!

少しでも続きが早く読みたいな!と

思ってくださる方居ましたら

評価の方よろしくお願い致します!

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