17話 それぞれの適性理力
夜明け前、早朝の訓練場は、息を吐くたびに白くほどけた。昨夜、僕が描いた魔法陣は砂の上でかすかに燐光を残して輪郭だけが静かに呼吸しているみたいに見える。
僕、ラピス、セレナ、カリナ、そしてスラチャビで円を囲んだ。
カリナが腕を組み、いつもの鋭い目で僕らを見渡す。
「蒼殻竜リヴィオル戦。想定外の戦闘。そして理力の相性を知らずに挑んで苦戦した。あれは二度と繰り返さない。いくら敵のランクが高かったとはいえ、敵の騎士に助けられるなどあってはならない。だから改めて、あたし達の理力の適性を確認する。誰が何を操れるかを把握し、戦いの組み立てに活かす」
すっと背筋が伸びる。胸の奥に小さく残る悔しさが、冷気と一緒に引き締まった。
ラピスが羽を震わせ、遠慮がちに手を上げる。
「ぼ、ぼくも……? それにスラチャビも?」
カリナは迷いなく返す。
「当然だ。このパーティーの中に揃っている理力と欠けている理力を知ることが、命を拾う鍵になる。小さな適性でも侮るな。組み合わせ次第で敵は倒せるからな」
ラピスが魔法陣の『水』に指を触れた。淡青の光が静かに広がり、空気の肌触りが潤む。彼の幻惑ら回復の手触りはここから来ている。
「ふむ。ラピスはやはり水か。幻術や撹乱、回復の基盤になる。煌羽も癒しの雫も納得の結果だな。」
カリナの声は淡々としているけど、評価は高い。
続いて『風』も反応を示した。翠の光弧が弾け、砂が薄く舞った。
「…反応は微弱だが、風まで持つとはな」
カリナの目が細くなる。
「【水の適性者】であることに違いはないが、風は…森と共に生きるエルフの血筋ゆえなのかもしれないな」
僕はラピスの横顔を見る。羽先が少しだけ誇らしげに揺れた。
「で、でも魔力量は全然足りないよ。フィオルみたいに長くは維持できないし」
「それは仕方ないさ。」カリナは頷く。
「フィオルの件で分かっていると思うが、適性が複数ある時点で貴重だ。だが総量は未熟。使い方を誤ればすぐ枯渇する。鍛錬を積もう」
「……うん。がんばる」
ラピスの拳は小さいけれど、握り方は固かった。
そしてセレナが前へ出て魔法陣の前にしゃがむ。まず『風』に触れる。翠色の渦が凪いだ刃のように静かで、線が美しい。やはり、エルフは生まれながらにして【風の適性者】だということがわかった。
次に『氷』に触れると足元に薄い氷膜が走り、朝の光を細く返した。
「セレナは【氷の適性者】だな。弓と合わせて足元へ打ち込めば拘束技としても使えるな。」
セレナは目を伏せ、ほんの少しだけ口元を緩める。彼の矢が、これでさらに手強くなる。
そして僕は『光』と『火』に触れる。黄金と赤が交差した瞬間、胸の中心で音のない拍動が強くなる。
「光で守り、火で攻める。二属性をこの出力で扱える術士は脅威だ。改めて二理魔導士としての素質と能力の高さを証明したな」
カリナの言葉に、背筋が自然と伸びた。慢心はしない。けれど、少しだけ自信が芯になる。
最後にスラチャビが「ぷるん!」と跳ねて陣に乗る。
『火』で火花を散らし『水』でジュワッと蒸気を上げた。相変わらず愛嬌のある動きだがその体内に秘める理力蓄積量はおそらく特別班の中でもトップクラス。魔法陣が音を立てて反応している。
「水火の揺らぎ。モンスターであるスライム種の特性だ。牽制には十分使える。それに、ちゃび助。お前はラピスの肩に乗ってラピスに理力を分ける役割も頼む。いわば、理力のタンク役だ。ラピスの理力不足もちゃび助で、補えるはずだ。」
スラチャビは誇らしげにもう一度「ぷるるん」と鳴いた。かわいい。
カリナが僕らを順に見て、まとめる。
「光と火のフィオル。水と風のラピス。氷と風のセレナ。火と水のスラチャビ。あたし以外の全員が二理に適性しているとはな。エルフの血筋と、偶然の巡り合わせ。このパーティは、とんでもない布陣かもしれない」
東の端が白み、魔法陣の線が黄金に染まる。冷たい空気が少しだけ和らぎ、指先の熱も落ち着いていく。僕たちはそれぞれの理力の手応えを胸に、次の戦いへの準備を静かに固めた。
◇
次の任務までの間、毎日僕たちはパーティー内での役割を分担してそれぞれの長所を活かした戦闘訓練を行った。経験値は積み重なり、僕たちは少しずつでも強くなっている気がする。
『17話それぞれの適性理力』を
最後まで読んでいただきありがとうございました。
続きは10/17
夕方17:30に投稿いたします。
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