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1話 10年後

国が分かれて、もう十年が経った。


僕は敵国ヴァルディアとの戦場に同行していた。場所は、イリシアとヴァルディアの国境の平原。


たびたび、両国は戦場で剣と魔法をぶつけ合い直接的な戦いをする。

無益な死。無益な戦争。こんな日々から逃げ出したいといつも思っていた。


 歪み(アビスリフト)黒い霧(アビスマター)。そしてヴァルディアとの戦い。


どうして、こんな世界に生まれてきてしまったのか。考えるだけで頭がいっぱいになる。考えたところで答えなんて出ない。


それでも・・・こうして戦うしかないのだから。


金色の髪に、蒼の瞳。白の魔導ローブに身を包んだ自分の姿は、きっと他人から見ればそこそこ立派な魔導士に見えるんだろう。

でも胸の奥にはどうしようもない緊張がまだ残っていた。


改めて、僕の名前はフィオル=アズレア。

訓練学校で【おちこぼれ】と笑われていた僕もいまは前線へ送り出される一人前の魔導士になった。

希少な【光属性】を持つおかげで僕は仲間に不可欠な存在とされている。自分ではまだそうは思えないけど。


「……はぁ」

吐息は緊張で震え白い霧に紛れて消えていった。


その横に、影が寄り添う。腰の剣を軽く叩きながら歩く女剣士カリナ=アルディナ。


ひと目見ただけで周囲を圧倒する存在感を放っている彼女は僕よりも3つ年上。長い栗色の髪を高く結び戦場でも揺れるその姿は風そのものみたいだ。


蒼い鎧に包まれた体はしなやかで重さを感じさせない。動けば、まるで風に乗るように軽やかに駆け抜ける。


肩から背にかけて広がるマントが翻るたびにその姿はまるで絵本に出てくる英雄や勇者みたいに僕の瞳には映っている。かっこよくて、頼りになる。

わかりやすく言えば姉みたいな存在だ。


普段は淡々とクールに喋る彼女だけれど僕に笑いかけてくれるときのその笑顔だけでどんな恐怖も和らいでしまう。


()()()()()()()()()()のイリシアでなぜかただ一人の騎士として僕の傍にいてくれる。


どうして一緒にいるのか?

正直覚えてないんだ。気づけば常に隣にいるのが当たり前になっていたから。


「はは。怖いのか?フィオル」


低く落ち着いた声が張り詰めた空気をほんの少し和らげる。


「大丈夫だ。お前の魔法は、戦乱の只中でこそ光る」


その言葉に、震えていた指先がほんの少しだけ落ち着いた。


そして角笛が鳴る。戦いの始まりを告げる合図。



◇     



轟音が大地を裂き、剣と魔法が交錯する。戦況は均衡していた。


しかしその戦場で、突然地面が揺れた。そして空間に亀裂が入ると黒い霧(アビスマター)が辺りを覆う。


空が裂け、稲光が雨のように降り注ぐ。亀裂から溢れ出した黒い霧(アビスマター)は兵士たちを呑み込み獣の形に姿を変えていく。


「な、なんだこれは!?」

「退け、退けッ!」


秩序は一瞬で崩れた。


周囲の魔導士達が突如として変わった戦況に慌てる中僕は反射的に杖を掲げ、喉を震わせながらも声を絞り出す。


眩い光の結界が広がり、落石と異形の爪、さらに黒霧を遮る。その光の壁に庇われて、兵士たちは必死に息を整えた。


「フィオル……!」

カリナの声が聞こえた。僕は唇を噛み、叫ぶ。


「僕は、守りたいんだ、仲間を!」


声は震えていた。だけど【おちこぼれ】と呼ばれた僕の魔法はここで確かに兵を守る光となった。


やがて雷鳴と黒霧は遠ざかり戦場に不気味な静寂が戻る。剣を振るう力も残されていなかった両軍。そのまま停戦となり自国へ戻って行った。





数日後。王都イリシアの神殿「蒼天の塔」。


「各地で理の歪みが活性化している。このままでは国そのものが呑まれてしまう。早急に手を打たねばならぬ。カリナよ。フィオルを連れて調査に出向くのだ」


議場に響いた声に、息が詰まった。命じられたのは歪み(アビスリフト)の調査。


「ぼ、僕が……調査班に?」


不安で声が揺れる。すぐ隣で、カリナがはっきりと言い切った。


「危険な調査だからこそ、お前にしか出来ない大切な役目なんじゃないか?大丈夫だ。あたしが守ってやる」


その真剣な眼差しに、迷いはなかった。


「うん....。」


僕は小さく頷き、ローブの袖を強く握った。心の奥に、幼馴染の名を押し込めながら。


僕は、新たな任務へ歩み出した。



 

 

『1話 10年後』を

ご覧いただきありがとうございました!


主人公フィオルの戦場シーンでした!

幼馴染ロイに守られていた少年が

仲間を守るために言葉に力込めて光の結界を張る。


10年後のフィオルは【おちこぼれ】ではなく

立派な魔導士になりました。


そして、隣には魔導国家イリシア唯一の騎士カリナ。

風みたいに頼もしい女剣士です。


彼女の存在は

離れ離れになってしまったロイの様に

頼りになる存在です。

だからフィオルも強くなれました。


戦いの中で現れた黒い(アビスマター)

この世界の根幹に関わる重要な要素です。


そして、フィオルの幼馴染ロイの存在も

今後の物語で少しずつ明らかになっていきます。


『2話 森の邂逅』は

本日の夜中0時に投稿いたします。

調査班に加わり、この大陸で

一番最初に生まれた歪み(アビスリフト)の

調査に向かうことになります。


お楽しみに!

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