16話 帰還の夜
イリシア国「蒼天の塔」玉座の間。白石の柱に灯が揺れ、紅の絨毯の先に王が座す。僕たちは跪いた。
「特別班よ。よくぞ戻った。早速だがルーナの報告をせよ」
カリナが進み、簡潔に報告する。
「ルーナ洞窟最奥の歪みを確かに発見いたしました。フィオルの上位結界『聖なる光域』で空間ごと聖域化に成功。」
「ただちに歪み奥から浄化を拒む黒い霧が出現しフィオルに襲いかかりましたが光と火を複合した『聖焔降臨』で亀裂を消滅させることに成功しました。周囲一帯の黒霧は晴れ、病と変異は収束しております」
思い出す。歪みに向けて放った【聖なる光域】。歪みは、光を拒絶するかの様に黒い霧を吐き出した。さらに聖焔降臨を打ち込むことで鎮静化できた。まるで、歪み自体に体力ゲージやHPと言われるものがあるかのように。ただ浄化するだけでは歪みは消えない。規模によりおそらく必要とされる光の力も、変わっていくんだろうと思った。
つまり、僕自身の魔力も今後高めていかなければならないということだった。拒絶の黒い霧を吐きださせることなく短い詠唱で高い威力でダメージを与えなければならない。
そして、王の眉がわずかに動き老臣は小さく息を呑んだ。
「…聖なる光域だと?」
「はい、陛下。突然、胸の奥に魔力が宿る感覚があり、その魔法の詠唱の詩は知らぬ間に僕の頭の中に何度も繰り返し流れました。その言葉を詠唱すると穢れた跡を包む様に、空間そのものが光の領域へと変化する聖域が発現したのです。」
僕は一礼して答える。
セレナが一歩出た。
「そしてルーナ村からの帰路でヴァルディア兵の急襲を受けました。狙いはラピス様とわたしの拘束と思われます。カリナ殿の手早い対応でこちらの被害は最小です」
「うむ…。エルフを狙うか。しかしどの様な意図があるかは現時点では不明と…」
王は短く頷き、僕を見る。
「それにしてもフィオルよ。光と火の複合を手にするとは。二理魔導士となったそなたの稀な素質と力はこの国にとって大いなる力だ。鍛錬し、確かに掌中に収めよ」
「御意」
声が自然に出た。
「よい。下がれ。次の任に備えよ」
◇
その夜、王都の訓練場。僕は砂地に魔法陣を描く。幾何の線がつながり、円環に七つの理力の象徴が浮かびあがった。
僕は光と火を象る位置に指を置く。燐光が交わり、手応えが返る。
「この二つは、確かに僕のものだ。本当に二理魔導士になったんだ。僕...」
次に水に触れる。指先にはほんの微かな水滴の感覚。独学で覚えた回復魔法の名残だろうか。僅かに湿気を持つだけで水滴となることはない。残る、風 氷 雷には、冷たい拒絶だけが返った。
拳を握り、息を整える。【召喚魔導士】。七理すべてを扱う伝承の極。
僕は立ち上がり、描いた円環を見下ろした。夜気に淡く光るそれは、今の自分の輪郭に似ているような気がした。
光と火の残滓が、指先にまだ温度を残していた。夜風が砂を撫でる。未完成の円環をそのままに、訓練場を後にした。
『16話 帰還の夜』を
最後まで読んでいただきありがとうございました。
続きは10/16
夕方17:30に投稿いたします。
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