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15話 今のあたしは怖いぞ!

ルーナ洞窟の歪み(アビスリフト)を浄化した僕たちは村に戻り村長へ報告をした。村人たちは、抱き合い、元の姿に戻った湖を見ては喜びを分かち合った。

 

僕たちは歪みが齎す恐怖を初めて救うことができたのだ。


村人たちは、ささやかな宴を開いてくれた。勝利の美酒……とは言えなかった。ボスとの戦闘は想定外だった。敵の唯一のダメージソースを欠いたパーティーで挑んだ初めてのダンジョン攻略は全滅寸前まで追い込まれた。想定外の出来事へのリスクヘッジはこれからの僕たちに最も必要な学びだった。


しかもその窮地を救ってくれたのは敵将だったのだから。

あそこで黒騎士が現れなければ僕たちはきっとこの場にはいなかった。宴はほどほどに楽しみ各々の反省を抱えながら早くに寝床に入った。



そして夜明けとともに、僕たちはルーナの村を後にした。見送りに出た村人の間で、子どもたちがスラチャビをつついて笑う。湖は澄んだまま、黒い霧(アビスマター)はもうどこにもない。


「王都に戻ったら報告だ。行こう!」


歩調を崩さず進むカリナの横顔は相変わらず冷静だけど、わずかに疲れが残っている。僕が強く頷くと、背で少なくなった回復薬がかすかに揺れた。


やがて道が緩やかな丘に差しかかり、木立が途切れたその瞬間。


ヒュッ、と鋭い風切り音。僕らの前に矢が突き立った。両側の茂みから、赤い紋章の鎧が一斉に飛び出し、半円を描いて取り囲む。


「ちっ。ヴァルディアか……!」


カリナが剣を抜き、セレナは弓を引き絞る。ラピスはスラチャビを背で庇い、羽を広げて身構えた。先頭の兵が声を張る。


「イリシアの小隊! 覚悟しろ!」


敵の視線は、明らかにラピスとセレナに集中している。


「やれやれ。目的は…エルフか?そこまで分かりやすい動きをするとは。下っ端も下っ端か。」


カリナの声は低く鋭い。僕は一歩前に出て指先に魔力を集めた。結界の準備はすでに出来ている。


張り詰めた空気が、号令と同時に裂ける。矢の雨。


「結界を張るんだ。今のお前に弾けない物はないだろう。」


カリナの短い指示。僕は白光を咲かせ、『聖光の帳(ルミナ・カーテン)』で即席の陣地を形づくる。思っている通り矢が弾け、衝撃が地面を震わせる。敵軍の攻撃は一歳僕たちに届かず、敵軍が動揺を見せ始めるたその一拍カリナの目が細く光った。


「さて。ここはあたしに行かせてもらおうか。あたしは……昨日から少しイラついてるんだ。少々手荒に暴れさせてもらおう」


昨日の雷光。速さ、重さ、間合いが騎士としての彼女の闘志を燃やしている。血が熱を帯び、カリナの握る刃に風が集まるのが、結界越しでもわかった。刃の周りで空気が唸り、草の穂が逆立つ。彼女は結界の縁に沿ってすり足で“刃の通り道”をなぞった。


同時にラピスの煌羽(こうう)が淡い光片を舞わせ、敵の視界を乱す。カリナの口角が、獣めいて吊り上がる。


「今のあたしは怖いぞ!」

「風と共に舞う我が剣は、止まぬ大嵐そのものだッ!!」


踏み込み一足、水平の一閃。風が爆ぜた。円環になった風刃が前列の盾と槍の継ぎ目をまとめて撫で斬る。金具が弾け、柄が折れ、兵が体勢を崩した。

そしてすぐさま第二波の風刃が躍り出る。関節、弦、足甲を正確に断つ。決して殺さず・・・戦闘力だけを刈り取るように。


カリナの左側からヴァルディア兵が襲いかかる。


「雑魚が!見え見えなんだよ!!」


とカリナは旋回し、踵で地を噛んで再び風を束ねた。斜め上への返し、斬面が三段に分かれ同時に薙ぐ。砂塵が舞い、悲鳴と金属音。余波は僕の結界が受け止め、味方側へ風圧は漏れない。激しい風を伴いながら彼女の剣は踊る。


「次いくぞッ!」

間合いを詰めたカリナは“止め”を寸前で切り落とす。


「うわっ....!!」


首は獲らず喉元に風だけを滑らせ、息と意識を刈り取った。畏れが連鎖し、敵列は後退する。


「た、隊長、後退判断を!」


中列の叫び。指揮官は歯噛みし、合図を振った。散発的な矢だけを残し、ヴァルディアは林の影へ退いていく。


風が止んだ。

斬り結ぶ前に戦意だけが削がれ、緑に飛び散る鉄の匂いだけが残る。結界の明度がふっと落ち、肩が上下する。


カリナは刃を軽く振って風を払い、鞘に納める。

「進もう。報告を急ぐぞ」


兵が去った道には、土煙の尾がまだ漂っていた。


「すごい…。カリナは【風の適性者】だったんだね!」

ラピスが感嘆を漏らし、両手を胸の前で握る。


「【風の理力】を剣に乗せて直接斬りかからずとも、その風圧だけで敵を薙ぎ払うことができる。さすがだねカリナ!」


僕も息を整えながら、素直に讃えた。

「ふふん、当然だろ」

カリナは肩で笑い、剣先に残る風を払う。


一方、セレナは弓を下ろし、細めた眼で戦場跡を測る。


「……あれほどまでに暴れる風。敵に回したくはありませんね」

ラピスに抱えられているスラチャビもぶるぶる震え小さな牙を見せて「ぷしゅーっ」と威嚇。仲間の僕らでさえ、彼女の嵐の残滓には少し腰が引ける。


「おいおい、その目はなんだ」

カリナはセレナとスラチャビの反応に眉をひそめた。


「仲間を守るためにやっただけだ。怖がられる筋合いはないぞ。まあ今日のあたしは少しイラついていたからな。ちょっとやりすぎた感は確かにあるが」


僕とラピスは顔を見合わせ、思わず笑みを交わす。


「さあ。油断せず進もうか。」


嵐の余熱を纏いながらも冷静さを取り戻したその背中を、僕ら三人と一匹は追った。草と朝日の匂いの中、王都への道を結界と風と光は颯爽と進んでいく。



 


『15話 今のあたしは怖いぞ!』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


黒騎士の雷の剣筋を見たカリナは

とても苛立っていました。

何も出来なかった自分の無力さ。

自分よりも上を行く黒騎士の剣技に。


そんな苛立つカリナの前に立ち塞がるヴァルディア。

カリナの迫力に埋もれてはいますが

ヴァルディアは、ラピス達を狙っていることが

判明しましたね。


そして、カリナは【風の適性者】でした。

剣に風を乗せて戦う姿は

特別版唯一の近距離アタッカー。


とても、頼り甲斐のある姉気分です!


さて、次回からは新チャプターへ

続いていきます。


ハイペースで序盤を駆け抜けましたので

ここで一度投稿頻度を下げさせてもらいます。


これを機に改めてChapter01〜02を見直して

いただき評価⭐️いただけたら嬉しいです!


『Chapter03:おちこぼれコンビ』は

10月15日17時30分に投稿いたします!

このタイミングから、毎日17時30分投稿と

させていただきます!

お楽しみに!


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