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12話 ルーナ洞窟を攻略します

湖を臨むルーナの村に着いた頃、夕暮れの光が湖面を赤く染めていた。静まり返った村は一見穏やかに見えるけど、空気は濁っていて、村人たちの表情には、不安の影がはっきりと浮かんでいた。


広場に出迎えてくれた村長が、僕たちに深く頭を下げる。


「遠いところを……ありがとうございます。ここ最近、湖から黒い霧が吹き出しておりましてな。魚は異形と化し、漁に出た若い者が襲われるという事態に…」


やっぱり、黒い霧(アビスマター)だった。僕は村長に問いかける。


「……発生源は分かっていますか?」


村長は顔を曇らせ、北を指差した。


「湖の奥にある洞窟です。あそこから霧が流れ出しておるのです。我らには、立ち入る勇気も力もありません」


そこでカリナが口を開いた。


「つまり、『歪み(アビスリフト)の元凶は洞窟か。初めての()()()()()()()というわけだな」


「だんじょん……?」

ラピスが目を輝かせながら小首を傾げる。


セレナが落ち着いた声で補足する。

「危険と試練に満ちた洞窟などのことを、そう例えるのでしょうね」


「ダンジョン……!なんかちょっと楽しみだね!」

ラピスは無邪気に笑ったけど、カリナの声は妙に冷静だった。


「浮かれるのは自由だが、油断はするなよ。中は想像以上に厄介だろう。」


怯えた村人たちの視線を背に受けて僕たちはルーナ洞窟へ向かうことを決意した。



村外れの湖畔に口を開く洞窟の入り口は奥から滲み出る黒い霧(アビスマター)に包まれていた。近づくだけで空気が重く、肌にざらつく感覚が走る。


「……ここがルーナ洞窟か」

カリナが前に立ち、僕たちを振り返った。

歪み(アビスリフト)は奥だ。気を抜くなよ?」


ラピスは羽を小さく震わせ、怯えた声を出す。

「なんだか……体の中にまで入り込んでくる感じがする……」


セレナがすぐにラピスの前に立ち、穏やかに言った。

「ラピス様、深呼吸を。ここから先はわたしが盾となります」


「……ありがとう、セレナ。大丈夫、行けるよ」

ラピスは笑ったけれど、声はかすかに震えていた。


僕は杖を掲げ、光を展開する。

聖光の帳(ルミナ・カーテン)!」


淡い光の膜が僕たちを包み、『黒い霧(アビスマター)を押し返した。

「これで霧の侵食は防げるはず。進みながら維持してみるよ」


「頼もしいな。お前の結界があるならひとまず安心だ」

カリナはそう言って、剣の柄に手をかけた。


光に包まれた僕たちと新たな仲間スラチャビも一緒に、洞窟の奥へ足を踏み入れた。


洞窟は冷たく湿っていて、水滴が岩肌を伝い、音が反響していた。黒い苔が岩を覆い、その間からは紫の光が脈打つように漏れている。


闇の奥から、岩を砕く音が響いた。姿を現したのは、牙を剥いた岩トカゲの黒い異形(アビスモーフ)の群れ。洞窟の湿った岩肌と同化したような外見を持つ小型トカゲが黒い異形(アビスモーフ)化した怪異。体表は黒曜石のような光沢を帯び、岩石と融合した鱗が層状に重なっていた。


「おそらくはEランクだが、暗い上に足場が悪い。油断するなよ!」

カリナが剣を構える。


けれど、ラピスが一歩前に出て羽を広げた。

「……ぼくに任せて!」


羽先から零れた光が洞窟を満たし、幻想的な輝きを放つ。

煌羽(こうう)!!」


柔らかな光が魔物の視界を惑わせ岩トカゲたちは混乱して進む方向を見失った。


「今だ!」


カリナが斬り込み、セレナの矢が急所を射抜く。僕は即座に結界を張り、仲間を護る光壁を展開した。


そこへ、スラチャビが転がり出る。

「ぴゅるるるっ!」


小さな体から放たれた火炎弾が炸裂し、群れを一気に焼き払った。静寂が戻った洞窟。煌羽(こうう)の光だけが残り、壁に揺れる影を作る。


「……やったな」

カリナが剣を担ぎ、スラチャビを見下ろして笑った。

「おい、ちゃび助。思った以上にやるじゃないか。あの火力は本物だ」


僕も目を見開いてしまう。

「すごい……!スラチャビ頼もしいよ!」


スラチャビは誇らしげにぷるぷる震え、赤い光を反射する。


「ねっ!かわいくて強いなんて、最高でしょ!」


ラピスは嬉しそうに抱きかかえ、スラチャビを撫でていた。スラチャビもうっとりした表情で嬉しそうだった。



奥へ進むと小さな空間の真ん中に場違いなほどぽつんと置かれた『古びた宝箱』があった。


「……おいおい、出たよ。いかにも怪しい宝箱だな」

カリナが腕を組み、鼻で笑う。


「大体こういうのは開けたら罠か……いやまあ、まだ序盤だし……なんならチュートリアルだしな。まあ序盤のダンジョンには大体新入り用の装備が入ってる。あたしはそれに一票だな……」


カリナはぶつくさと独り言を言いながら宝箱を怪しむ様に睨んでいた。


「カリナは時々、よくわからない例えをするんだよね」

「とりあえず開けてみよう」


僕が結界を張り、ラピスが蓋を押し上げる。中にあったのは小さな『かわいらしい頭飾り』だった。どう見ても戦闘用じゃなくて、ペット用のおしゃれアイテムにしか見えない。


カリナが呆れながら取り出し、スラチャビに目を見下ろす。

「なんだこれ?おっ?ちょうど、ちゃび助にサイズはぴったりそうだ」


そう言って頭に乗せようとすると


「ぶるるるるるるっ!」

スラチャビは牙を剥き出しにして全力拒否!


「うわっ。なんだよ、ちゃび助」

僕は思わず吹き出しそうになりながら言った。


「多分、最初にカリナが斬りかかろうとしたから、警戒されてるんだよ!」

「こいつ……まだ根に持ってんのか?」


するとラピスがきらきらした目でしゃがみ込み

「ほら、ぼくが付けてあげるね」


「ぷるん……」

ラピスが飾りを頭にちょこんと乗せるとさっきまでの抵抗が嘘のようにおとなしくなり、むしろ誇らしげにぷるぷる震えていた。


「可愛くない奴だなこの、スライムは!!」

カリナは笑いながらも剣を背に戻した。


こうして宝箱から得られたのは、金銀財宝でも武具でもなく、スラチャビにぴったりの『おしゃれアイテム』だった。



 

『12話 ルーナ洞窟を攻略します』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


RPGゲームでいうところの

最初のダンジョン攻略です。


カリナが言っていたとおり

新しい仲間が加わった後って

次のダンジョンで

その仲間が使える装備とかが

出てきがちですよね。


カリナはちょこちょこと

この様にメタな発言をしてきますので

その辺もカリナの個性として

楽しんでもらえたらと思います☺︎


そして次回は、ボス戦です。

特別班、初めてのボス戦は

どんな展開になっていくのか?お楽しみに!


もし、良かったよ!

少しでも続きが早く読みたいな!と

思ってくださる方居ましたら

評価の方よろしくお願い致します!

励みになります!


◾️Chapter02:用語解説◾️


⚫︎ 魔物懐柔(まものかいじゅう)

ラピスが生まれつき有している特異な固有スキル。理力の波長を魔物と共鳴させ、敵意を鎮めて心を通わせることができる。これに近いものでは強制的に支配する「使役魔法」があるがそれとは異なり、相互の信頼と穏やかな理力同調によって絆を結ぶのが特徴。この力により、通常は敵対関係にある魔物であっても友好的に従わせることが可能で、スライムのスラチャビもこの力で仲間となった。


⚫︎ 癒しの雫(イアリス)

水属性の初級回復魔法。掌に集めた理力を清き水へと変換し、対象の傷口や身体へ触れることで癒しの効果を発揮する。熟練者が使用すれば、複数人を同時に癒す範囲回復も可能である。【水の適性者】にとって最も基本かつ重要な魔法とされている。


⚫︎ 癒しの雨(イアレイン)

水属性の上位回復魔法。使用者の理力を雨粒状に変換し、一定範囲へと降り注がせることで広域に癒しの効果を与える。小さな傷だけでなく、重度の外傷・毒・呪詛などにも浄化と再生の効力を発揮する。高い集中力と持続的な理力制御が必要なため、熟練した【水の適性者】のみが使用可能。発動時には淡い水光が空へ昇り、静かな雨音と共に癒しの気配が辺りを包むという。


⚫︎ 煌羽(こうう)

ラピスが初めて習得した固有スキル。現時点で由来理力は不明。ラピスの背にある羽が光を放ちその光を見た生物に幻惑を見せる。その症状は様々な模様。ダメージは与えられないが混乱状態にすることで戦況を変えることが可能。


⚫︎ 理導杭(りどうこう)

敵国ヴァルディアが独自に開発した黒い霧(アビスマター)を抑制するための地中に打ち込む柱状の結晶体。理導杭(りどうこう)開発のために黒い霧(アビスマター)を採取する必要があり、その採取現場、もしくは開発途中の実験で数多くの犠牲者が出たといわれている。

本来の使用法としては1本だけでなく3本〜7本で陣を構成して設置する。理導杭(りどうこう)の中には封印術式が組み込まれておりその術式を組むのに必要な鉱石は光の理力が宿っているという稀少な石だとされている。

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