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11話 スライムを仲間にしますか?

僕達、【特別班】は王からの緊急招集を受けた。玉座の前で、王の側近が低く告げる。


「特別班よ。次の任務を伝える。湖畔の村ルーナに小規模な歪み(アビスリフト)が現れた。湖の水が濁り魚が異形と化し、村人が漁をできぬほど困窮しているという。そこでフィオル=アズレア。そなたの結界魔法を、その歪み(アビスリフト)に直接打ち込みどれほどの効果があるか、我らは知る必要がある。これは王直々の命令だ」


胸がどくん、と高鳴った。

僕に……そんな大役が?小規模な(アビス)の汚染は浄化できたけど、実際に(アビス)の元凶である、歪み(アビスリフト)に結界を放つ?もしも、歪み(アビスリフト)が暴走したら?もしも、黒い霧(アビスマター)が噴き出て辺りを侵食したら....?考えるだけでも悍ましい光景が目に浮かぶようだった。



「お言葉ですが!」

カリナが一歩前に出て声を上げた。


「それはあまりに危険では? もしも歪み(アビスリフト)が暴発を起こし黒い霧(アビスマター)が辺りを飲み込んでしまったら村どころかフィオルまでも黒い異形(アビスモーフ)になってしまいます。」


その声音には怒りと焦り、そして……仲間を案じる気持ちが滲んでいた。老臣は頷き、念を押す。


「無論、無謀な突入は認めぬ。暴走すれば即座に撤退し、村人、そしてお主達の避難を優先せよ。だがこれがもし結果を伴ったとしたら大きな一歩だ。歪み(アビスリフト)を鎮める術を見つけねば、未来はない」


カリナはしばし僕を睨んでいたが、やがて深く息を吐き、老臣へ向き直った。


「……御意。フィオルを連れ必ず守り抜いて参ります」

「うむ。頼んだぞ、カリナ」


再び僕を見据えるカリナの瞳は、強い決意を宿していた。

「……無茶はさせない。あたしが絶対に守る。それでいいな」


胸が少しだけ軽くなる。僕は小さく頷き、微笑んだ。

「うん。ありがとう、カリナ」


こうして僕たち【特別班】はルーナ村への派遣を正式に受けることになった。歪み(アビスリフト)に結界を打ち込むことが、『油に水を注ぐことになるか』果たして『火を鎮める水』になるか。僕たちは誰一人知る由もなかった。



ルーナに向かう道中。森を抜ける途中でぬかるんだ道の前方に『ぷるぷる』と揺れるものが現れた。透き通ったゼリーのような身体。丸くて、愛嬌のある目のような斑点。通常、【スライム】は群れをなして行動する臆病なモンスター。だがこの個体は単独行動をしていた。


「……スライムか」

カリナが剣に手をかける。

「ちょうどいい、準備運動に斬り払って―」


「ま、待ってよカリナ!」

ラピスがぱっと前に飛び出し、両手を広げる。

「この子、かわいいよ!」


「はあ?」


しゃがみ込んだラピスは、興味津々にスライムを覗き込む。

「ほら、見てよ。ぷるぷるしてて……ゼリー?みたいだよ」


「ラピス様、危険です! お下がりください!」


セレナが慌てて声を上げるが、ラピスは人差し指でスライムをそっと突いた。


「………………」

「ぷるんっ」

「ぷるるるるるるるっ」


弾むように跳ね返る柔らかさ。楽しそうにスライムが揺れる。


「ね、この子悪い子じゃないよ。むしろ……ぼくに懐いてるかも!」


ラピスが羽をぱたぱたと揺らす。確かに、スライムは足元にぴたりと寄り添い、体を小刻みに震わせていた。


カリナは剣を下ろし、呆れたように息をつく。


「……ラピス、お前には【魔物懐柔(まものかいじゅう)】の資質があるんだよ」


「……まもの、かいじゅう?」

首を傾げるラピス。


「人に敵意を向けるはずの魔物の心を改心させて、逆に懐かせる力だ。記録にも数えるほどしか確認されていない稀少なスキルだぞ」


セレナも頷く。

「確かに……。ラピス様は幼い頃から鳥や小動物に囲まれて育ちました。知らず知らずのうちに森の動物たちと心を通わせておられました。あれも、この資質の現れだったのでしょう」


「魔物を...仲間に?」


「……なら、この子も友達だね!」

ラピスは嬉しそうにスライムを抱き上げた。


「……ペット感覚かよ」

カリナは苦笑しながらも、それ以上は止めない。


セレナは少し困ったように微笑む。

「……仲間として迎えるなら、名前を決めてあげてはどうですか?」


「スラチャビ!!」

ラピスは顔を輝かせて叫んだ。


「……え?」

僕とカリナとセレナ、三人同時に固まる。


「スラチャビだよ! だって……チャビチャビしてるから!」


「……はぁ」

カリナは頭を掻き、セレナは苦笑を浮かべる。


「ふふっ……ラピス様らしいお名付けです」


こうして、ぷるぷる跳ねるスライム【スラチャビ】が、僕たちの仲間に加わった。ほんの少し、緊張に包まれていた旅路が、柔らかくほころんだ気がした。



 

『11話 スライムを仲間にしますか?』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


これって、RPGというか特定のゲームが好きな人には結構たまらない展開じゃありませんか?仲間モンスターシステムってやつです。こういうの取り込んでみたかったんです!このスラチャビ。可愛いだけでなくって今後ちゃんと活躍してくれますのでそのエピソードが来るまでお楽しみに!

もし、良かったよ!

少しでも続きが早く読みたいな!と

思ってくださる方居ましたら

評価の方よろしくお願い致します!

励みになります!


◾️Chapter02:用語解説◾️


⚫︎ 魔物懐柔(まものかいじゅう)

ラピスが生まれつき有している特異な固有スキル。理力の波長を魔物と共鳴させ、敵意を鎮めて心を通わせることができる。これに近いものでは強制的に支配する「使役魔法」があるがそれとは異なり、相互の信頼と穏やかな理力同調によって絆を結ぶのが特徴。この力により、通常は敵対関係にある魔物であっても友好的に従わせることが可能で、スライムのスラチャビもこの力で仲間となった。


⚫︎ 癒しの雫(イアリス)

水属性の初級回復魔法。掌に集めた理力を清き水へと変換し、対象の傷口や身体へ触れることで癒しの効果を発揮する。熟練者が使用すれば、複数人を同時に癒す範囲回復も可能である。【水の適性者】にとって最も基本かつ重要な魔法とされている。


⚫︎ 癒しの雨(イアレイン)

水属性の上位回復魔法。使用者の理力を雨粒状に変換し、一定範囲へと降り注がせることで広域に癒しの効果を与える。小さな傷だけでなく、重度の外傷・毒・呪詛などにも浄化と再生の効力を発揮する。高い集中力と持続的な理力制御が必要なため、熟練した【水の適性者】のみが使用可能。発動時には淡い水光が空へ昇り、静かな雨音と共に癒しの気配が辺りを包むという。


⚫︎ 煌羽(こうう)

ラピスが初めて習得した固有スキル。現時点で由来理力は不明。ラピスの背にある羽が光を放ちその光を見た生物に幻惑を見せる。その症状は様々な模様。ダメージは与えられないが混乱状態にすることで戦況を変えることが可能。


⚫︎ 理導杭(りどうこう)

敵国ヴァルディアが独自に開発した黒い霧(アビスマター)を抑制するための地中に打ち込む柱状の結晶体。理導杭(りどうこう)開発のために黒い霧(アビスマター)を採取する必要があり、その採取現場、もしくは開発途中の実験で数多くの犠牲者が出たといわれている。

本来の使用法としては1本だけでなく3本〜7本で陣を構成して設置する。理導杭(りどうこう)の中には封印術式が組み込まれておりその術式を組むのに必要な鉱石は光の理力が宿っているという稀少な石だとされている。

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