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10話 ラピスの回復適性

王都に戻り、謁見を終えたその夜。城の一角にある訓練場で、僕はひとり杖を握っていた。月明かりだけが照らす、静かな場所。


「水よ、癒しの力を…癒しの雫(イアリス)


手のひらに淡い水の流れが集まる。けれどすぐに揺らいで、消えてしまう。唇を噛み、何度も同じ魔法を繰り返した。


【回復魔法】それは、【水の理力】由来の癒しの力。傷口の治療がメインとなるが、上級者になると、毒や麻痺、混乱など様々な体調不良をも癒す力になる。


「やっぱり……駄目か」


肩を落とした僕を、遠くから見つめていた二つの影が近づいてくる。


「フィオル?」


羽が月光に透けるラピスが声をかけてきた。隣にはセレナが静かに佇んでいる。


「こんな時間まで……鍛錬ですか」

セレナの落ち着いた声が響く。


僕は気まずく笑って振り返った。

「……回復魔法の練習だよ。どうしても上手くできないから」


ラピスが首をかしげる。

「フィオルは結界も攻撃もすごいのに……どうして回復魔法にこだわるの?」


その問いに、胸の奥にしまっていた想いがこみ上げる。


「大切な人を……癒す力が欲しいんだ。すぐに怪我しちゃうんだ。その人はいつも傷だらけでさ。僕を守っては傷だらけになってた。でも今は離れ離れで……生きてるのか、死んでるのかも分からない。だけど信じてる。絶対に生きてるって。もしまた会える日が来たら。そのときは僕の手で、癒してあげたい」


夜風が静かに吹き抜ける。未熟な光はすぐに消えたけれど、心の中の決意は揺るぎなかった。


ラピスは羽をふわりと揺らしながら笑った。


「そうなんだね。また会えたら、きっと癒してあげられるよ」


セレナも深く頷く。

「その想いがある限り、必ず力は応えてくれるでしょう」


二人の言葉に胸が熱くなり、僕は杖を握り直した。

「ありがとう。そんな気がしてきたよ。」


そのとき。


「ねえ、フィオル」

ラピスが意を決したように声を上げた。

「ぼくにも、その回復魔法……教えてくれない?」


「ラピスが?」


ラピスは小さく羽を揺らし、隣のセレナを見やる。

「……ぼくも、セレナを癒してあげたいんだ。いつも守ってくれるセレナがもし傷ついたら……ぼくの手で守りたい」


「ラ、ラピス様……っ!?」

普段冷静なセレナが真っ赤になり、言葉を詰まらせる。その姿にラピスは小さく笑った。


僕は少しだけ迷ったが、杖を差し出す。

「……わかった。一緒にやろう。でも僕も、教えられるほどよく分かってないんだ」


ラピスは真剣に頷く。

「大丈夫だよ。やってみるね」


僕は基本の詠唱を伝えた。

「水よ、癒しの力を。癒しの雫(イアリス)


ラピスは目を閉じ、同じ言葉を唱える。その手のひらに柔らかな水流が集まり、淡い雫となって形を保った。


「……っ!? すごい……」

僕が何度も失敗している魔法を、ラピスは一度で成功させてしまった。


さらにラピスは直感のまま、次の詠唱を紡ぐ。

「水よ、より深き癒しとなり降り注げ。癒しの雨(イアレイン)


眩い光が溢れ、まるで聖樹の雫のように優しい雨が降り注ぐ。


「ラピス様……!すごいです……!」

 

セレナの声が誇らしさに震えた。


僕は完全に目を見張り、呟く。

「すごいよ、ラピス!ラピスは【水の適性者】なんだね!そういえばこの間の【幻惑魔法】も水の理力由来だ!」


ラピスは光を見つめて笑顔を浮かべる。

「よかった。これなら、セレナが傷ついても、ぼくが守れるね」


「ラ、ラピス様ぁぁっ……!」 

セレナは真っ赤な顔を両手で隠し、必死にうつむく。 僕とラピスは思わず笑い合った。


夜の訓練場に、三人の光が淡く灯っていた。胸の奥に劣等感と羨望が渦巻いたけどそれ以上に仲間を救う力になると信じていた。



翌朝。王都の城下町は朝靄の中でにぎわい、鍛冶屋の槌音と人々の声が響いていた。僕はカリナと共に露店を巡り、次の任務に備えて装備を整える。


「矢筒と替えの弦は……セレナ用に確保しておくか」

カリナが棚を見ながら呟いた。


僕は少し迷い、声をかける。

「……ねえ、カリナ。ラピスのことなんだけど」


「ん? どうした」


「昨日、回復魔法を教えてみたら……一度で成功したんだ。【癒しの雫(イアリス)】を簡単に習得したよ」


「一度でか……?」

カリナの眉がわずかに上がる。


「それだけじゃなくて、上位魔法まで。水の理力との適性がものすごく高いと思う」


カリナは腕を組み、真剣に頷いた。


「なるほどな。異界から来た存在ってだけでも特別なのに……前回の幻惑といい、やはりエルフは……いや、ラピスはよっぽど特別な力を持ってる」


けれどカリナは、僕の肩を軽く叩いて笑った。

「まさか落ち込んでるとは思っていないが比べる必要はないぞ?お前には【光魔法】と【結界】がある。その方が誰にでもできるもんじゃない」


その言葉に驚き、そして微笑む。

「……ありがとう、カリナ」


「気にするな。それに、ラピスがヒーラーになってくれればパーティはもっと安定する。セレナだって内心は助かってるはずだ」


カリナの言葉に、自然と僕も笑った。城下町の喧騒の中で交わした短い会話は、不思議な温かさを残してくれた。


『10話 ラピスの回復適性』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


この話でラピスは【水の適性者】だったが判明しました。【水の理力】の特性は、攻撃魔法は少ないけど味方を癒す『回復』や敵を惑わす『幻惑』系の魔法が多いです。サポート役やヒーラーとして仲間達を補助する役割が多いキャラになります。

仲間キャラの個性がこれからどんどん立っていく展開になっていきますのでお楽しみに!

次回は『スライムを仲間にしますか?』です!

少しそそるタイトルですよね?

10月14日朝7時に投稿いたします。

もし、良かったよ!

少しでも続きが早く読みたいな!と

思ってくださる方居ましたら

評価の方よろしくお願い致します!

励みになります!


◾️Chapter02:用語解説◾️


⚫︎ 癒しの雫(イアリス)

水属性の初級回復魔法。掌に集めた理力を清き水へと変換し、対象の傷口や身体へ触れることで癒しの効果を発揮する。熟練者が使用すれば、複数人を同時に癒す範囲回復も可能である。【水の適性者】にとって最も基本かつ重要な魔法とされている。


⚫︎ 癒しの雨(イアレイン)

水属性の上位回復魔法。使用者の理力を雨粒状に変換し、一定範囲へと降り注がせることで広域に癒しの効果を与える。小さな傷だけでなく、重度の外傷・毒・呪詛などにも浄化と再生の効力を発揮する。高い集中力と持続的な理力制御が必要なため、熟練した【水の適性者】のみが使用可能。発動時には淡い水光が空へ昇り、静かな雨音と共に癒しの気配が辺りを包むという。


⚫︎ 煌羽(こうう)

ラピスが初めて習得した固有スキル。現時点で由来理力は不明。ラピスの背にある羽が光を放ちその光を見た生物に幻惑を見せる。その症状は様々な模様。ダメージは与えられないが混乱状態にすることで戦況を変えることが可能。


⚫︎ 理導杭(りどうこう)

敵国ヴァルディアが独自に開発した黒い霧(アビスマター)を抑制するための地中に打ち込む柱状の結晶体。理導杭(りどうこう)開発のために黒い霧(アビスマター)を採取する必要があり、その採取現場、もしくは開発途中の実験で数多くの犠牲者が出たといわれている。

本来の使用法としては1本だけでなく3本〜7本で陣を構成して設置する。理導杭(りどうこう)の中には封印術式が組み込まれておりその術式を組むのに必要な鉱石は光の理力が宿っているという稀少な石だとされている。

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