8話 希望の光
黒霧の森の中から戻った僕たちを村人達は沈痛な空気で迎えた。
「ごめんなさい…汚染がひどく先に進むことはできませんでした」
僕は村長に頭を下げながら、悔しさで唇を噛む。カリナは腕を組んで視線を逸らし小さく吐き捨てるように言った。
「このままじゃ、どうにもならないな……」
重苦しい沈黙が落ちたその時だった。
「……あれ?」
村はずれの小道を見ていたラピスが、何かに気づいて走り出す。
「どうした、ラピス?」
カリナが問いかける。
ラピスはしゃがみ込み、土に触れる。
「見て?ここ……緑が戻ってるよ」
僕たちは思わず集まって覗き込む。確かにその一部分だけ、黒い霧の汚染が薄れ、草が青さを取り戻していた。
ラピスは顔を上げ、僕に目を向ける。
「ここ、フィオルが子ども達を守るために結界を張ってた場所だよね?だから……浄化されてるのかな!」
「……えっ」
胸が跳ね、思わず手を当てた。僕自身、そんなことにまったく気づいていなかった。
カリナが低く唸るように頷く。
「確かに……汚染を打ち消しているな。もしかするとフィオルの光の魔法には黒を取り除く力があるのか?」
セレナが淡々とした声で付け加える。
「先ほどの敵将が、残していった理導杭を使いながら、結界を張ってみるのはどうでしょうか?」
僕は息を呑んだ。あの杭はヴァルディアの黒騎士から渡されたものだ。もちろん罠の可能性もある。けれど、もしこれで村を救えるのだとしたら。
「……やってみる」
◇
黒霧が濃く渦巻く村外れ。
僕は黒い霧の溢れる森の方角に向かい杭を地面に突き立てると辺りを侵食している黒い霧の残滓が、中和されて空気がかすかに澄み渡る。そして両手を掲げて結界魔法の詠唱を始めた。
「聖光の帳....」
光の帳が杭を包み、波紋のように広がっていく。杭が生み出す力と僕の結界が重なり合い、黒霧を押し返す。僕の光に重なった理導杭が本来なら一部分にしか満たない結界範囲を広範囲へと広げていく光景はどこか神々しさを含んでいた。
やがて空気は澄み渡り、草木が鮮やかさを取り戻していく。
「……ほ、本当に浄化されてるよ!」
ラピスが歓声をあげ、瞳を輝かせた。セレナも深く息をつき、静かに言葉を落とす。
「間違いありません。フィオル殿の結界が、この村を護っているのです。霧を浄化させています」
「おお!なんと美しい!」
「光のお兄ちゃんすごいよ!こ、これで僕達助かるんだね?ありがとう。ありがとうお兄ちゃん!」
歓声が村に広がり、子どもたちが泣きながら僕の手を握る。胸が痛い。僕はその小さな手を握り返しながら思った。
(だけどこれは……僕の力だけじゃない。杭の助けがあってこそだ)
「……僕の力だけじゃ、まだ足りないんだ」
気づけば口から零れていた。隣でカリナが肩を叩く。
「足りないもんは、これから埋めていけばいいさ。だがここで杭の力を活かせたのはお前の結界だ。胸を張れ、フィオル」
「イリシアに戻ったら、この杭の設計図を渡して急いで解析してもらおう。なぜ、あの黒騎士が手の内を明かしたのか、その技術を我々に渡したのかはわからんが、黒を中和出来る貴重な技術だ。ありがたく頂戴しておこう」
その声に、心の重荷が少しだけ軽くなる。僕は空を仰いだ。黒霧を打ち払い、村を照らす光。その眩しさを胸に刻むように。
胸の奥に、新たな決意が芽生えていくのを、僕は確かに感じていた。
『8話 希望の光』を
最後まで読んでいただきありがとうございました。
敵であるはずのヴァルディア兵が残した黒の力を抑える杭。その力とフィオルの結界が一時的ではありますが村を救うことに成功しました。ここで初めて黒の力を鎮める可能性をイリシアは手にしました。フィオルの光の魔法は黒の脅威を鎮めるための鍵になるのでしょうか?
次回もお楽しみに!
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◾️Chapter02:用語解説◾️
⚫︎ 煌羽
ラピスが初めて習得した固有スキル。現時点で由来理力は不明。ラピスの背にある羽が光を放ちその光を見た生物に幻惑を見せる。その症状は様々な模様。ダメージは与えられないが混乱状態にすることで戦況を変えることが可能。
⚫︎ 理導杭
敵国ヴァルディアが独自に開発した黒い霧を抑制するための地中に打ち込む柱状の結晶体。理導杭開発のために黒い霧を採取する必要があり、その採取現場、もしくは開発途中の実験で数多くの犠牲者が出たといわれている。
本来の使用法としては1本だけでなく3本〜7本で陣を構成して設置する。理導杭の中には封印術式が組み込まれておりその術式を組むのに必要な鉱石は光の理力が宿っているという稀少な石だとされている。




