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テルルはメテオから借りた剣で入口を守る武装した魔族をあっさりと蹴散らし、メテオを守りながら城内へ侵入していく。
「テルル、怪我はないか? 俺は回復魔法が使える。怪我をしたら遠慮なく頼ってくれ」
「ありがとうメテオ、こんな私のために色々と気遣ってくれて」
危険な思いをしてまで吸血鬼であるテルルの夢を叶えようとするメテオを不思議に思いつつ、こんな状況ながら感謝を告げた。
「君に色々としてあげてるのは俺のためでもあるんだ」
「メテオのため……? 私しか得しないと思うんだけど」
「えーっとだな、戦いが終わってから話すよ」
どんな理由だろうかとテルルは気になったが少なくともメテオの役に立ててることが分かり、自然と笑みが浮かぶ。
「人間がいたぞ! 魔族ではない劣等種は殺せ!」
魔族はメテオ達を見ると大声をあげた。
「テルル、お願い」
「任せて! どりゃあっ!!」
集まって来る魔族をテルルがあっさりと倒し、敵の大将を探しつつ奥に進んでいく。
他よりも装飾の凝った大きな扉を開けると二人の視界に時が止まったかのような広い空間が映し出される。正面奥には少し高い位置にある朽ちた玉座。下を向けば塵が積もり、ひび割れ、欠けた大理石の床。壁には威厳を示すために飾られた様々な残骸。
王様に謁見するための場だったそこには数人の魔族が頭二つほど高い大柄な魔族に状況を報告していた。
「女の吸血鬼が想定外に強く、我々下級魔族では全く歯が立ちません。ここまで辿り着くのも時間の問題かと思われます。エグゼト様、撤退も視野に入れるべきかと――」
報告を受けた大きな魔族――エグゼトがテルル達に気づき、血のように赤い瞳孔を向ける。
「もう辿り着いてしまったようだぞ」
エグゼトを囲む下級魔族も振り向くとすぐさま武器を構えて戦闘態勢に入った。
「テルル、何度も申し訳ないが俺を守りながら戦ってもらえるか?」
「もちろん!」
テルルは下級魔族に突撃した。
下級魔族は人間のメテオは放置しても良いと判断しテルルを集中的に攻める。
「クソ、この吸血鬼、速すぎる」
しかし動きの速いテルルに見切られてなかなか当たらない。
「遅いよ!」
テルルは蝶が舞うような動きで斬り裂いていき、あっという間に下級魔族を蹴散らした。
「残りはあの大きい魔族だけ! きっとあいつを倒せば私達の勝ちだね」
テルルは勝ちを確信しニヤリとしながら、エグゼトへ剣先を向ける。
「下級魔族とはいえ一瞬で倒せるほど強い吸血鬼がいたとは想定外だ。俺でも勝てるか分からない以上は撤退するしかないな。せっかく良い拠点を見つけたと思ったんだが……」
「逃がさないよ!」
テルルは勢いよく飛び込み、剣を振った。
ギリギリで躱したエグゼトはテルルを無視してメテオへと迫る。
「ただでは負けん。我が同胞のために少しでも人間の数を減らしてくれる、死ね!」
エグゼトは手に不気味な黒い炎を纏わせるとメテオに飛ばした。
テルルはエグゼトを攻撃をしても止められないと判断し、急いでメテオの間に入り、盾となって防いだ。
「きゃああああっ」
エグゼトは目の前で黒い炎に包まれるテルルを蹴り飛ばし、すかさずメテオも蹴飛ばした。
壁に激突したメテオはなんとか意識は保ったものの、痛みと息苦しさに朦朧とする。
(苦しい、全身が痛い、意識が朦朧とする。俺はもう死ぬのか? テルルは……テルルはどうなった?)
どうにか意識を振り絞り、視界がぼやけながらも痛々しい火傷を負ったテルルの姿を遠くに見つけた。その姿はピクリともしない。
「テルル…待ってろ、今、回復してやる」
自分の回復を優先すべきだが朦朧とした意識と焦りで頭が正しく働かない。動きを一切見せないテルルの元へ行こうと試みるものの、骨が折れていて体が動かせない上に激痛が走り力が入らない。
その間にもエグゼトが確実に息の根を止めるためにテルルへと近づいて行く。
(やめろ、テルルに近づくな! くそ、俺の体、動け!)
焦りが思考を乱し、落ち着いてはいられない。メテオの回復魔法では怪我は治せても死者は生き返らない。
死なれたら終わりだ。
無情にもエグゼトはテルルをもう一度強く蹴り飛ばした。
壁に激突したテルルは地面に落ち、転がった。
「さすがにこれで死んだだろう。さて仲間を少しでも生かして帰さないとな」
エグゼトは雑魚のメテオの相手をする暇はないとばかりに討伐隊と戦っている仲間の元へ急いで向かった。
「嘘……だろ……?」
メテオは絶望した。と同時に落ち着きを取り戻した。
すぐにでもテルルの傍へ行きたい。そう思い、まずは体を動かすために自らに回復魔法を掛けることにした。
「女神様、我を苦しみから救いたまえ」
詠唱すると魔法が発動した。
メテオの全身が薄っすらと光ったと同時にテルルの体も同じように光った。
「え? どういうことだ?」
もう一度、自身に回復魔法を掛けるとやはりテルルの体も薄っすら光った。
動けるようになった体でテルルの元へ駆け寄ると、怪我一つないテルルの姿があった。
「まさか俺を回復するとテルルも回復するのか? そういえば前にも似たようなことが……」
前に「無限出血」の検証をした時、石に血で描いた絵が光ったことがありその事を思い出した。
「メ……テオ?」
テルルは目を覚ました。実はあれほどの攻撃を受けたにも関わらず火傷以外の傷はなくただ気を失っていただけだった。
「テルル! 生きてた!!」
メテオは嬉しさのあまり抱き着いた。
「生きてるよ! ちょっと息苦しいから離れてくれると嬉しいんだけど!」
「あ、ごめん」
「それよりもあのデカい魔族はどうなったの?」
二人は急いで討伐隊の所へ向かった。