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畑に着くとメテオは明らかな異変に気付いた。
「今日はひどい荒れ方してるなぁ……」
いつもなら雑に軽めに荒らされているのだが、今日は人為的だと感じた。
なぜなら収穫前の作物が綺麗になくなっていたからだ。
「安全な仕事のはずだったんだけどなぁ……」
この辺で畑を荒らすのは小さな弱い動物くらいのため弱いメテオでも依頼を受けることができていた。
不安が一気に湧き上がる。相手が人間となるとメテオより強い可能性が高い。
「犯人は人間だと思う。危険だからテルルはここから離れた方がいい」
「人間……うん、でも大丈夫。今日の私はいつもと違うから大丈夫だよ。一緒に協力して悪い人を捕まえようよ」
「俺は弱いから何かあっても守れないぞ」
「逆に私が守ってあげるよ。今日の私は満腹になるまで人間の血を摂ったから力がみなぎってるんだ。泥棒程度の人間になら絶対負けないよ」
自信とやる気を見せるテルル。
(吸血鬼ってもしかして強いのかな?)
メテオは彼女が人間とは違う吸血鬼ということもあり、その言葉を信じることにした。
* * * * *
農場を慎重に進み、犯人らしき3人を見つけたメテオはその容姿に寒気がした。
「あれは、人間か? いや絶対違うよな……」
人間とほぼ同じ容姿、額の生え際には1対の角があり、目は白い部分が無く全体的に黒で瞳孔は血の様に赤い光を薄っすらと放っている。
メテオはその不気味な姿に怖気づいたのか体の力が入りづらくなっているのを感じていた。
「あれは魔族だね。でも今日の私なら余裕で勝てるよ」
テルルはそう断定し、メテオとは対照的に余裕を見せる。
メテオは今までに見たアニメやゲームでは魔族は危険な存在として描かれてきたので、もしやこの世界でもそうなのでは、と弱気になった。
「あれが魔族?! あれを相手に戦うのは流石にマズいんじゃ――」
「大丈夫大丈夫! ちょっと倒して来るね」
テルルはコンビニにでも行くくらいの軽さで飛び出た。
翼を広げ軽やかに空を滑り急速に魔族に迫っていく。
間合いを詰めると膝を魔族の顔にめり込ませ、額の角を掴み、その魔族を武器代わりに軽々と振り回し、他の魔族を破壊していく。
「すげぇな……というかやり過ぎじゃない?」
その光景にメテオはテルルに対して恐怖を抱いた。
「なるほど、吸血鬼が迫害されるわけだ。怖いもんな」
吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になる上に、これだけ強いなら暴れ出したら手がつけられない。なら迫害されても仕方ないなと納得した。
だからといってテルルから距離を置こうとは考えない。彼女が人間には好意的で敵意が無いからだ。
なので敵意が向いてしまわないように人間である自分が支えてあげれば大丈夫だろうとメテオは考えた。
「うりゃああぁぁ!」
テルルは武器代わりの魔族を地面に思いっきり叩き付けた。何度もしつこく。
そして魔族は完全に動かなくなった。
テルルはメテオに近づくと――
「他にもいないか探して来る」
そう言って飛び立った。
* * * * *
「何人か逃げられたけど、もう近くにはいなくなったよ」
テルルは4体の魔族の屍を持って戻ってきた
それを一か所に集め、最初の3体の上へ雑に積み上げる。
「今までこの近くには魔族はいなかったはずだけど、ここまで侵攻してきてるのかもしれないね。近くに魔族の拠点が出来てるかもしれないよ?」
テルルが真剣な表情で告げる。
メテオはまだ魔族の事情はさっぱり分からないが、侵攻という言葉から人間と争いでもしてるのだろうと予想した。
「魔族とは仲良くできないのかな? テルルみたいな優しい吸血鬼もいるわけだし、そういう魔族だっているはずなんじゃ」
そんな考えをテルルは不快そうに否定した。
「魔族は魔族以外は敵って認識だから無理だよ。私が人間に友好的なのは人間に優しくされたことがあるからなの。魔族は助けても恩どころか仇で返すってたくさんの人から聞いたよ」
「そうなのか、同じ扱いしてごめん」
メテオは嫌な思いをさせてしまったかもとまずそうな顔をする。
テルルはメテオの様子を見て焦り出す。
「あ、えっと、私はメテオのそういう優しい所好きだよ! でも魔族は本当に危険だから油断だけはしないでね。メテオの身に何か起きて欲しくないから!」
テルルが身を案じてくれてるだけなのだと分かりメテオは安心した。
「ありがとう、覚えておくよ。さて、これ以上見回るのは危険だから俺は一旦ギルドへ報告も兼ねて戻るとするよ」
魔族の屍を運ぶには数が多すぎるためその場に置き、二人は町の近くまで一緒に移動したあと解散した。