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 見上げるとコウモリのような黒翼の黒いドレスという黒づくめの少女がちょうどメテオに向かって落ちてきた。

 メテオは受け止めたものの、レベル2の低い身体能力では耐え切れず背中から勢いよく倒れる。


「ぐへぇっ」


 背中とお腹に強い衝撃が加わったメテオは思わずそんな声が漏れた。

 回復魔法で痛みを抑えた後、お腹側に乗ってる少女を優しく退かした。

 すぐさま彼女の様子を見てみるものの動きが見られない。


「おい、大丈夫か」


 回復魔法を掛けるとようやく目覚めた。


「あ、うぅ……お腹空いたぁ~」


 少女は仰向けのまま悲痛な声で訴えた。

 メテオは何日も食事にありつけてないのだろうと察した。


「ごめんな、今は何も食べ物はもってないんだ。俺の家まで来れば少しくらいならあるけど、来るか?」


 少女はパッと大きく目を開くと慌て始める。


「あ、人間?!」


「そうだけど、君もそうじゃないの?」


「吸血鬼ですよ、私は! いややややや、それよりも突然ぶつかってごめんなさい!」


 少女は土下座で謝罪を始め、途中でコテンと横になった。


「あ、うぅ~、血をくださいぃ~、力がでないぃ~、お腹空きましたぁ~、助けてぇ~」


「吸うか?」


 メテオは吸われるってどんな感じだろうかという興味も兼ねて腕を差し出すと少女は過剰なまでに拒否反応を示す。


「ぎゃあああぁぁぁ!! 吸いませんから、吸わせないでください! 君も吸血鬼になっちゃいますよ!」


「え、そうなんだ?」


「それもあって吸血鬼は人間から迫害されてるんですよ! もし君が吸血鬼になりたかったとしても私たち吸血鬼が悪く言われるんで拒否します! ということなので代わりの案として私は口を開けとくので血を40滴くらい垂らしてもらってもいいですか? それなら大丈夫なので! それではお願いします!!!!」


 少女は仰向けになり、口を開いた。

 無防備で間抜けに見える姿だが、メテオは別の事を真面目に考えていたため気にならなかった。


(迫害ってことはこの子は危険なのか? でも全くそんな風には見えないんだよな。この子以外の吸血鬼は危険なんだろうか)


 助けたかったが危険と聞き、断ろうかと悩む。

 しかしどう見ても悪い子には見えないのでやっぱり助けることにした。


「たったの40滴ぽっちでいいのか?」


「あ、うぅ~……本当はもっと欲しいんだけど、君の体に影響が出るかもしれないのでこれだけで我慢します」


「遠慮しなくていいぞ、俺は無限に血が出せるからな」


 メテオはナイフで手首を軽く切った。アビリティの効果を確認するために何度も切っていたためあまり躊躇ちゅうちょはない。

 一瞬だけ痛みが走り顔を顰める。ちょうど良いくらいの深さで切れたので垂れる程度に血が溢れだし、少女の口の中に落ちていく。


「あぁ~生き返るぅ~、やっぱ人の血は最高だね~ゲホッゲホッ……喋ったら気管に入った、ゲホッ」


 40滴を超えてもメテオは腕をそのままにした。少女もまだ足りてないのかそのまま口を開き続けた。


 * * * * *


「ありがとう。も、もう、満ぞ……くうぷっオロロロロ」


 満腹になった少女は立ち上がるとお辞儀をし、そのまま赤い液体を吐き出した。

 赤く染まった地面を見て「あぁもったいない」と嘆く。


「吐くほど血なんか飲みたいものなのか?」


「だって、人の血を飲み放題できる機会なんてないんだもん! あ、せっかく大切な血を吐いちゃってごめんなさい!!!!!」


 メテオは少女の元気そうな姿を見て安心し、微笑した。


「役に立ててなにより。俺も自分のアビリティがまさか役に立つなんて思わなかったよ」


 血を欲しがる存在なんて蚊やノミのような虫くらいだと思ってただけにメテオは『無限出血』に可能性を感じ始めていた。


「吸血鬼からすれば夢のようなアビリティだよ! あ、そうだ。私の名前を憶えてくれると嬉しいなぁ、テルルっていう名前だよ」


「俺はメテオだ。吸血鬼の食事って人間の血じゃないといけないとかあるのか? それともあんなに腹を空かせてたのは単に食べ物がなかっただけか?」


「人間の血以外のものだと徐々に体に不調が出て最悪死んでしまうの。一時的になら普通の食べ物でも大丈夫だけどね」


「人間に迫害されてるなら食料の確保すらも大変なんじゃないか?」


「そうなんだよ~、まぁいきなり攻撃してくる人は滅多にいないしメテオみたいに優しい人もいるから分けて貰えたりはできてるけどね。……それでさ、お願いしてもいいかな?」


 メテオはすぐに察した。


「俺の血を定期的に分けて欲しいんだろ? 近くの町に住んでるし構わないぞ」


 メテオはまだ知り合いが少なく、テルルが良い吸血鬼ということもあり仲良くなりたいと思った。

 テルルの方はようやく飢える日々から解放されるかもと希望の光が見え始める。


「血と出来たら普通の食べ物もお願いしたいなぁ~、なんて。あ、私だけ得をするってのも悪いよね。何をお礼に返せばいいかな? そういえばメテオはこんな時間に何してるの? 冒険者?」


「冒険者だ。駆け出しだけどね。夜の巡回警備で猫とかに畑が荒らされてないか回ってるんだ」


「なら魔物と戦ったりもするんだよね、私も手伝おうか? こう見えても強いし役に立つよ」


 そうは言われても今の貧弱なメテオでも出来る程度のかなり安全な依頼のため手伝いは必要としていない。

 だが一人での仕事が寂しいため一緒にいて欲しいと思ったのでその申し出に喜んで応じることにした。


「本当か? それじゃあお願いしようかな。でもさっきまで調子が悪そうだったし明日でもいいぞ」


「今からでも手伝わせて欲しい!」


 人間との良好な関係を築きたいテルルは恩を確実に返せるうちにさっさと返したいと思った。

 そして二人は静かな森の夜道を農場へ向け歩きながら話を続ける。


「ところでテルルはなんでこんな場所にいたんだ? 近くには人間が生活している町があるし、君にとっては危険じゃないのか?」


 テルルは顔を曇らせ、語り始める。


「迫害とは言ったけど町の中にさえ入らなければ安全だよ。賑やかで楽しそうだからよく空を飛んで眺めてるんだ。私もいつかここで友達作って住めたらいいなーって」


「吸血鬼同士が集まった町はないのか? 同胞の方が安心できるんじゃないか?」


 テルルは頭を横に振った。


「集まる意味がないんだよね。私達って人間の血が必要だから集まれば集まるほど人間の数も必要になって来るし、だからそんな町を作ろうと思っても難しいかな」


「そうか。なら俺で良ければ友達にならないか? えーと……ほら! 人間の友達を作ればそこから繋がっていってさらに人間の友達が増えるかもしれないし」


「いいの? 私、吸血鬼だよ?」


 テルルは嬉しさで翼がパタパタと動く。


「俺は構わないぞ。というか君こそ俺みたいな人間でも大丈夫か?」


「人間の友達欲しいし全然気にならないよ!」


 テルルは人間の友達が増えればいいな、と期待を寄せた。

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