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良いタイトルが思いつきませんでした
「おぉすげー、ゲームやアニメでしか見たことない風景だ。俺、本当に異世界に来ちゃったのかぁ……」
転倒して頭をぶつけ死亡し、異世界でその時の年齢のまま再び生きることになった20代の男。転生初日ということもあり、明らかに日本とは違う石造りの街並や行き交う馬車を珍しそうに好奇心いっぱいに
眺めていた。
「女神様から授かった能力が役に立つといいなぁ」
男のアビリティは2つ。
1つは「無限出血」といい、出血しても血が枯渇しないという体質系アビリティ。よほどのことが無い限り死亡することはなくなるが、役に立つ場面が限定的であまり役に立ちそうにない。
しかしこのアビリティは努力では得られない貴重なものである。
「死ににくくなるだけだと微妙すぎるな。転生前は貧血が原因で転倒して死んだからそんなアビリティをくれたんだろうか」
2つ目はどんな怪我でも治せる回復魔法のアビリティ。
努力すれば誰でも身に着くアビリティで珍しいものではなく、むしろ有用であるため必須ともいえるくらいありふれたものだ。
「回復が出来るんだったら無限出血はいらないよなぁ……まぁいいか」
回復魔法は役に立ちそうだと感じ、それを活用してお金を稼ぐことにした。
* * * * *
「メテオさんの登録が完了しました。今日からよろしくお願いします」
男は「メテオ」という新たな名で冒険者登録を済ませ、ギルド職員から冒険者証と活動のための最低限の武具を受け取った。ギルドの建物は木と石でできた重厚かつ温もりを感じさせる造りで、壁には無数の依頼が貼られ、剣を背負った冒険者たちが談笑している。
「異世界転生といえば冒険者だよな。とはいえ本当に冒険者ギルドがあってホッとした、なかったらどうしようかと思ったぜ。さて、今日から俺の名前はメテオだ。なんか強そうだし、それに前世の名前だと変に思われそうだもんな」
外見は日本人そのものだが、街には似た外見の者も多く見た目で浮く心配はなかった。だが名前は日本人らしさを消した方が無難だと考え、適当にカッコいいと思ってる響きの「メテオ」を選んだ。
それでも浮いている気はしていた。
この世界の様々な名前を知ってから決めようにも人々に名前を尋ねまくっては不審に思われそうだったので出来なかった。
「依頼をこなして稼ぎたいところだけど、俺一人じゃ不安だ。仲間を募集してるパーティでも探してみるか」
* * * * *
「メテオ? 聞き慣れない名前だな。まぁそれはいいとしてお前のステータス、なんだこれ? 初めて見た」
メテオは仲間を募集してるパーティに冒険者登録時に測ってもらったステータスの数値を告げると怪訝な反応をされた。
「それって俺が弱すぎるって意味ですか?」
異世界初心者のメテオには数値を見ただけでは分からないためとりあえずそんな言葉を返す。期待してる反応は『強すぎる』と驚かれることだが――
「当たり前だろ、レベル1ってずっと家に引きこもってでもないかぎりならねぇよ! 名前も変だし。俺達は最低でも10は欲しいの。他をあたってくれ」
どうやら弱すぎるらしい。異世界転生者だし、ただのレベル1ではないことに期待を寄せたがその幻想はあっさりと崩れ去った。
メテオはガッカリしたが平静を装う。
「回復魔法が使えるけど駄目ですか? どんな怪我でも治せますよ」
素人目に見ても役立ちそうなアビリティ。これなら欲しがるはず、と意気込むが――
「みんな使えるし、というかレベル1でどんな怪我も治せるわけないだろ、嘘吐くなよ」
「嘘ではないんだけどなぁ……」
嘘ではないことを証明しようと考えたが、証明出来たところでいらないと言われる気がしたのでもう1つのアビリティに賭ける。
「じゃ、じゃあこれはどうですか。体質系のアビリティなんですけど傷口から無限に血が出ます。きっと役に立つと思います。怪我して血が少なくなった時に俺の血を補充するとか、敵の顔にぶっかけて目つぶしとか――」
「血を補充とかなにそれ怖い。目つぶしってその辺の土ぶん投げればいいし血なんか使い道ないよ。よそを当たってくれ」
その後もメテオは他にも他のパーティに声を掛けるものの受け入れてくれるところはなかった。
「どうやらこの世界ではレベルを上げると強くなるらしいからまずはレベルアップして強くなろうか」
生活のために貧弱なメテオでも出来そうな簡単な依頼をこなしつつレベル上げも平行することにした。
* * * * *
「いたたたた、雑魚の魔物相手に大怪我してしまったな、さっさと治すか」
魔物が動かなくなったのを確認したメテオは血が滴り落ちるほどの怪我を回復魔法で治すことにした。
「女神様、我を苦しみから救いたまえ」
傷口が薄っすら光ると痛みと傷跡は完全になくなった。
「無限出血って回復魔法があると全然意味ないよなぁ。なんなんだよこのアビリティはよぉ」
もしかしたらこの血で何か凄い事ができるのでは、と思い色々試行錯誤してみる。
そのうちの1つ、石に血で絵を描いてた時に何かが起きた。血を出すために傷を入れてたので魔法で治した時に絵も薄っすらと光った。しかしどういう効果があるのかは不明だった。
(レベルが上がれば何かできるようになるのかな?)
それに期待することにした。
* * * * *
1週間程が経ちレベルが2になった。
無限出血に変化はない。
それにしても、たかが1レベル上げるためにこれほどまでに時間がかかることが予想外でメテオは精神的に疲労していた。
「冒険者やめようかな。このペースだと次のレベルまで2週間はかかりそうだ。こんな弱くちゃ経験値もお金も全然稼げない。ゲーム風の世界とはいえここまで現実みたいな苦労させなくても良くない? とは言っても他にやりたい仕事無いからどうしたもんかなぁ」
回復魔法のアビリティがあるので病院や教会で廟承認を癒す職に就くという考えはあったが、前世ではできない仕事がしたいと思い、まだ決心がつかない。
ギルド内の適当な椅子に座り、悩みながら壁を見ていると張られた新聞がなんとなく目に入った。
『占拠された廃城から魔族を排除するために騎士団が派遣される』
「魔族か……強いんだろうな」
アニメやゲームの主人公の様に格好よく戦い活躍したかったが夢に終わりそうだと思い、絶望が湧き上がる。
「ああ!! なんで異世界転生してるのに苦労しなきゃいけないんだよ。もっと使えるアビリティを寄越せよな、クソ女神め!」
『無限出血』アビリティ。異世界では輸血というものが確立していないため、血が枯渇しないことを利用して血を集めても使い道がない。
役に立つ場面はやはり大怪我を負った時くらいだろうけども、回復魔法ですぐ治せるため今のところは使い道がない。
(レベル上げても役に立たなかったどうしよう)
不安がじわじわと心を蝕んでいく。
* * * * *
夜、農場の巡回警備の依頼を受けたメテオは町に近い安全な森を農場方向に向け歩いていた。月明かりが木々の隙間から差し込み、ほどよくひんやりとした風が頬を撫でる。
ふと、空からバサバサという音が聞こえてきた。
「この音はコウモリか? いや、暗くてよく分からないけど人っぽいな、ってなんで空から?!」
見上げるとコウモリのような黒翼の黒いドレスという黒づくめの少女がちょうどメテオに向かって落ちてきた。