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射干玉の髪梳る

作者: 莉央沙
掲載日:2010/02/27

怖くないから読んでがっかりしないでね?

右手を髪の中に突っ込んで、下まで髪をとく。

これは癖。

随分前から髪を伸ばしはじめた。

今は腰につくほどに伸びた。


雪の降る寒いバス停で、する事が無くて暇になったのだろう。右手が毛先を弄くっていた。

左の手は教科書やらがたんと詰まったカバンを支えるので忙しいらしい。

冬は髪が長いと、首や耳が寒くなくていいなぁとボンヤリ考える。

夏は、死ぬほど邪魔。

右手は余程仕事が欲しいらしく、今度は前髪を気にしてみたりしている。

昨日お姉ちゃんにぱっつんにされてしまった。




「前髪長くね??切ってあげよっか」

「あんまり短くしないでね。はねるから」

「まかせろ」

そういったのに、眉が覗くくらにされた。

「ごめんね。ってかウケルはその顔」

「・・・・」




左手が寒さとカバンの重さに嫌気がさしたのか、職務放棄しだした。しかたない。右手に変えてやろう。

持ち替えたら今度は左手が、髪をすく。

やっとのことでバスが来た。

うまい具合に椅子に座れた。




いつから髪を伸ばしはじめたんだっけ??

多分小学の5年生から。

かれこれ六年間伸ばしている。

それまではずっとお姉ちゃんと同じくらいの長さにしてもらっていた。姉妹そろって一緒に美容院に行った。

でも、ある日ふと思った。

「ちょっと毛先整えるだけにして、長さ変えないで下さい」




家についたら、お母さんが珍しく先に帰っていた。

「ただいまぁー」

玄関から台所に届くように叫んだ。

「おかえりー」

台所から声が返ってきた。

教科書の山を自室に放り投げて、宿題に必要なノートしか入っていないカバンを持って居間に落ち着く。

ばたん。

玄関が勢いよう開いて、また直ぐに閉められた。

お姉ちゃんが居間に入ってきて、そのまま台所に向かう。おやつの菓子パンを持って戻ってきた。私の向かいに座る。

「ただいまは?」

お母さんが居間を覗き込んで言った。

お姉ちゃんは『はいはい』と言ってパンをかじった。

私は髪を手櫛ですいた。

お母さんはむっとして台所に戻った。




お父さんとお母さんは、家族で冗談を言って笑いあうときに、お姉ちゃん向かって「不良っこ」と言う。

お姉ちゃんは、世の中の大半の10代女子のする様なちゃんと『今』について行ってる人だ。

「普通だよね?」

高校の三年生のお姉ちゃんは、アイプチでてきぱきと二重を作っていた。

これから塾に行くのだ。

「普通だよ。むしろ私みたいな女子高生の方が珍しいよ」

私は言った。

「鏡かして」

お姉ちゃんが手をだす。

私は手鏡を渡した。

ふとしたら、玄関が閉まる音がした。

お父さんが窓を開けて家の直ぐ外に居るお姉ちゃんに向かって声をかけた。

「行ってきますは?」

お姉ちゃんは自転車を出した。

私は貸した手鏡を自分の方に引き寄せた。鏡を覗き込む。左手が髪をすいていた。




「髪染めないの?」

お気に入りの櫛で髪を梳っていた私にお姉ちゃんは言った。

「染めないよ。今の色好きだし」

「真っ黒でいの?すっごい暗い子みたい。まず顔がそうっぽい」

「うっせー」

私は洗い流さないトリートメントをお姉ちゃんに向かって噴霧した。さっと避けられて、辺りにいい匂いの空気が一瞬漂った。

二人して笑った。




ある日曜、お姉ちゃんが朝早く遊びに出かけた。

晴れていて、空気がきんとしたいい日だった。何時間かして、家に電話がかかった。

お母さんが出て、深刻な声で返事をしている。

受話器を置いた。

「何だったの?」

私は首をかしげた。髪の毛が首をくすぐった。


その日、お姉ちゃんが世界から居なくなった。




雪がある中を、歩くのがメンドくさがったお姉ちゃんは自転車に乗って出かけた。

晴れてはいたが、地面は凍っていた。自転車のタイヤがとられて転倒した。

打ち所が悪かったらしい。

私は、ちょっぴり泣いた。




お葬式も何もかも全部終った日に私は美容院に向かった。

春が近くなって、天気の日が続いていた。

美容院につくちょっと前に、腰まで有る自分の髪を手ですいた。

耳の脇から、胸辺りまでするする手が降りてくる。

何度か梳って髪に頬を寄せるようにして首を傾げて呟いた。

「長い付合いだったね。ありがとな」





私が髪を伸ばしたの、願掛け、と言うとちょと違うがそんな様な、ものだった。


私は、お姉ちゃんが好きでは無かった。

『姉』という存在を嫌ったのではなく、あの人の人間としての中身が私はどうしても相容れなかった。

親や、目上の者を敬うこと忘れていた。

ご飯を食べるのに、『いただきます』を言う意味を忘れていた。

『ありがとう』を言えない人だった。

外を飾って、中身を省みない人だった。


私は、今の子供が、お礼を言ったり頭を下げることが出来ないという話を聞くと、息苦しくなった。

家族として側に存在するあの人の行動は、息が詰まった。


姉妹としては確かに、笑いあったりした。


それでも、どうしても、人間同士としては絶対に交われない人だった。

小さい頃はお姉ちゃんの真似をしていた。

大きくなって、考える事が複雑になった時にこの人と居るのは苦しいと思った。

私は髪を伸ばし始めた。

あの人と、ちょっぴりどこかをずらして、姉妹として仲良くしても、それは違うのだという自己主張、象徴のようなものを得るために。





私は、美容院を出た。

いつも担当してくれる美容師さんが見送って手をふっていた。私も手を振った。

よく晴れていた。

少し気温が上がったのか、道路のアスファルトは乾いていた。

屋根の雪が溶け出して雨に似た音が聞こえる。水色の空に白い雲があった。もこもことし影の部分は日にあたってオレンジ色になっている。

すっと、風が吹いた。

風はまだ冷たかった。

肩につくかつかないかの長さになった髪が揺れた。

首がすうすうした。

肩を竦めた。

いつもの様に髪を手櫛ですいてみたら、すとんと、あっという間に手は仕事を終えた。

また髪の毛を伸ばす理由を考えてみた。

特に重要な事柄を発見できなかった。

また風が吹く。


「世界平和でも、願ってみようかな」


短くなった髪を指でくりくりいじってみた。


これは、どんなに仲良さげにしていても、その実内心トンでもない事を思っているもんだ的なことが書きたかったのです、、、、


自分の脳みその量が気になる出来ですね。


で、でも『私』の発言とか行動にイロイロ意味を持たせてみたりしたんですよっ、ただ僕の精一杯は小さかったの。

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