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穏便に婚約破棄すればよかったのに。そもそもその日にもその日にも現場にはいなかったので無理です!え?うちの国まで謝りにくる?来なくていいですけど

作者: リーシャ

「お前との婚約は破棄する」


そう言ったのはこの国の公爵子息。


名前は知ってるけどもうどうでもいい。


全てを諦めた。


というより、全てを投げ打つことにした。


彼はこの婚約が何のためになされたのか塵にも理解していない。


「あー、了解です。契約破棄承りました」


ここがパーティーのど真ん中じゃなかったらまだマシな未来になったんだろう。


しかし、こんなにバカにされて駄々を捏ねる理由も価値もない。


もっと穏便に破棄出来なかったのか。


まともな証拠が そもそもあるのか。


バカな男を一瞥してパーティー会場を去ろうとすると横並びになる陰。


「いいのかミルミア。あの公爵の息子、何も知らない風だ」


「いいんだよ。トイフル。勉強不足だった本人と、勉強させなかった親の責任だもん」


別に好きじゃなかったし、と付け加えて、屋敷を後にした。


翌日、王城から使者がやってきて王宮に来るよう言われたので何食わぬ顔で行く。


昨日、帰って直ぐに母国の父に破棄を望まれたと便を送ったから隠す事も無理だ。


というか、なんで呼ばれるのだろう。


何かした覚えは一方的な破棄だけ。


被害者が動くなど、被害者意識を全く考慮してくれない。


そこら辺、成長してほしい。


非があるのは公爵子息だけなのである。


トイフルも証人として連れて行く。


彼は嬉々として楽しそうだと笑みを浮かべ、馬車に揺られる。


王城に着くと王城だけは立派なんだよなあ、と感想を抱く。


子息がパーティーで大々的に破棄すると言い出したのは恐らく再度婚約を結ばせないための念押し故だろう。


溜息を吐きたくなったのは致し方ない。


「不幸が来るぞ。辛気臭い顔だ」


「目の下に黒子があるトイフルにだけは言われなくないよ」


そういえばトイフルの紹介がまだだった。


彼は同じ公爵の爵位を持つ家の長男であるトイフル。


こっちの国に来るとき、留学してきたので寂しさが吹き飛んだ。


慣れるためにこちらの国に来たのだから皮肉なものだ。


婚約破棄されて嫁ぎ先があるのかどうか。


因みにトイフルはイチーカという妹の婿を跡継ぎにしようとしているので婚約者は居ない。


彼の両親の物分りが良すぎて驚いた。


彼曰く王宮使いの医師になるから平気との事。


それでいいのかオーシャンサ家。


「着いたぞ」


扉の前に着いた。


深呼吸して背筋を伸ばす。


いくら破棄進言の時は堂々としていたとはいえ、王の前となると胃も痛くなる。


緊張のこの感覚が何よりも苦手というか嫌いだ。


自室で編み物でもしているのが性に合っている小心者なのだ自分は。


只、破棄をした事がアホらしくて小心すら抱かなかっただけ。


もう一度呼吸をして少しでもミスをなくそうと意気込む。


此処は公の場。


ゆっくり扉が開くと足を前へ進ませる。


「!」


ゆるりと下を向きつつ進み、上を向くと元婚約者の姿と見慣れない女性の姿、そして、婚約者であった男の周り、強いて言うならば女性を囲むように居るのは彼の近くに毎回居たと聞き及んでいる面々。


子爵や第一王子まで、その揃い方はかなりバラバラな異様さ。


怪訝になりそうな顔をハッとさせて無を貫く。


しかし、どうした事か睨まれている。


こりゃ、トイフルから聞いた話はマジなようだ。


彼に馬車の中で唯一向こう側にいる令嬢、没落貴族の平民を虐めて不当に貶めたらしい、と言われたので。


それが噂となり、令嬢がそれは事実だと彼らに泣きついたらしかった。


全くの無実だ。


そんな事はやってない。


だというのに彼らのミルミアを見る目と言ったら。


まるで親の敵を見るかのように冷たく鋭い。


憎悪が肌に刺さってしまい吐きそうである。


全く、政治を仮にも担う男達が騙されるのは圧巻の一言に尽きる。


手並みが鮮やかであるのだから、彼女の方が実は後ろ暗い政治には向いているのではないか。


王はどう判断し、何を言うつもりなのか。


少なくともこちらを無下に扱う事はない筈だ。


「今回の騒動。誠に申し訳なく思う」


王がギリギリのところを縫って謝罪してきた。


どうやら無実なのを確信しているらしい。


まぁ謝っても婚約なんてもう結ぶ気は無いけど。


「承りました。婚約破棄も承知したのでよしなに」


もう許す気はない。


謝罪をするべき人間がまだ謝ってきて居ない。


こちらの会話に噛み付いてくる王子。


「王!…………このような女に謝罪など何を考えておられるのです!」


王子にこのような呼ばわりされる覚えがない。


眉間にシワを寄せる王は息子を強く睨みつける。


「お前はいつの間にそんな言葉遣いをするようになったのだ?身を弁えよ」


「しかしっ、この女は不当にサラハリーアを虐めたのですよ!?」


え?


虐めてないけど。


いつの話だろう、それ。


「ほう?そのような事がいつ頃あったのだ?事細かくもう一度述べてみよ」


「七日前に階段から落とされ、十日前には怒鳴りつけ平手で頬を打ったとの事を聞き及びました」


「だから私は、そのような女と結婚したくないので婚約を破棄させていただきました」


公爵子息の言葉の裏にはそんなデタラメな真相があったのですね。


デタラメを信じるなんて。


裏取ってないよね。


「それを見たものは?」


「居ます。私です」


魔法使いみたいなローブを被った男が前に出る。


何を見たのか是非聞きたい。


「グゥ、フフ、笑いを堪えられる試しがない」


トイフルが小声で言う。


公の場だから控えてくれ。


でも、笑ってしまうのは仕方がない。


かく言う自分も内心この馬鹿馬鹿しい見世物には見ているだけで本が書けそうだとちゃんちゃらおかしくなる。


「見たというのは何をだ?」


「サラハリーアが階段から落ちていたところをです」


ふうん、落ちていたところを、ねぇ?


それ過去形っていうか、証拠でもなんでもない。


強いて言うなら現行犯でもない。


寧ろそれは事実を見たというだけの何の証拠能力もないと思う。


ミルミアがやったという証言でもないし、それはあくまで推理という名の濡れ衣行為だ。


彼らはそれを信じ込んでまんまと騙されてる。


こりゃ、呼ばれるのも致し方ないかも。


王は彼らをコテンパンに論破していく算段なのだろう。


それに付き合わしてしまう謝罪がさっきのに含まれていると思われる。


王も王で状況を把握出来なかった事を悔やんでいそうだ。


大事な契約を私情、それも勝手な思い込みで破棄してしまったのだから頭が痛いのだろう。


もう関係ないけれど。


トイフルも隣で楽しそうに聞いている。


どうやら笑えそうな沸点は落ち着いたようだ。


「それで何故犯人が己の元婚約者だと?」


「サラハリーアが泣きながらに突き落としたのが彼女だと訴えてきたのです。良くもこんな非道な真似が出来たものですね」


睨みつけているのはメガネ男子。


睨まれる謂れはないので無視しておく。


精々好き勝手に言って、後で罪悪感に苛まれるがいい。


ニヤリとほくそ笑むのは心の中。


「それについて反論はあるか?」


一応言わせてもらえるのね。


「ええ。あります。サラハリーアさん……だったかな?貴女は私に突き落とされたり打たれたりしたと言い張るの?」


「セル・サラハリーア。答えよ」


王の厳しい声が聞こえる。


それは最後の確認だ。


王が確認するという事は、決まるということ


「はい…………貴女に私は酷い事をされました。ちゃんと覚えてますっ」


言質もらったー。


「では、沙汰を告げる」


その言葉に王子側が勝った!という顔を隠す事無くこちらを見る。


残念ですがそうはならない。


「セル・サラハリーア。汝の証言は虚言と判明し、汝は修道院へと送る」


「え?」


サラハリーアのドヤ顔が崩れる。


「だが、その前に今回の騒動の沈静化を命ずる」


それは過酷っすねー。


王子達も唖然としている。


「な、何を……王、サラハリーアは」


「今言った事は全て事実。裏付けすら碌にしていなかったお前達とは違い、我らは調査を行った」


そして、王子達にも沈静化を命じてこの場はお開きとなった。


城を出るとトイフルが笑みを浮かべて喉を震わせる。


笑いが収まるのに少し時間を要した。


「馬鹿過ぎるなアイツら。十日前だろうと七日前だろうと三日前だろうと、お前はこの国にすら居なかったのに、なぁ?」


トイフルの言う通り、ミルミアは二日前まで故郷の国に里帰りしていた。


父も母も喜んで迎えてくれた。


だというのに、何て愚かな男達。


あのサラハリーアはしっかりミルミアが危害を加えたと言ったので今更人違いでしたとは出来ない。


婚約破棄を発生させといて。


溜息を吐いて、これから帰国する準備をまたしなければと思案。


「良かったら、だが」


トイフルのぽつりとした声に向く。


「おれの嫁になるか?嫁ぎ先が下手したら無いかもしれねぇしな」


「醜聞に塗れてるのに?」


「まぁ、これから嫌でも公爵のあの男が誰を捨てたのかはジワジワ余波が起こる。心配はないと思うがな」


だから、この国から出るのを急ぐのだ。




***




公爵子息(元婚約者)side




隣国の隣国という若干距離のある国の公爵令嬢と婚約したはいいが、遠いので会えるのも数える程度。


花やメッセージカードでやり取りをしているものの、味気なさを感じていた。


学園に入る歳になって、未来を担う権力者の子供と良く交流をした。


それから三年後、婚約者が入学してきた。


その隣で話す男子生徒と仲が良さげで、話に聞けば、同じ故郷の幼馴染みとか。


別に愛とか恋とかは抱いていないから何とも感じない。


向こうも友達という距離感なのは見ていて理解してはいた。


それが、風化し始めた頃、転機が訪れる。


サラハリーアという綺麗な少女。


きめ細やかな肌、透き通る髪。


ふんわりと香る香水に夢中になった。


メッセージカードを送るのを疎かにしてしまう程。


婚約者からどうしたのかという事を聞かれて少し後ろめたさを抱きながらも忙しいと誤魔化した。


やがてライバルが増えて色々と周りが見えなくなってきたのは当然。


競うのは当たり前、囁くのも気を引くのも大変だった。


王子なんて宝石を持ち出したから取られると焦るに焦った。


その時、サラハリーアが苛められていると訴えてきたので詳しく聞くと、犯人はなんと自分の婚約者であるミルミア。


放ったらかしにしてしまっていたので怒るのも当然だと反省したが、突き落とされたと聞いた時は流石にやり過ぎだと憤った。


第三者からすれば憤るのも見当違いらしいが。


直ぐに彼女の所へ言ったが留守で、翌日も留守。


逃げたんだと思って彼女へ手紙を送った。


しかし、帰って来なかったので怒りは徐々に膨れ上がる。


漸く見付けて、勢いで婚約を破棄すると述べてから、後悔する事もなく、寧ろ喜びが生まれる。


これで堂々とサラハリーアに婚約を告げれる、と。


破棄して翌日、王から呼び出された。


婚約破棄の件についてだろう。


違反ではあるが、理由さえ分かってもらえればきっと許してもらえる筈。


そう思って胸を張り王城へ登ると待っていたのは難しい顔をする王とその側近が集結していた。


何事かと事の異様さに内心動揺していた。


こんなに重鎮達が一同に集まるなんて、余程の事態にならないとこうはなるまい。


彼らはこちらの事情聴取を始め、サラハリーアは涙ながらに訴えた。


それに悔しさと正義感が生まれた。


だが、王達は全く表情筋が動かない。


こんなに女性が悲しんているのに何故同情しないんだ。


公爵子息のこの発言は政治を担う人間にとって全くの見当違いで大間違いだとは気付かない。


学園に通っていて貴族の何たるかを学んでいる筈なのに、だ。


やがて、重鎮達からの視線から開放されたので無意識に息を吐く。


その次はまた数時間後待たされて漸く王座の間に呼ばれれば、待っているようにとそこで待たされる。


待っていると扉がサラハリーアを傷付けたミルミアと学友の男が共に入ってきた。


女の身で男と居るなんてはしたないと、自分の事を棚に上げているのに気付かず罵る。


勿論此処は王の前なので言葉にはしない。


けれど、これで王も如何に彼女がはしたなく媚びる人間かご理解頂けたことだろう。


王は怪訝になる事もなく、淡々と続ける。


どうしてこうも頑固なのだ。


裁かれるべきはこの女。


その意を以てして相手を睨みつける。


既に未来を歩む事もない。


存分に振るえる。


「睨みつけているわ。怖い…………守って?」


小さな声で殿下に寄り添う彼女を見て腸が煮えくり返る。


どうして自分を頼ってくれないのだろう。


酷く自分のプライドが刺激されていく。


次こそは彼女の気を引こうと意気込んだ。


それが叶わないと知らないまま。







婚約破棄の騒動から数週間。


ミルミアは元の故郷に戻り、トイフルとお付き合いしている。


家族は憤り二度とあの国に援助も慈悲をくれてやるかと怒鳴った。


そして、結婚にケチが付いたというのに、温かくお前の好きにしなさいと言われる。


恐らく次に結婚する相手が狭まるのを理解している故に、心苦しいのだろう。


許嫁の心変わりや、女の気配にはこちらの国の王も眉間に皺を寄せる程。


苦労を掛けたと言葉をもらえて満足だ。


その言葉だけで報われる。


許嫁の国にはやはり抗議しないという選択肢は無く、一方的な契約違反。


長期に渡りミルミアの時間を拘束したとの事で、違約金を払えと王と父が書面を送った。


返事は勿論との事。


そして、これは後から知った事だが、元婚約者の公爵子息から復縁を願う書面が来ていたがトイフルが捨てたらしい。


これは、後から聞いた話なのでとうにケリは付いていると彼は語る。


そして、最後に。


予測していたがやはり国が荒れた。


次期公爵となる予定であった男の浮気と共に愉快な逆ハー達の事が庶民達にバレた。


学園での出来事は何も貴族だけの世界ではないのだから、当然であるが。


それに国民は激怒。


未来ある若者に税金を払っているのであって、浮気する男達の為に与えた物でない、と。


そんな具合になって今、彼らをこのまま次期の地位に就かせれば反乱が起こる。


貴族達の間でそんな話が出ている。


そして、学園であっても話しかけるのがアウト、それを堂々と破り風紀を乱した女にこれ以上学び場を乱されるのはいけない。


圧力があちこちから掛かり、既にハーレム達の親の権力で抑え込めなくなるのも直ぐだろうと言われている。


多勢に無勢とはこの事。


ダメな事をしてはいけない。


そんなの幼児でも理解できるのにやらないし学習能力がない女。


それが学生達の評価。


中も外にも味方は居ない。


彼等が背負うのは我が国がもたらした資金の回収だ。


借金を背負った。


こちらの国が婚約金として払っていたお金は富に溢れていた。


そのお金が理由ありでもらっていたが、その婚約が無くなり無効になり。


更に使った分を借金として払う事になる。


彼の国はもらった金をとっくに使っていたらしく、全て返してもらうのは不可能。


となれば違約金も含めて彼等は借金を抱え、更に国は国としての機能を失い掛けている。


「向こうの王が責任を負うように命じた時は何の事だか理解していた風には見えなかったが、本当に理解してなかったとはな。つくづく王の教育を疑う息子達ばかりだ」


ある国の公爵が言った言葉が脳裏を過ぎた。


国は衰退の一歩を刻々と刻んでいる。


冤罪なのも証明されているので既に国から謝罪を受けているが許す訳がない。


「ミルミア」


思考に回想を重ねていると名を呼ばれその方向を見ると見慣れた姿が眼に映る。


こちらに来ると抱き締めてきて目を合わせて来る。


何か楽しそうな顔でニヤついていた。


こちらに言いたくて言いたくて堪らないといった様子で目が細い。


「アイツ等、来るんだってな」


「ああ。知ってるよ」


「何だ、知ってたのか」


借金を負う事になってその責任と国を無造作に乱したのだ。


それも加えて前回の事を自ら謝りに来るという事だが、許さない事はトイフルと決めている。


無慈悲に隙無く追い払えばいいが、こちらの国が是非国なりにお礼(仕返し)をしたいというのでサプライズをするのだ。


当日が楽しみである。


トイフルも何やらやっていたのでその関係かと思われる。


ミルミアもお礼をしようと色々吟味している所だ。


こちらに居る家族も腕を奮おうと気張っているし、周りの知り合いもニヤニヤしている。


どうなるのか今から気になって仕方がない。


彼らもきっと直ぐに後悔することになるだろう。


想像に難しくない。


美肌にしようと日々頑張っているので、今日も早めに就寝しようとお布団に入る。


朝、鳥の鳴き声により起きると家に居る家族が花束を持ってきてトイフルからだと微笑ましく言ってきた。


家族に見られるのは恥ずかしかったのでトイフルに手紙で目立たない物にして欲しいと頼まないと。




彼らが来る何ヶ月も前から用意と準備をして、迎え撃つかことにした。


考えるためにかなり二人で熟考したので、その成果が日の目を見られて笑い合う。


トイフルはミルミアは共同での趣味は楽しいと知った瞬間だ。


サラハリーアも来るらしい。


なんで?


なんで来るの?


どうして彼女が共に来るのかわけがわからない。


世間が許さないのは分かるとして一番の加害者だと思うんだけど。


来たら相手を怒らせるとなぜわからない?


しかし、こちらは仕返しができる大チャンス。


一網打尽。


二人でいい機会だなと、ニヤリと笑うのも仕方ないと思う。


彼らが来たと連絡が来た。


顔を見られてもわからないようにして、迎えに行く。


駅前に迎えにいくと、彼女や彼ら達が降りるのが見えた。


栄えた国を見て、唖然としているのを見て取れる。


くすくすと笑みをこぼす。


この国は、周りの国からすればかなり栄えていた。


嬉しさと楽しさに、手をお互いに握る。


ミルミアは元婚約者の謝罪などいらない。


反省のない謝りなど、なんの意味もない行為。


「なっ、なんだ、この国はっ」


「ど、どういうことなのですかっ?」


「やだっ……凄いわ」


サラハリーアなんて、全く反省の顔をしてないよね。


少人数のもので出迎えたという感じで。


一応この国では来られても困る人たちだし。


何かされても迷惑のなにものでもないので。


監視が三人付く。


そのうち二人はミルミア達だ。


どうかやらせてほしいと国に頼んだ。


国の長に近い人は、面白そうだと許可をくれた。


「見てっ、あの建物!あの噂のブランドっ。高級ブティック【スナファ】よっ!」


まるで買いに行きたいと言わんばかり。


いや、謝罪しに来たんだから行くの可笑しかろう?


その中に王子も当然いる。


王子はサラハリーアの言葉に顔を引き攣らせていた。


連れてきたくなかったと空気が物語っている。


騒動で本性がバレて、もう逆ハーレムは崩壊しているのだろう。


元婚約者も彼女から距離を取っている。


もう愛してないと思われる。


馬車は使わせずに徒歩。


道は整備されているので、自国よりは歩きやすい。


馬車がないことに文句を言う面々を案内役がジロリと睨む。


「我が国の令嬢に冤罪をかけた謝罪に来たのですよね?」


「そ、それは心得ているっ」


案内役の言葉にタジダジになる。


それを横目で見遣る。


案内役の人を厳しい人に替えた。


鋭く切り込むタイプ、ってわけじゃない。


うちの国民、住んでる人たちがあちらの国の人達に対して怒っているのだ。


お金を貸したのに返してもらえないし、その婚約者は勝手に罪をおっ被せて婚約破棄するわで、不誠実極まりない。


「あのブティックに行きたい」


「馬鹿言うな」


「なによっ、馬鹿なのはあんたよっ!馬鹿!バーカッ」


「言い合うのはやめろっ」


「やめろっ、やめろ。とめろ!」


「馬鹿なのはお前だ!この浮気女が」


「なによ!婚約者を捨てて私を捨てた時はあんなに高笑いしてたくせにっ」


「馬鹿者達!今すぐ口を閉じろぉ!」


その元婚約者はここにいる。


駅前なので、人が多いんだけどね。


色々準備してきたのに、ここで終わりになりそうな空気というか、雰囲気が漂う。


うまくいく、いかないのレベルじゃなかった。


「もう、破綻してる……」


バラバラのピースを無理矢理嵌めて運んだから、運んだ途端に崩れたって感じ。


ミルミアはふーんと鼻を鳴らした。


トイフルが落ち着けと言う。


泳がせておきたいらしい。


突然言い合いを始めた人達に案内人は冷たい目を向けて歩くように足す。


まるで幼少の散歩風景。


小さな子が喧嘩して歩くみたい。


実際、言い合いする人達に歩く住人達の目は冷たい。


案内人がこの人たちは例の国の人達だとプレートを掲げているので、この人達が婚約破棄事件を引き起こした人達だと知れてしまう。


それを知らない彼らはまだ言い合っている。


王子が収めようとしているが失脚してしまっている王族にはそんな力はもうないと見える。


終わりの見えている旅行だと、彼だけがわかっているのかもしれない。


彼は、謝るためではない。


もしかしたら、国外追放を兼ねているのかもしれないと思っている。


この国に追放することなど、余計に怒らせるからありえないけれど、そう思ってしまうほど追い詰められているのだろう。


しかし、今の状態なら追放ほどの罰では済まない。


ふざけるなと、こちらは声を大にして言いたい。


彼らはブティックを横切る。


サラハリーアが入りたい入りたいと言い募る。


それに入らない、今から謝りに行くのだと言い返すのは王族の彼。


王族から、外されるか外されないかの瀬戸際らしい。


前にミルミアを糾弾したので、外される一択。


あの時、しっかり調査しておけばよかったのにね。


自業自得。


「入りたーい!」


「入らない!我々はっ、かの令嬢にっ、謝罪を!」


王子が念押しするように言うが、サラハリーアはハハッと笑みを浮かべる。


歯を剥き出しにして醜く。


「あの女がなんだって言うのぉ?ただのブスが振られた負け惜しみで国をメチャクチャにしただけじゃなぁい?」


「ほお、お前の本心はしっかりこの耳が聞いたぞ?」


トイフルがミルミアの容姿に言及して、火の粉を振り払ったことにまでこちらのせいにした。


そのことで怒りが頂点になった彼がもう我慢の限界だったのか、予定にはなかったことをする。


袖を引いたが「もう無理だ」と我慢の利かない様子を呈する。


「いいの?」


「いいのですか?トイフル様」


案内役も首を傾げて確認。


「ああ。もう無理だ。こいつら、他国に来てまで内輪揉め。血が流れないうちに送り返せ」


確かに。

今まで引き離されていたからここに来て遅い言い合いに発展しているのは。


隔離されていたからに他ならない証拠。


同じところに押し留めてどちらか、または互いに血を流すことになる予測は、的を射ているように聞こえた。


ここでこんな物言いで言い合うってこと、ここに来るまでまともに話し合ったり、言い合ってこなかった内容だ。


「あっ、あの負け犬女の隣にいたかっこいい人っ!」


「負け犬って私のこと?」


「いや、負け犬はこの女だ」


「サラハリーアっ!謝れ!この方はっ。この国では貴族子息だっ。君にとっては雲の上のような存在であるぞ!」


ただ話しかけただけなのに、と膨れっ面を表す女に周りは呆れ果てている。


そっちの国よりもこっちの国の方が国力が強いし、借金を借りていているので、実際の爵位は高い。


あちらの国での男爵とこちらの国の男爵は同じじゃない。


「じゃあ私も」


例えば公爵であろうとこちらの国からすると劣る上、低い爵位扱いになる。


「き、君は」


国力が違えばそういった扱いも変化する。


元婚約者が被っていた帽子を脱ぐとこちらのことに気付く。


「ああ!ブス女じゃん!」


「てめえ」


トイフルの額に青筋が浮かぶ。


「す、すみません!」


王子とその他のもの達が謝る。


けれど、トイフルは怒りの波動を止めない。


「サラハリーア!謝れ。処刑されてもいいのかい?」


王子に脅されてサラハリーアはくふふふ、となぜか笑う。


「なぁに?私を処刑?知ってるんだから。あなたってもう王族じゃなくなるらしいじゃないの」


「さ、サラハリーアっ」


青ざめる王子に青ざめる面々。


王族云々はなくなるとは思うけど、貴族の枠にはハマるよね。


でも、彼女はそもそも平民なんだよ。


爵位が低いからすでに学園に来た時には貴族籍を抜かれていると聞き及んでいた。


ということは、彼女は元令嬢だから現平民。


「あの女、学園にいた感覚にまだあるのか」


トイフルは怒りながらも、考察はやめないという器用さを披露してくる。


うん。


王族を馬鹿にできる爵位は初めからなかったけど、今はもっとできなくなっている。


「サラハリーアっ!?」


元婚約者がサラハリーアの発言を受けて、青ざめつつ怒りを溜めていく様をまざまざと、何故か見せつけられていた。


「なによ?全員私と同じ立場じゃない!私を選んで婚約破棄したくせにっ。ふふふ!」


もしかしたら彼女は、心が壊れてしまっているのかもしれない。


最近までどこにいたのかは知らないが、平民になった彼女がどんな生活をしていたのかはなんとなく、想像できた。


「やっぱりあの女やべーな。早く帰そう」


彼女だけ帰す選択もあるが、どこかに消えられても迷惑。


となると、全員で帰ってほしい。


「お前ら。その女はもう放置しろ。おれ達に謝りに来たんだったら好きなだけ謝って駅に行って帰れ」


トイフルが告げると王子達が頭を下げる。


サラハリーアはくふくふ笑って「頭を下げてるっ、貴族様があ」とケラケラ笑う。


「サラハリーアはしなくてよろしいのですか?」


他の男が尋ねてくるが、心を壊しているらしい彼女に謝られても心にトゲが引っかかるだけ。


「いらん。謝ったし気が済んだろ。帰れ」


指を駅にやって、向こう側を示す。


歩いて十分なので、僅かそれだけで駅に戻れる。


また見送りするために踵を返す面々。


「ゆ、許してもらえたのか?」


「よ、よかった。これで除籍が免れられる」


「ねえ、サラハリーア、ブティック行きたいわ?」


「お前はもう平民だからそんな資金ないだろ」


許す許さないのお話じゃ、なかった。


ミルミアとトイフルと案内役は、内心許されるわけがないだろうと、思ったが居座られるのすら嫌気がさすとの予感に言うことはなかった。


許すと一言も言ってないし、帰れと言ってこの国の王に挨拶しないで本気で駅に向かう短略な思考に、呆れ果てる。


王子も王子で不安そうにこっちを見るのならば、はっきり聞けばいいのに。


列車に乗るのを確認する。


向こう側の監視人は、最後まで口を挟まなかった。


あれを見ていると、彼らの最後を決めようとする、国からの審判っぽい。


せめて、ミルミアが罵られた時に止めればトイフルや案内役の怒りを止められたかも知れないのに。


今回は子供だけ来させた。


無責任な気がする。


あの監視人は、王家や貴族の意思を汲んだ存在なのだろう。


そうならば、あの監視人が彼らを諌めるべき大人の立場だと思う。


チャンスもやれないってことかな。


こちらは許さないけど、向こうの国はいくらでもやり直す機会をやれる。


借金は国の借金。


そこは国のトップが責任を持つべき。


なんとも、大人の身勝手さを見せつけられている気分だ。


「あいつら、なにしにきたんだ」


案内役のものがトイフルの言葉に苦笑する。


「ミルミア様の学園の苦労が目に浮かびます。よく同じ空間にいられましたね」


「そもそもおれ達は、言うほど通えてなかったからな。帰ってきたら急に、婚約破棄を宣言されて面食らったもんだ」


サラハリーアが、変なことを吹き込んだりしたのだろう。


架空の存在を作り出した手腕はまさに、天才的だったのかも。


詐欺の手口も、教育を受ける子息を騙せるほど巧妙だったらしい。


王族の子息だって、騙されてしまったわけだし。


「彼らはどうなるの」


聞くと、良くて 幽閉だろうと告げられる。


サラハリーアはさらに落ちるだろうと言われ、平民より落ちるとはいかにと言葉をなくす。


元々平民のようなものだったのに、更に下級の平民。


さらに落ちるとなると……。


元婚約者はおそらく平民になる、と教えられる。


平民にならなくても、借金のために給料を永遠に吸い取られて自分の手元に残らない状態にされるかもと、トイフルが言う。


「そっか」


「なんとかしてほしいか?」


「もう私だけの問題じゃないしね」


「そうだな」


最終的にそう切り捨てて、案内役と共に近くにあるカフェで休憩しましょうと、お疲れ様会を開くことに。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様」


「お疲れ様!」


パフェが最高に美味しかった。

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― 新着の感想 ―
そもそも婚約破棄は穏便には出来ませんよ。 相手が一方的に婚約という契約を破棄する宣言なのですから。 なのでタイトルの穏便に婚約破棄より婚約解消の方が穏便になると思いますよ。
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