パーソンズ
「ごめん、まった?」
克也の間延びた声に、私は現実に戻って安心した。
「いや、大丈夫。それより、そっちは時間、平気なの?」
私が声をかけるのを聞きながら克也は私の隣に座る。
「ん?そんなに長居は出来ないけど、卯月さんとは久しぶりだからさ。」
克也は嬉しそうに笑い、そして、話を始める。
自分の近況や、現在の研究について。
よく理解できないが、古代日本と神社を調べているようだった。
「いやぁ、やっぱ、図書館は凄いよ、ここの本は、本屋やネットに無いような物があってね、何度読んでも新しい発見があるんだよ。」
克也は嬉しそうにそう言って、それから、やっと私にこう質問してくれた。
「ところで、卯月さんは今、何をしているの?」
私は話した。出来るだけ話をまとめて、そして、一番、聞きたかった質問をした。
「で、チャネリングで、宇宙人に科学的な技術を教えて貰えると思う?」
はい、でも、いいえ、でも、何でも良い。
克也の答えから話を進めようと考えた。
いや、そのどちらでもない答えが帰ってくる方が多いんだけれど。
沈黙が数分…途中で、図書館の閉館5分前のアナウンスがかかる。
克也は静かにポケットのボールペンを取り出した。
そして、一行、カタカナの名前を書いた。
昔見たドラマを思い出した。原子爆弾について教えを乞う役人に、M=MC2 と、アインシュタインがサインする場面を…
胡散臭いのに、なぜか魅かれる…そんなシーンに重なった。
「多分、これで答えは足りるはずだよ。」
克也はそう言って…
我々は、図書館の閉館時間に追われるように別れた。
『ジャック・パーソンズ』
近所のスーパーのレシートの裏に、特徴のある克也の文字でそう書かれていた。
その時は、知らない名前より、レシートに記された克也の買い物リストの方に気をとられた。
豆腐と肉で今日は冷しゃぶでもするのだろうか。