コロッケ
コロッケは、偉大なおかずだと思う。
安くておいしい。
カレーにおそば。和洋関係なく何にでも合う。
そして食費をなるべく抑えたくて、
自炊が苦手な人の一人暮らしにとっては最高のごちそうだ。
チンッ
オーブントースターから焼き上がりを知らせる軽快な音がなる。
「はいはーい!ちょっと待って!」
ミカはトースターに向かって叫び、書きかけだった眉を急いで仕上げ、目の前の座卓に手を付いて立ち上がった。
「ふっふっふー!」
1人不気味な声を上げながら、キッチンに置いてある食器棚上のオーブントースターのふたを開ける。
パンの香ばしい臭いに混ざって、揚げ物のもったりとした甘い匂いが鼻をくすぐる。
20センチほどの白い丸平皿をシンクの食器置き場から手に取る。
トースターの目の前にお皿をスタンバイすると、5枚切りの食パンとその横に並べていたコロッケに手を伸ばした。
「熱っ!」
指に伝わる熱さと格闘しながらちょいちょいと指だけで器用に引っ張り出す。
お皿に食パンが無事乗ると、今度はコロッケ。
食パンの上に無事着陸。
次にミカは食器棚の横の冷蔵庫からお好み焼きソースを取り出すと、座卓に皿とソースを置いた。
「よっと……」
散らばった化粧品を座卓の端へ適当によける。
「よいしょ」
ミカは、口からついてでた口癖に、あっと呟くと、気を取り直してスーツのスカートがシワにならないように正座した。
「いただきます!」
ミカは手を合わせると、ソースに手を伸ばす。
昨日の仕事帰りに立ち寄ったスーパーで、3個250円で売っていたコロッケがパンの上でホカホカと湯気を立てている。
「ふふん」
ミカは得意気に鼻を膨らませると、お好み焼きソースをコロッケにまんべんなくかかるように振りかけた。
そして、無理矢理2つにパンを折ると、一口かぶりついた。
ざくっ……
口のなかに、パンの甘さとソースの甘酸っぱさ、そのあとにコロッケの甘い味が広がる。
「んーっ!おいしい!」
ミカは天井を仰いで、満面の笑みを浮かべる。
もう一口、もう一口と頬張る手が止まらない。
これでざっと100円の朝ご飯。
栄養バランスなんか知ったもんか。
一人暮らしにとって一番大切なのは、簡単でおいしくて、お腹いっぱいになるご飯なのだ。
あとひとつ残ったコロッケは今日の夜、どうしようか。
お蕎麦に入れてコロッケそばにでもしようか。
ミカはぼんやり考えながら、即席コロッケパンを頬張った。