ドミニク様の使用人たち 2
一目見てわかった。
短い銀色の髪は、陽の光を受けてキラキラ輝いている。執事服は、彼の知的な美貌によく合っている。
ステイシーの真似から、パーシヴァルさんは初老の執事だと勝手に思い込んでいた。だけど、実際はまだ若い。しかも、執事服の上からでもすごく筋肉質なのがわかる。
料理長という人は、コック服姿なのですぐにわかった。縦にも横にも大きくてやさしそうな雰囲気。顔も大きくて表情がやわらかい。だけど、太っているというわけではない。顔もたるんでいるわけではない。彼もまた筋肉質。鍛え上げた体格という感じかしら。
三人目は、男性にしては小柄である。だけど、彼もまた筋肉質。シャツと吊りズボン姿で、麦わら帽子が可愛い。
「ステイシー、まずは挨拶だろう?」
「はいはい、パーシヴァルさん。親しき仲にも礼儀あり、よね? おかえりなさい」
銀髪の男性は、やはりパーシヴァルさんだった。
というか、ステイシーの真似は完璧だった。
彼女のパーシヴァルさんの真似を思い出し、おもわず笑ってしまった。
「そのレディは?」
パーシヴァルさんは、わたしに気がついて戸惑っている。
それはそうよね。
「というか、新しい人だって?」
パーシヴァルさんは、眉をひそめた。
彼に大分と近づいているので、その眉も銀色に輝いているのがわかる。
(そうよね。新しい人が来るわけがないのだもの)
わがことながら、他人事のように思ってしまう。
「ええ、そうよ。なにもきいていなかったから、驚いたわ。それとも、もしかしてきき逃してしまっていたのかしら?」
「いや、メイドは雇っていない……」
「パーシヴァルさん、ケイ・サリンジャーよ。ケイ、こちらが執事長のパーシヴァル・マクラウドさん。執事長といっても、執事は一人しかいないけれど。こちらの大きい人は、見たらわかるわよね。料理長のウィンストン・バートランドさん。料理長といっても、料理人は一人なのだけれど。それから、この小さいのは馬の世話係兼雑用係のトーマス・オールドマンよ。見た目は少年みたいだけど、わたしと同年齢なの」
「ステイシー、なんだよ。おれの扱い、ひどくないか?」
トーマスはプリプリしている。
たしかに、彼は少年みたいに可愛い顔をしている。
「いや、待ってくれ。ステイシー、なんと言った?」
「えっ? パーシヴァルさん、トーマスが少年みたいだ、と。だって、どこからどう見てもトーマスは……」
「トーマスのことではない。そこのレディ、あっ、いや、そちらのレディの名だ」
「ああ、ケイ・サリンジャーって……」
「まさか、ローリング帝国の皇女殿下?」
「へっ?」
「ええっ?」
パーシヴァルさんの言葉に、ステイシーとトーマスが顔を見合わせた。
料理長のウインストンさんも、真ん丸顔に驚きの表情を浮かべてこちらを見ている。
「は、はい。ですが、そうであってそうではありません。いえ、そうなのですが、じつは身代わりなのです」
姉である第一皇女の身代わりでやって来たのだと白状した。
どこからどう見ても、「大陸一の美妃」には見えないから。
どうせバレてしまう。それだったら、最初に告げた方がいい。身代わりがバレてまた戦争になるようなら、わたしが責任を取って死ねばいい。
他人をだましたりごまかしたりするより、その方が気が楽だから。
(大丈夫。再度戦争にはならないはずよ)
希望的観測かもしれないけれど、心の中で自分にそう言いきかせた。