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【最終話】「残りカス皇女」、「氷の剣士」としあわせを手に入れる

「あれは、元皇女に思い知らせる為に……」

「そうです。元姉に、『わたしはしあわせなの』と見せつけたかっただけ……」

「二人ともまどろっこしいわ。自分自身の相手への気持ちを理解しているでしょう? いっしょにいたいって思っているでしょう? だったら、なにも必要ない。ドミニクは、『妻になって欲しい』と言えばいいだけだし、ケイは、『よろこんで』と言えばいいだけ。それでオーケー。ハッピーエンドよ」

「そんな簡単にいくものか」

「そんな簡単にいきません」


 王女殿下の無茶苦茶な理論に、ドミニク様と言葉が重なった。


「失礼ですが、王女殿下の言う通りだと思います」

「ええ。参謀の言う通りです」


 これまで沈黙を守っていたパーシヴァルさんとウインストンさんが、突如王女殿下を擁護し始めた。


「ドミニク様もケイ様もおたがいを想っています。そして、必要としています。いいではないですか。婚儀をあげ、夫婦になってから『始める』というのも」

「いや、パーシヴァル。そのような適当なことでいいのか?」

「いえ、パーシヴァルさん。そのような適当なことでいいのでしょうか?」


 パーシヴァルさんの謎理論に、ドミニク様とまた言葉がかぶった。


「息もピッタリではないですか。すでに『だれもがうらやむ王太子夫妻』感が半端ありません」

「ウインストン、それは勝手な思い込みだ」

「ウインストンさん、それは勝手な思い込みです」


 ウインストンさんの謎感覚に、ドミニク様とまたまた言葉がかぶった。


「ほらほら、二人はドンピシャだ。やはり、いっしょになる運命なんだ」

「いや、トーマス。おまえと姉上もドンピシャだし、いっしょになる運命だろう?」

「いえ、トーマス。あなたと王女殿下もドンピシャだし、いっしょになる運命よね?」


 トーマスの謎運命論に、ドミニク様とまたまたまた言葉がかぶった。


 居間内に静寂が訪れた。


 しばしその静寂に身を委ねる。


 だれかが「プッ」とふきだした。いいえ。もしかすると、ふきだしたのはわたし自身だったのかもしれない。すると、みんないっさいにふきだし、そして大笑いし始めた。


 ひとしきり笑うと、心も頭も体も軽くなった。


「ケイ、みんなの言う通りかもしれない。おれは、ある意味臆病だし、考えすぎてしまう。この頬の傷のせいだけでなく、多くの人々を傷つけ悲しませているからだ。だが、それれらも言い訳にすぎない。たった一言、『ケイ、きみを愛している。ともにきてくれないか』と告げればいい。ただそれだけのことだったのだ」

「ドミニク様、わたしも同じです。わたしは、あなたよりさらに臆病です。境遇などを言い訳にしていたのです。たった一言、『ドミニク様、あなたを愛しています。側にいさせてください』と告げればいいだけのことだったのです」


 二人で見つめ合った。


 ドミニク様が両手を差し出してきたので、両手でその手を取った。


「ケイ。おれたちは、これから立ち向かわねばならないことがある。まずは、サザーランド卿だ。彼がいまきみをどうしようとしているかも含め、あらゆる可能性を考慮して対応策を練り、備えなければならない。そして、きみは自分の力を知る必要がある。きみの力は、けっして弱くはない。ましてや不要なものでも。それどころか、一国を護り、癒すだけの力が備わっているのかもしれない。きみはまだ自覚していないだけで、すでに力に目覚めている。使い方を誤れば、きみ自身どころか一国を滅ぼしてしまうかもしれない。そのようなことになる前に、力について把握し、正しく使えるよう学ばなければならない」


 ドミニク様の言うことはもっともである。


 どのような力があるのかはわからないけれど、それを知らなければならない。


「はい、ドミニク様」


 だから、大きく頷いた。


「心配はいらない。不安になる必要もない。おれがついている。いっしょにいる」

「はい、ドミニク様」


 ドミニク様が手をひっぱったので、自然と彼に抱き寄せられていた。


「おれの心身の傷は癒えつつある。それは、きみの力のお蔭かもしれない。だが、それだけではない。きみの心、真心のお蔭でもあるに違いない。ああ、くそっ! おれは何を言っているんだ。自分で自分が歯がゆくてならない。とにかくケイ、いっしょに、おれといっしょに行こう。いや、いっしょにきてくれ。そして、いっしょにしあわせになろう。このレストン王国の全国民たちとともに」


 ギュッと抱きしめられた。


 いままでのようにドキドキばくばくや緊張や不安などない。


 ただただうれしかった。うれしさのあまり、目から涙がこぼれ落ちた。


 それは次から次へとこぼれ落ち、止まりそうにない。


 だけどそれでいい。うれし涙なのだから。


「はい、ドミニク様」


 その一言でよかった。そのたった一言で。


 ドミニク様の胸の中で、その一言をつぶやくだけで。


「駐屯地に知らせないとな」

「みんな、おおよろこびするぞ。しかし、参謀。先に王都に知らせるべきではなかろうか」


 パーシヴァルさんとウインストンさんが笑いながら話をしている。


「だれかさんもそろそろ踏ん切りをつけた方がいいんじゃない? たとえ十男坊の甘えたさんでも、婿にいけるチャンスがあれば逃さない方がいいと思うわよ」

「なんだって? 『さえずり悪女』こそ、もっと素直になって『嫁にもらってください』と頼むべきだろう?」


 そして、王女殿下とトーマスがまたケンカを始めた。


「ケイ、きみを心から愛している」

「ドミニク様、わたしもあなたを心から愛しています」


 大騒ぎの中、ドミニク様にずっと抱きしめられていた。


 この日、「残りカス皇女」のわたしは、ほんとうの家族と真実の愛と永遠のしあわせを手に入れた。


 愛するドミニク様とともに……。



                                   (了)

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいお話でした~!! ステイシー割と身分ある人だと思ってたけどまさかの血縁とは…!!やられた!!はよトーマスとくっつけ!と全員思ってることでしょう。 自己肯定感の低い虐待サバイバーを虐待対…
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