まさかっ、あのステイシーが?
わたしにとって、元お姉様とのやりとりは決闘のようなものだった。それほど勇気と覚悟が必要だった。だけど、ちゃんと立ち向かえた。決闘し、自分では勝利したと思う。
ドミニク様がいてくれたから、彼に勇気をもらったから、お姉様に勝つことが出来た。
決闘の興奮が冷めやらぬ中、落ち着きを取り戻した母屋の居間でみんな揃ってお茶をしていた。
これからのことを、簡単に話し合う為である。
決闘の最中、わたしは無我夢中でとんでもないことを言ってしまった。ステイシー以上に不遜で厚かましかった。謝罪してもしきれない。それほど失礼なことだった。
ドミニク様のことを愛しているだとか早く婚儀の準備をするだとか……。
不遜すぎるけれども、たしかにそれはわたしの本音。わたしのほんとうの気持ち。
これまで蓋をしてきた心の中の真実。
それが、勝手に口から飛び出してしまった。
だから、行き当たりばったりとかなりゆきで出た言葉というわけではない。
ウインストンさんのスイーツ、今日はチョコチップクッキーとダージリンティーを楽しみながらの会話は、いつものようにステイシーが主導権を握っている。
「ケイ。本題に入る前に、きみに謝らなければならないことがあるんだ」
途中、長椅子で隣に座っているドミニク様がそう切り出した。
ドキリとした。どんなことを言われるのか、どうしてもわたしにとって悪い内容しか思いつかない。
「いいわよ、ドミニク様。言いにくいでしょうから、わたしが話すわ」
すると、ステイシーが割り込んできた。これもまたいつものように。
「ケイ、ごめんなさい。わたし、ずっとあなたをだましていたの。わたし、だけじゃない。みんなもだけど」
「だます?」
バカみたいに尋ねていた。
「わたし、どこかの村の出身じゃないの。本名はステイシー・ウオルフィードというの」
一瞬、ピンとこなかった。だけど、すぐに思い出した。
(ウォルフォードって……。まさか、あのウォルフォード?)
その名は、レストン王国の王族の名。つまり、ドミニク様と同じ名で……。
「ドミニク様、ではなくって、ドミニクとは双子の姉弟なの」
「え? えええええええっ?」
いままでにないほどみっともなく叫んでいた。
それほど衝撃的な発言だった。
それは、自分の出生の秘密よりよほど衝撃的である。
「ドミニクが弟、わたしが姉というわけ」
「で、でも、でも、まったく似ていないわ。雰囲気だって全然違うし……」
「嫌ね、ケイ。二卵性よ、二卵性。ドミニクはお母様に、わたしはお父様に似ているの」
「ケイ。ちなみに、彼女は父上に瓜二つなんだ」
ドミニク様が補足説明すると、トーマスがプッとふいた。
ステイシーは、そのトーマスの足をおもいきり踏んづけた。
「ああ、なるほど。二卵性、なのね」
よくよく考えればそれしかない。
「彼女は、とにかく口うるさくてね。政治、経済、文化、宗教。軍事以外のもろもろのことにすぐに意見してしまう。それがまた的を射ているものだから、各界の人物たちが煙たがるんだ。それで、おれがここにいる間、王都からここにやってきて気ままにすごしているというわけだ」
ドミニク様の説明に、ただ頷くしかない。
てっきり田舎の村の出身とばかり思っていた。
そして、幼馴染のトーマスはその領地の貴族子息とばかり勝手に想像してしまっていた。
「トーマスは、おれたち姉弟の乳母子でね。オールドマン公爵家の十男坊だ」
「じゅ、十男坊?」
つぎつぎにあかされる事実。
わたしの秘密など、たいしたことではないとさえ思えてくる。
「いっそ姉上が女王になってくれればいいのに。そうすれば、おれは軍事の面で支えられる」
「バカなこと言わないでちょうだい。ちょっとしたことでウジウジ悩むメンタル最弱将軍に支えてもらうなんて冗談じゃないわ。それだったら、わたしがあなたを軍事以外の面で支えた方がマシでしょう。軍事面は、パーシヴァルとトーマスに任せておけば問題ないのだから。ドミニク。とにかく、あなたが王太子になって、そのあとお父様のあとを継ぐの」
ステイシー、いいえ、王女殿下は、指先でドミニク様の胸を叩いた。
「というわけなの、ケイ。じつはあなたがここにやって来たとき、わたしはわかっていたの。ちょうど身代わりをよこす頃かなって思っていたから。あなたが見送りの馬車を見送っているとき、わたしは、窓からあなたの背中を見つつ決意したの。『なんて小さくて可愛らしいレディなの。ドミニクとちょうどいいかもしれない。ぜったいにくっつけなければ』、と。だから、すばやく作戦を立てて実行に移したわ。使用人のふりをして、ね。ああ、そうそう。メイドの制服は、ここでのわたしの服なの。つまり、メイドになりきっているわけ」
「口ばっかりで、メイドの仕事はほとんどおれたちがやっているのに……」
「うるさいわよ、トーマス」
そういえば、彼女は様々な仕事を要領よくさぼっていたような気がする。というか、微妙にわたしがやっていた気がする。
「とにかく、ケイ。あなたがドミニクのところにきてくれた。そして、くっついてくれた。それが大きいわ」
「いえ、その、わたしは、このような状況ですし……」
「姉上、それは性急すぎる」
「ケイ、ドミニク。二人とも、あのムカつく元皇女に宣言していたでしょう? それこそ、もう夫妻であるかのようなことを」
王女殿下は、あいかわらずである。