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お姉様との再会 1

 お姉様たちは、皇都を逃れてから各領地の領主や領主子息を頼りに点々としていたらしい。


 多くの領主や領主子息たちが、「大陸一の美妃」と名高いお姉様にくびったけだった。だけど、お姉様はそんな彼らから金品をねだるだけで本気になったことはなかった。


 今回もそういう彼らの気持ちを利用しようとしたのだ。


 が、違った。


 彼らは、ことごとく裏切った。


 お姉様たちをサザーランド卿に売り渡したのである。あるいは、恭順の手土産とした。


 お姉様たちは、裏切られるごとにそこから逃げだした。そして、また違う領地へ逃げ込んだ。


 それを繰り返し、ついに二番目のお姉様が捕まった。


 そして、レストン王国に逃げてきた。


 


 その日、駐屯地からお姉様が連れてこられた。


 彼女をわざと居間で待たせている。


 居間に入る前、ドミニク様はやさしく声をかけてくれた。


「ケイ。きみの不安や怖れを感じる。だが、これを乗り越えなければならない。もちろん、おれはきみに寄り添い励ますことは出来る。が、結局はきみ自身が立ち向かわなければならない。出来るか?」


 強制ではない。だから、このまま居間に入らずお姉様に会わないでおくことも出来る。


 そう。このままドミニク様に任せ、わたしは逃げ隠れしていればいい。


 そうすることも出来る。


 たしかに怖い。会いたくない。


 だけど……。


 ドミニク様の言う通りである。わたしは立ち向かわねばならない。このさき、わたし自身も家族同様断罪されるかもしれない。ローリング帝国に連れ戻され、処刑されるかもしれない。なぜなら、わたしもサリンジャー家の一員なのだから。お姉様と同じ皇族の血が流れているのだから。


 だけど、いまはそれは関係がない。これまでのわたしは、家族の言いなりだった。蔑まれ、虐げられてきたのは、わたし自身が悪いのだと思い込んでいた。それどころか、蔑まれたり虐げられていたことに気がついていなかった。厳密には、それらから目を背け、そうではないと思うようにしていた。


 いまは違う。いままでが異常だった。ほんとうの家族のありようではなかった。


 そのことをお姉様にもわかってもらわねばならない。その為には、いまここでお姉様に立ち向かうべきなのだ。


「ドミニク様、大丈夫です。ドミニク様が側にいてくださいます。励ましてくれます。だから、わたしは大丈夫です」


 ドミニク様の目を見つめたまま、そう答えた。


 じっと目を見つめてということが皇太子であり将軍である彼に対して失礼だということはさておき、いまはそうすべきだと思った。その方が、ドミニク様も安心でしょうから。


「ケイ、わかった。きみにはおれたちがついている。いや、おれがいる。そのことをけっして忘れないでくれ」

「はい、ドミニク様」


 彼と見つめ合ったまま、大きく頷いた。


「あのー、いい雰囲気なのはわかりますけど、わたしもいっしょに入りたいのです。だって、ケイの『いけずな姉』というのを見物したいんですもの」


 そのとき、ステイシーが間に入ってきた。言葉だけでなく、物理的にも。


「やめないか、ステイシー。二人の邪魔をするのではない」

「そうだぞ、ステイシー。ったく、わざとだろう?」


 パーシヴァルさんとトーマスが途端に騒ぎ出した。


「悪いな、ステイシー。『いけずな姉』というのも、一応元皇女様だ。メイドの恰好をしているきみがいれば、癇癪を起しかねない。廊下で扉に耳をくっつけ、盗み聞きしてくれて構わない。それで辛抱してくれ。大丈夫。きみの分までやってやる」


 ドミニク様は、苦笑とともに言った。


 そういえば、最近ドミニク様も「大丈夫」という言葉をよく口にする。


 わたしの口癖が移ってしまったのかもしれない。


「ドミニク様、ステイシーにはわたしがついていますから。それよりも、なにも出さなくてもいいのですか?」

「ああ、ウインストン。なにもいらない。そんなに長居をさせるつもりはないからな。どうしてものときには、水で充分だ」

「水でももったいないですよ、ドミニク様。ここの水は、ミネラルたっぷりですごく美味しい湧き水ですから」


 ステイシーの毒舌はともかく、お水が美味しいのはたしかである。


「さあ、そろそろ待ちくたびれてイライラしている頃だろう。キーキー叫びだす前に登場しておこう。さあ、ケイ」


 差し出されたドミニク様の腕。


 その腕にじぶんのそれを絡め、彼とともに居間に入った。


 こちら側に背を向け座っているお姉様は、その背中だけでもくたびれきっている。


 お姉様は長椅子のひとつに堂々と、しかも悪びれる様子もなく座っている。


 というよりか、お姉様はそういう態度以外の態度を知らないのかもしれない。


 すこし離れた所で、二人の男性が警戒心もあらわに立っている。


 お姉様の従者らしいけれど、皇宮で一度も見たことのない顔である。それどころか、皇宮にいたとは信じがたいほどの独特の雰囲気を醸し出している。


 皇宮勤めの人たちではない。


 彼らを一目見だと同時にそう確信した。

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