お姉様が?
その間、将校たちは報告するのを中断していたけれど、わたしたちが座ると報告を再開した。
ローリング帝国に潜入していた諜報員たち数名が戻って来たという。
彼らは、潜入で得た情報を要領よく報告する。
じょじょにではあるけれど、皇都以外の地域や領地は落ち着きを取り戻し始めているらしい。領主のほとんどが、反逆者であるサザーランド卿に抗うことなく恭順を誓っているという。
領主たちは、みずからや家や領地や領民を守る為、サザーランド卿に従うしかないというのが本音なのかもしれない。
サザーランド卿は、いまだに行方知れずの皇族の捜索を行っているらしい。
そして、そのほとんどを見つけだしたり殺したりしたという。
「第二皇女も捕まり、皇都に連行された。あと一名、血眼になって捜している」
ドミニク様の説明に、二番目のお姉様も捕まったのだと知った。
「それは、第一皇女。ケイ、きみをここによこした張本人だ」
うなずくしかなかった。
「大陸一の美妃」と名高い一番上のお姉様。
ほんとうは、彼女がドミニク様に嫁ぐはずだった。
だけど、ドミニク様は「氷の剣士」と呼ばれ、容姿の醜さや粗暴きわまりない性格であると噂されている。
あのお姉様がそんな男性に嫁ぐわけがない。たとえ人質の役割を担っているとしても。
そこで「残りカス皇女」であるわたしが、生贄のようにして嫁がされた。
わたしにとっては、それが様々な意味でよかったのだけれど。
「第一皇女と第二皇女は、わずかな従者といっしょに逃げていたらしい。が、賞金稼ぎたちに見つかってしまった。第一皇女は第二皇女を囮にし、彼女が追われて捕まる間に逃げてしまったらしい」
つまり、二番目のお姉様をだました挙句に見捨てたわけね。
驚かなかった。
なぜなら、一番上のお姉様ならやりかねないから。
「そういうもろもろの情報を得、諜報員たちの一部は戻って来た」
ドミニク様は、淡々と語る。
「彼らが国境付近、ちょうどレストン王国に入った地点で、みすぼらしい身なりの男女が賊に追いかけられているのに出くわした。諜報員たちは、見るに見かねて助けたという。もっとも、諜報員としてそういう行為はやってはならないことなのだが」
「だれかさんの部下なのです。だれかさんの影響で、困っている者や助けを求める者を無視することは出来ないでしょう?」
パーシヴァルさんの横槍に、ドミニク様は苦笑するしかない。
「ああ、そうだな。助けなかった方が咎めるだろう。が、今回はそうも言っていられないが。ケイ、まわりくどいことはやめておく。諜報員たちが助けた者というのが、第一皇女とその従者だったのだ」
「お姉様?」
なんてこと。
よくレストン王国まで逃げおおせられたわね。
いっしょにいる従者のお蔭に違いない。
「ケイ、おれは第一皇女に会ってみようと思う。彼女と話をし、そのあとのことを決めるつもりだ。彼女を襲っていた賊は、賞金稼ぎたちだろう。遅かれ早かれ、サザーランド卿の耳に彼女がレストン王国にいるということは入る。そうなれば、ひと悶着ある。きみのことも、蒸し返してくるかもしれない。だが、きみは堂々としていればいい。おれが、おれたちが守るから」
そこは大丈夫。
ドミニク様を信じているから。
「きみに確認したいのは、きみも会いたいかということだ。一応家族だから、きみにどうしたいか尋ねたかった。もちろん、どちらにするのかはきみしだいだ。強制や誘導はいっさいしない。きみの気持ちを優先する。というか、おれも会わない方がよければそうするつもりだ」
ドミニク様のその提案は、考えたり悩んだりする必要はない。
「ドミニク様、わたしも姉に会います。いいえ。わたしも会わせて下さい。会わなければならないのです」
強い意志と決意でもってそうお願いしていた。