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見守りたい

 ただし、ドミニク様はステイシーほどひどくはないけれど、わたしの家族を全否定し、わたしを肯定してくれる。


 そうしてすごすうちに、いまいる環境こそが正常で、いっしょにいるみんなこそが家族なのだと思うようになった。


 いままでが異常なのであって、故郷にいるあの人たちは家族ではなくただの気の毒な人たちだと。


 ドミニク様は、こんなわたしをお世辞でもって励ましてくれる。


「ケイ。きみは自分自身を卑下しすぎだ。きみは、けっして『残りカス』などではない。それどころか、きみはいつも輝いている。それは、心の輝きだ。見てくれの派手さや豪華さなどではない。『大陸一の美妃』と噂のきみの姉は、そういう輝きを放っているのだろう。そういう輝きは、結局は身を滅ぼすだけだ。内なるものが、心が輝いてこそだ。ケイ、もっと自分に自信を持つんだ。それから、他人のことだけでなく自分のことも大切にした方がいい」


 そんなふうに言って。


「ケイ、見てくれより中身よ。あなたって、自分では気がついていないけれどすごく癒されるわ。あなたがいるだけで、落ち着くしほんわかするの。あなたは、おチビさんだし顔はお世辞にも美しいというわけではないからかしら? 余計にそう感じるのかもしれない。もちろん、性格もいいわね。メイド仲間に一人は欲しいって感じのレディだわ」


 ステイシーもまた、そのようにお世辞? なのかしら。とにかく、自信を持つように言ってくれる。


 家族でなぜかわたしだけが黒髪の黒い瞳で、まずそれが他の家族とは違う存在とされた。そして、なんの力もないとわかってからは、よりいっそう否定された。


 否定する言葉の数々は、まさにその通りなのだと思い込んでいた。ひどくて悪辣な言葉を投げつけられるのは、そうされて当然だと受け入れていた。


 だけど、それらは違ったのである。


「黒髪に黒い瞳って、わたしからするととても魅力的よ」


 ステイシーの赤色の髪の方がよほど魅力的だと思うけれど、彼女はそう言ってくれる。


「レストン王国では、黒髪に黒い瞳は聖なる力を宿す者と言われているんだ。きみはまさしくだ、ケイ」


 ドミニク様もまた、いつの時代かわからない伝説を無理矢理引っ張り出してくれる。


 容姿や性格はともかく、わたしはここで否定されたり存在を消されたりはしない。


 それを知ることが出来たのは、わたしをかえるに充分なきっかけだった。


 自分をかえることにした。


 とはいえ、急激にではないし飛躍的にでもないけれど。


 じょじょにかわれればいい。


 そんな気持ちですごすことにした。


 そう決心すると、嘘のように心と体が軽くなった。


 軽くなると、これまで以上に明るくなれる。考え方、見方、きき方、感じ方などなど。


 よりいっそう家事に力が入る。


 パーシヴァルさんが「もうやめてください」と訴えてきてもなお、家事に勤しんだ。


 そうして、数日がすぎていった。



 正体がバレて以降、ドミニク様の気遣いぶりは半端ない。ずっと世話を焼いてくれる。というか、世話をするのはわたしの方なのに、わたしが世話をされている。ドミニク様に「大丈夫だから」と伝えても、彼はいっこうにきき入れてくれない。世話を焼いてくれるだけではない。ずっといっしょにいたがる。トイレとお風呂と眠るとき以外は、つかず離れずくっついている。


「ドミニク様。あの、わたしはもうここから勝手に逃げるというようなことは考えません。ですから、どうかご自身の体と心を休めて下さい」


 同じことを何度言ったことか。訂正。何十回繰り返したことか。


「きみがここから出て行かないことはわかっている。それは信じている。これは、ただおれがそうしたいだけだ。きみの側にいると落ち着くんだ。ほら、癒しの力で癒されてるという感じだ。だから、いっしょにいることこそ、おれにとって心と体をやすめることになるのだ」

「ですがドミニク様、わたしには癒しどころかなんの力もないのです」

「いいではないか。癒しというのは人それぞれの感じ方だ。おれは、きみの側にいることで癒される。それ以上でも以下でもない」


 ドミニク様は、頑固に主張する。


(癒しってそういうものなの?)


 だとすると、癒しって奥が深すぎるわ。


 となかば呆れてしまうけれど、ドミニク様はけっしてわたしの邪魔をすることはない。邪魔をするのはステイシーで、彼女はしょっちゅう誘惑してくる。


「パウンドケーキが焼き上がったわよ」とか、「スイーツをお供に『レディトーク』しない?」などなど。


「レディトーク」というのは、王都のレディたちの間で流行っているらしい。


 レディだけでひたすらお喋りをするのだとか。


 それはともかく、ドミニク様はステイシーと違ってほんとうに側で見守っているだけ。


 最初こそこそばゆかったし緊張もしたけれど、そのうち慣れてしまった。


 ふと彼の姿が見えなくなると、「どうしたのかしら?」と不安になってしまうほど馴染んでしまった。



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