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勘違いされている?

 馬車が立てる土煙がおさまってから、振り返ってあらためて建物を見た。


 二階建ての屋敷が建っている。屋敷というよりか、書物に出てくるログハウスのような感じの家である。


 わたしたち皇族も皇都外にある複数の避暑地に、屋敷やログハウスを所有している。夏の暑いときにそこで静養するのである。


 が、わたしは一度も行ったことがない。


 いつもお留守番だった。


 家族の中でだれかは残る必要がある。書物の中では、万が一にも皇族が狙われるようなことがあったり、不慮の事故が起こったような場合、全員が死んでしまわないようにとの対策をしている。


 だから、わたしは重大な任務を帯びている。いつも心の中で誇らしかった。


 みんなが避暑地で長期間すごしている間、みんなの部屋を磨いたり繕い物をしたり整理整頓をしたりしてすごした。


(どうかわたしが唯一の生き残り、などという事態に陥りませんように)


 心から祈りつつ。そして、同時に「大丈夫。そんな物騒なことや危ないことは、書物の中だけの話よ」と、確信しつつ。


 そんなことを思い出しつつ、二個のトランクをそれぞれの手につかんで持ち上げた。


 荷物はさほど持ってきてない。というか、もともと物はあまり所持していない。


 トランクには、お姉様のお古のドレスとわたしがいつも着用しているシャツとスカートが何着かずつ入っている。


 弱小国とはいえ、とても第一皇女が嫁いできたようには見えない。


 それどころか、町や村のレディだってもっとまともな荷物を持っているし、恰好だってまともなはず。


 自分の恰好を見おろした。お姉様のお下がりで、小柄なわたしにはサイズがまったく合っていない。ドレスを着用しているというよりか、ドレスに着せられている感じがする。


 大丈夫。いつもの恰好よりかはずっとレディに見えるはずだから。


 気を取り直すと、そのまま屋敷に向かい、エントランス前の三段ある階段をのぼった。


 そのタイミングで、突然エントランスの扉が勢いよく開いた。おもわず、「キャッ」と悲鳴を上げてしまった。


「まあっ! 驚いた。まさか人がいるだなんて」


 目の前に立っているのは、わたしよりすこしだけ年長っぽいレディである。


 赤いおさげ髪で、清楚な制服を着用している。すごく背が高く、そばかすがとてもキュート。


(王子殿下のメイドに違いないわね)


 まだ心臓がドキドキしている。


「あら? もしかして、あたらしいメイド? そんな話、きいていなかったと思うけど。だけど、わたしっていつもパーシヴァルさんに『ステイシー、人の話をよくききなさい』って怒られるから、きっときいていなかったのね」


 彼女は両手を腰に当て、パーシヴァルさんとやらの物真似をした。


 残念ながら、オリジナルのパーシヴァルさんを知らないから、似ているかどうかはわからない。


「わたし、ステイシー・ミドルトン。あなたは?」

「ケイ・サリンジャーです」

「よろしくね、ケイ。さあ、入って入って。畑にトマトとキュウリを取りに行くつもりだったんだけど、あなたの方が先よ」


 彼女は、わたしの手からトランクを奪った。しかも二個とも。そして、さっさと開いたままの扉から入ってしまった。


「あの、わたしは……」


 メイドではないのだけれど、否定する暇がなかった。


 仕方なく彼女を追いかけた。


 執事長のパーシヴァルさんは、朝から料理長と買い出しに出かけているとか。


 ステイシーは、母屋の中を通り抜けて裏口を出た別棟にわたしを案内してくれた。


 母屋同様、二階建てのログハウスである。


 彼女は軽快に階段をのぼってゆくと、二階にある一室の前に立った。


「ここ、空いているの。ちなみに、わたしの部屋は隣よ。見てみる?」


 彼女はおさげ髪を揺らしつつ、隣室を顎で示した。


 きっとこういうときは素直に頷いた方がいいのよね。


「ええ、ぜひ見たいです」

「さあ、どうぞ」


 彼女は、自分の部屋の扉を開けた。


「わあっ、なんて可愛らしい」


 室内は、ウサギやクマの置物や人形で溢れている。


「でしょう、でしょう? パーシヴァルさんは、『子どもじゃあるまいし』って叱るんだけど。レディですもの。いいわよね、ねっ?」


 彼女は、またパーシヴァルさんの真似をした。


「ええ、いいと思います」


 そう答えておく。


「ありがとう。じゃあ、あなたの部屋の番ね」


 彼女が扉を開けたら、パアッと光り輝き、心地よい風がわたしの短めの黒髪をなびかせた。


「まあっ」


 おもわず、両手を口にあてて声を出してしまった。




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