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皇女を引き渡せ!

「ドミニク様、それが……。ローリング帝国の皇女を引き渡せ、と言っています」

「ローリング帝国の皇女を引き渡せ? ああ、そうだったな。皇帝と皇妃と皇太子はすでに断罪されているが、皇子や皇女たちは逃げたのだったな」

「は、はぁ……」


 パーシヴァルさんは、言い淀んだ。


「だが、その逃げだした皇女のひとりを引き渡せと言われてもな」


 ドミニク様が苦笑した瞬間、またしても扉がノックされた。


「ドミニク様」


 扉が開いた途端、トーマスが居間に入って来た。


「王都より急使がまいりました」


 トーマスの報告に、パーシヴァルさんと視線を絡ませ合った。


「先程の馬蹄の響きだな。まったく、今夜は忙しい夜だ」


 ドミニク様は、溜息まじりにつぶやいた。


 先程、たしかに馬蹄の響きのようなものをきいた。それ、ほんとうに馬蹄の響きだった。


「急使に会おう。パーシヴァル、ローリング帝国の使者の件はそれからだ。急使の方は、どうせそのことだろうから」


 急展開になってきた。


 かなうならば、ドミニク様にはわたしの口から真実を話したかった。だけど、もう遅いみたい。


「ドミニク様、わたしは外しますので」


 こうなってしまっては仕方がない。


「ケイ、すまない。またゆっくり話そう」


 ドミニク様に一礼すると、居間をあとにした。




 居間を出ると、エントランスで軽装の二人連れが立っているのが見えた。向こうもわたしに気がついたようで、目礼をしてくれた。当然、わたしも目礼を返す。


 王都からの急使に違いない。一日中ウマを飛ばし、つい先程ここに到着したのである。


 疲れきっていることでしょう。お腹がすいていたり、喉が乾いていることでしょう。


 そんなことを考えつつ裏口へ向かっていると、ウインストンさんが居住棟からやって来たのにでくわした。


「急使の方々になにかお出しした方がいいでしょうか?」


 勝手は出来ない。だから、ウインストンさんに尋ねてみた。


「ケイ、頼めるかい? ドミニク様と話を終えてからでいい。お茶とジャムのサンドイッチがいいな。それならば、立ったままでも食える。もしかすると、彼らは仮眠をとるかもしれないから。軽くすばやく食えるものの方がいいだろう」

「わかりました。準備しておきますね」

「ありがとう」


 ウインストンはそのまま居間に向い、わたしは母屋の厨房でベリー系のジャムとチョコとピーナッツバターのサンドイッチを作り、ポットにお茶を淹れた。


 これだけ騒がしくしていても、ステイシーはきっと夢の中に違いないと思いつつ。


 厨房にあるテーブルに準備をすると、自分の部屋に戻った。


 トランクに荷物を詰め込みながら、ドミニク様は王都からの急使の方たちとローリング帝国からの使者から伝言をきいたのかしらと、ついつい考えてしまう。


 ドミニク様が伝言をきいた時点で、パーシヴァルさんはわたしのことを説明せざるを得なくなる。


 ドミニク様に謝罪もせずに去るのは心苦しいけれど、わたしがここにいてドミニク様の不利になるよりかはマシかもしれない。


 借りている制服もちゃんと洗って返したかった。


 だけど、その暇はない。


 ここに来たときと同じお姉様のお古のドレスに着替え、制服はきちんと畳んで寝台の上に置いた。


 それをいうなら、シーツや毛布も洗ったり干したりしたかった。


 室内は隅々まで磨き上げている。


 それがせめてもの慰めかもしれない。


(はやくここを去らないと)


 灯火を消すと、二つのトランクを持ち上げた。


 そういえば、ここに来たとき、ステイシーが勘違いしてこのトランクをさっさと運んでくれたのだった。


 彼女の勘違いから、楽しい日々をすごすことが出来た。


 ステイシーだけじゃない。パーシヴァルさん、ウインストンさん、トーマス。


 みんなによくしてもらえた。


 祖国の家族以上に家族を感じることが出来た。思いもかけず、しあわせを感じることが出来た。


 なにより、ドミニク様。


 噂とはまったく違い、やさしくて美しい方。だけど、傷つき疲れている。


 せめて心身ともにすっかり元気になるまで、側で見守りたかった。


 胸がキューッとしめつけられるようだ。いままでとはまた違う意味で、胸の辺りが痛む。


(ダメダメ。時間ばかりが経ってしまう。もう行かなくては)


 頭を振ると、扉に向かう。


「コンコン」


 そのとき、扉がノックされた。


「ケイ様? ドミニク様がお呼びです」


 パーシヴァルさんの遠慮がちな声がそう告げた。





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