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真実を告げようとして……

「ケイ、すまなかった。冷静に考えなくても、窓からレディの部屋をのぞきこむなどということは無礼きわまりない。これならまだ、部屋の扉をノックすべきだった。ケイ。きみのこととなると、子どものときのような気持ちになってしまう。理由はわからないが」


 ハッとしてしまった。


(ドミニク様は、わたしの考えていることがわかったのかしら? もしかして、心の声が漏れていたとか? というよりか、無意識の内につぶやいていた?)


 いままさにそのことを考えていたから。


 日頃、いろいろなものを磨いたりしている内についつい声に出して言ってしまっているときがある。


「恥ずかしいよ。ほんとうにすまなかった。まだきみが起きていてくれたからよかったようなものの、眠っているきみをのぞき見するなどとは、ただの変質者だ」


 ドミニク様の美貌が真っ赤になっているのが、室内の淡い灯火の中でもよくわかる。頬の傷まで真っ赤になっている。


 こんなときなのに、彼が真っ赤になっているのが可愛らしいと思った。


「ドミニク様、大丈夫です。ほんとうに大丈夫ですから」


 自分でもなにが大丈夫かわからないけれど、とりあえずそう言った。


「大丈夫」と口にさえすれば、どんなことでもすべてうまくいくと信じているから。


「わかった」


 ドミニク様は、大きくうなずいた。


 静かすぎる室内。こんな時間なので窓は閉めているけれど、かすかに馬蹄の音がしているような気がする。


 きっと気のせいに違いない。


「では、パーシヴァルのことで落ち込んでいる件についてだが……」


 そうだったわ。そもそもドミニク様がわたしの部屋の窓の向こうにいたのは、このことだった。


 ちょうどいいチャンスかもしれない。いま、ほんとうのことを告げないと告げるべきタイミングが失ってしまう。


 ほんとうのことを伝え、お暇することも告げる。あるいは、ほんとうのことを告げるけれど場合によってはお暇することは黙っている。


 ドミニク様の反応を見つつ、どちらかにしよう。


「パーシヴァルは生真面目すぎるのだ。だから、ついつい厳しいことを言ったり態度にあらわしたりする。ステイシーのように気にしなかったり奔放だったら気にならないだろうが、たいていの人はあそこまでではない。傷ついたり気にしたりするのは当たり前だ」


 心の中で葛藤していると、ドミニク様はステイシーのことを褒め称えていた。


「ケイ。そういうわけで、パーシヴァルを許してやって欲しい。おれがかわって謝罪する。すまない」


 わたしが口を開くよりもはやく、ドミニク様はそう続けて頭を下げた。


「い、いえ、違うのです。ドミニク様、パーシヴァルさんのことではないのです」

「なんだって? では、まさかおれなのか?」

「い、いえ。ドミニク様、ドミニク様も違います。そもそも、だれかのせいではないのです。自分自身の問題なのです」

「きみ自身の問題?」

「はい。あの、きいていただけますか?」

「もちろん。時間だけはあるからな」


 ドキドキが半端ではない。


「では、ドミニク様。じつは、わたしは……」

「ドンドン」


 いままさに正体を告げようとした瞬間、居間の扉が大きく叩かれた。


「ドミニク様」


 その音を耳でキャッチしたときには、パーシヴァルさんが扉の向こうに立っていた。


「夜半、申し訳ございません」


 パーシヴァルさんは、居間に入って来つつわたしをチラリと見た。


「パーシヴァル。ケイのことだが……。いや、何事だ?」


 ドミニク様は、わたしのことを言いかけた。しかし、パーシヴァルさんの切羽詰まったような様子を察して言い直した。


「かまわない」


 ドミニク様は、わたしを見たパーシヴァルさんに先を促す。


「夕刻、国境で警備隊が四人の男を捕まえました。ローリング帝国の皇帝の使者だと主張しております。国境から駐屯地に移送したということです」

「皇帝の使者?」


 ドミニク様は、形のいい顎を指でさすりながらつぶやいた。


 皇帝の使者って、お父様の?


 だけど、パーシヴァルさんの説明では、お父様はすでに失脚して断罪されているはず。それなのに、皇帝っていったいだれのことなの?


「使者の口上は?」


 ドミニク様の問いに、パーシヴァルさんはまたわたしを見た。


 その気づかわし気な視線に、わたしのことなのだと予感した。


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