衝撃的な話
「ケイ様」
パーシヴァルさんに話があると言われ、みんなと居間で歓談した後に残って話をすることにした。
パーシヴァルさんは、二人きりになるとあらたまった。
彼の銀髪は灯火の淡い光を吸収し、キラキラと光っている。
彼の渋い美貌にある真剣さが、嫌な予感を抱かせた。
「昼間、訪れていたのは部下の将校たちです。ドミニク様は、まだ将軍職から退いていらっしゃいません。いまは、あくまでも戦後の静養なのです。まあ、王都は『はやく戻ってきて王太子としての責務を果たせ』とうるさく言っているようですが……。それはともかく、先のローリング帝国との戦争中、幾度も使者が参りました。内容は、『手引きをするので、軍を率いて皇都まで攻め入り、皇都を制圧してくれ』というものでした」
その衝撃的な内容に、ただただ驚いた。
「そもそも戦争に至った理由は、ローリング帝国が協定を破った上に国境でわが軍に襲いかかってきたからです。外交でどうにかすればよかったものを、帝国側が拳を振り上げ、頑なにそれをおろそうとしませんでした。ですので、致し方なく最悪の手段、つまり戦争に踏み切ったのです。もっとも、われわれには帝国をどうにかする意思などありませんでした。ニ、三度戦火を交えた後、再度外交で協定を結び直す。もちろん、われわれに有利なようにですが。われわれは、そのように考えていました。帝国民にはなるべく迷惑がかからぬよう、実力を見せつける。それがわれわれ、いいえ、ドミニク様の思惑だったのです。実際、われわれは、いっさい帝国領内の町や村を制圧したり破壊したりはしていません。町や村を焼いたり、帝国民を傷つけたのは、帝国軍自身なのです」
さらに衝撃的な話に、声をだすどころか息をすることを忘れてしまう。
「ですが、ドミニク様は大勢の人を殺したり、傷つけたりしてきた、とおっしゃって……」
「ドミニク様は、将軍としては失格です。将としての才覚は他の将軍の比ではないほど備わっているにもかかわらず、やさしすぎるのです。ですが、やさしい将軍だからこそ兵たちは慕うのです。将軍を守り、ともに戦い続けるのだと士気を高く保てるのです。が、戦争となるとすべての人の無事は保証出来ない。ぜったいにだれかは傷つき、死んでしまう。今回のこともそうです。ドミニク様は、帝国軍がみずから破壊し、火を放ったことで多くの帝国民が傷つき死んだことでさえ、自分のせいだと自分を責めているのです。ドミニク様があなたにそんなことを告げたのは、自分自身を責めているが故なのです」
やはり、ドミニク様はやさしすぎる。
パーシヴァルさんの言う通り、彼は将軍に向いていない。こんなわたしですら、そう強く感じる。
「申し訳ありません。話がそれました。それで、皇都に攻め込んでくれという誘いですが、われわれがそのような誘いにのるわけがありません。誘ってきた連中は、われわれに皇族や皇族側の人間を潰させ、さして被害もなく野望を達成しようとしている。その上で、うまくいけば帝国の中央まで入り込んでいるわれわれも倒せるかもしれないと画策しているのでしょう。それがありありとわかります。われわれは、その誘いを即座に断り回れ右しました。つまり、ローリング帝国から撤退したのです。その上で、王都の外交官に脅しに行かせ、無理やり締結させたのです。その時点で、帝国が戦争に負けたと自覚できるほどの被害は被っていましたので。ドミニク様は、同時に部下の諜報員たちに命じました。帝国の様子を探るように、と。今日来た将校たちは、その諜報員たちが帰還しましたのでその報告にやって来たわけなのです」
「あの、パーシヴァルさん。あなた方に使者を送ったのは、帝国のだれなのですか?」
パーシヴァルさんの話の中で、ドミニク様以外のことで一番気になっていることを尋ねていた。
パーシヴァルさんの話から、どう考えてもわたしたち皇族を裏切っているとしか理解しようがないから。