「どうだった?」ってなにが?
「ケイ……」
場の雰囲気を壊してしまったことに気がついたけれど、口に出してしまった言葉はいまさら取り消せない。
「も、申し訳ありません」
謝罪するしかない。
「いや、いい。ケイ、きみはやさしいのだな」
やさしいドミニク様は、そう言って取り繕ってくれた。
「ケイ、さぁ食べなさいよ。なくなってしまうわよ。だれかさん、小さいのによく食べるから」
「なんだって? だれが小さいんだよ?」
その瞬間、ステイシーが焼き魚をおしつけながら尋ねてきた。
トーマスが可愛らしい顔を真っ赤にして怒りだす。
それがきっかけになり、いつものにぎやかさに戻った。
わたし以外は白葡萄酒を飲みながら、焼き魚を堪能した。
そうして、帰路についた。
馬車の荷台にはドミニク様とわたしが並んで座り、ステイシーはウインストンさんと馭者台にいる。
頭上の月光が地に燦燦と降り注いでいるから、とくに灯火は必要ない。
馬たちの蹄の音、それから馬車の心地いい揺れが眠気を誘う。
「ケイ、もたれていいぞ。おれにもたれて眠るといい」
ドミニク様の声もまた耳に心地いい。それが、どこか遠くの方からきこえた気がした。
道中、わたしはずっと眠っていたみたい。
楽しい一日は、あっという間に終わってしまった。
「それで、どうだった?」
洗濯をしながらステイシーが尋ねてきた。
湖に行った翌日の朝である。
「『どうだった』って、なにかしら?」
「いやね、ケイ。ドミニク様のことよ。二人きりでなにか進展があった?」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。進展ってどういう意味?」
「とぼけないで。いつの間にかあんなに仲良くなって。わたしたちが気を遣わなくても、いい雰囲気になっているじゃない」
「だから、待って。あなたの言っていることがわからないわ」
ステイシーの言うことは、抽象的すぎてわからない。
「たしかに、最近のドミニク様はあかるくなったわよね。やさしいのはやさしいけれど、もっとこうやわらかいやさしさというのかしら? とにかく、いい意味でかわってきているわ。ふふふっ、わたしの人を見る目もすてたものじゃないわよね。ねぇ、ケイ」
彼女は謎めいた自画自賛をし、自己満足しているみたい。
「お二人さん、手がとまっているぞ」
ステイシーの謎だらけの言葉に首をひねっていると、パーシヴァルさんが洗濯場にやって来た。
「パーシヴァルさんも思わない? ドミニク様とケイのこと」
手がとまっているという注意は無視し、ステイシーはまだ話を続ける。
「そのことか。ああ、ウインストンとトーマスとも話をしていたんだ。ケイ、きみのお蔭でドミニク様はじょじょにかわってきている。もちろん、いいようにね。そして、きみもかわってきている」
「ドミニク様が? というか、わたしもですか?」
かわってきている、というのがよくわからない。
わたしは、わたしのままだけど。
「とにかく、もしかするとというやつだな。おおいに期待出来る」
「でしょう、でしょう? わたしってさすがよね」
「ああ、ああ、ステイシー」
「あの、だまし続けているのがつらくなってきているんです」
二人が盛り上がっているところに、言いにくいけれど打ち明けてみた。
「大丈夫よ、ケイ。そんなこと、ささいなことよ。このまま突き進んでいけば、そんなささいなこと気にならなくなるから」
「そういうものかしら……」
ステイシーはそう言うけれど、どうも自分の中ではそういうものではない気がする。
だけど、その話はやめておいた。
彼女たちにドミニク様をだまし続けさせているのは、このわたしである。
いざとなったら、わたしが全責任を負えばいい。
いつかきっと、ドミニク様に正直に告げなければならない。
「わたしは、姉の身代わりで嫁ぎにきた『残りカス皇女』です」
そのように。
ぜったいに告げなければならない。




