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湖へ

「うわあっ! ケイ、見て。大きな湖ね」

「ほんとう。キラキラ光っている」


 森を抜けると、一面に湖が広がっている。


 陽光を受け、湖面がキラキラしていてまぶしいくらい。


「魚、釣れるかしら?」

「あれだけ大きな湖だったら魚もいっぱいいそう」


 ステイシーと二人、馬車の荷台でおおはしゃぎしてしまった。


 ステイシーは、ログハウスの近くの森や丘には何度も行っているらしい。しかし、すこし離れているこの湖は初めてだとか。


 わたしは、ずっと宮殿にいて、皇都どころか皇宮の外にも出たことがなかった。だから、湖じたい初めて見る。


「ステイシー、ケイ。はしゃぎすぎて馬車から落ちても知らないぞ」


 あまりにもはしゃぎすぎたみたい。ウマを馭しているウインストンさんに叱られてしまった。


「だって、すごくいい眺めなんですもの。はしゃがずにはいられないわ。ねぇ、ケイ?」

「ええ。でも、ウインストンさんの言う通りね。馬車から転がり落ちたら大変」


 馬車の荷台は、座れるように簡易型の座席が設えらえている。


「魚釣りなら任せておけ。この『金狼』様がでかい魚を釣ってみせるさ」


 トーマスが馬を寄せてきた。


「なにが『金狼』よ。オオカミが魚を獲るなんてことないでしょう? まだクマの方がそれっぽいわ」


 このとき初めて、トーマスは軍で「金狼」と呼ばれていることを知った。彼は剣士としてだけでなく、ドミニク様の副官として優秀な軍人なのだという。


 こんなに可愛いのに、「金狼」だなんて……。


 可愛い、は失礼よね。


「そもそも、『金狼』という二つ名じたいトーマスらしくないわ。仔犬ちゃんならわかるけど」

「だれが仔犬ちゃんよ?」


 ステイシーとトーマスのケンカがまた始まった。


 二人のケンカは、息をするのと同じようにしなければならない行為みたい。


 最初こそ、止めに入った方がいいの? なんてハラハラさせられたけど、いまでは慣れてしまって笑いながら見てしまう。


「ボートもあるから、ボートで釣りをするのもいいですね」


 パーシヴァルさんは、二人のケンカなどわれ関せずで馬上のドミニク様に話しかけている。


「ああ、そうだな」


 今日のドミニク様は、すこしだけご機嫌斜めみたい。


「湖の畔で思う存分読書をしよう」


 ドミニク様の提案は、緊張と不安を与えた。


 なにせ二人きりで一日をすごすのである。粗相をしないかとか、不愉快な思いをさせないかとか、心配でならなかった。


 だけど、結局二人きりというところはなくなった。


「ドミニク様をひとりで行かせるわけにはまいりません」


 このことを知ったパーシヴァルさんは、即座に拒否をした。


 パーシヴァルさんだけではない。


 トーマスとウインストンさんもである。


 ステイシーだけは、うれしそうに「二人で行ってくればいいのに」と言ってくれたのだけれど、結局、彼女も途中から「いっしょに行きたい」と言いだした。


 パーシヴァルさんたちは、ドミニク様がひとりで行動することが危険だからという。


 それは、当然のことだわ。


 ドミニク様は、皇太子即位前だし将軍でもある。狙われる可能性は充分ある。いくら「氷の剣士」と呼ばれる剣の遣い手であっても、大勢に襲いかかられては危ないはず。


「ドミニク様。あなたは、いかなる数の相手であっても上手く切り抜けるでしょう。それは、承知しています。うまく逃げおおせることもです。ですが、ケイがいます。万が一にも彼女になにかあれば、あなたは一生後悔することになります。ケイの為にも、わたしたちを同道させてください」


パーシヴァルさんの言うことは、いちいちもっともなこと。


「そうですよ、ドミニク様。パーシヴァルさんの言う通りです。それに、みんなで行ったらもっと楽しくなりますよ」


 だけど、その後に続いたステイシーの主張はどうかしら。


 彼女は、トーマスから湖で魚釣りやボート遊びのことをきき、自分も行きたいと言いだしたのである。


「わかったわかった。みんなで行こう」


 ドミニク様は、溜息まじりに言った。


「わかっています。その間、わたしたちは邪魔にならないようにしますので」


 パーシヴァルさんは、ホッとしたようだった。


 わたしもホッとした。だけど、すこしだけ残念な気もした。矛盾しているけれど。


 ドミニク様と二人きりでなくなったのを、残念に思っていることが驚きだった。


 そうして、みんなで湖にやって来たのである。


 ドミニク様とパーシヴァルさんとトーマスは自分の馬に乗って、ステイシーとわたしはウインストンさんが馭している馬車の荷台に乗って。




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