ドミニク様と…… 1
というわけで、識字率は他国と比較しても低いという。
というようなことを、学者が謁見の間でお父様に訴えていたのをきいたことがある。
お父様たちはまったく関心がなかったのか、その気の毒な学者は謁見の間から即座に出されてしまった。
それはともかく、ドミニク様に答えてしまったのは仕方がない。
「おれも好きなんだ。だが、なかなか時間を取ることが出来ない。だから、いまがチャンスとばかりに読みふけっている。ああ、そうだ。ケイ、きみも好きな本を勝手に持って行って読んでくれ。その方が、本もよろこぶ」
「よろしいのですか?」
ドミニク様は、わたしが書物を読めるかどうかは気にしていないみたい。
うれしさのあまり、ついつい叫んでしまった。
すると、ドミニク様が笑いだした。
その笑い方があまりにも可愛らしすぎて、なぜかドキドキしてしまった。
「笑ったりしてすまなかった」
彼は笑うのをやめ、生真面目に謝ってくれた。
「いつも控えめなきみが、とてもうれしそうだったものだからつい」
そして、生真面目に続けた。
「申し訳ありません。わたしもうれしくてつい……」
視線が合うと、同時にふきだした。そして、しばらくの間笑った。
「ドミニク様。では、お言葉に甘えてお借りします。お勧めのものはありますか?」
これだけの書物の誘惑には、やはり抗えない。
だから、抗うのをあきらめた。というよりか、無理はしないことにした。
「そうだな……。おれは、どうしても軍記物とか軍関係のを選んでしまうけれど……。だが、実用的な書物より小説という最近流行りのジャンルも面白いと思うな」
「小説、ですか? 図書館できいたことがあります」
これも嘘ではない。ただし、図書館ではなく皇宮の図書室だけれども。
図書室の司書が教えてくれたのである。
最近では、様々な国の作家が小説を書いているのだとか。ジャンルも恋愛であったり推理であったり怖い話であったり面白い話であったりと、多岐に渡るらしい。
興味があったので、恋愛物を借りて読んだことがあった。
図書室で本を借りる皇族は、わたしだけだったらしい。
「ここには小説もあるのですね。では、小説をお借り出来ますか?」
「もちろん。どうだろう。レディだからというわけではないけれど、暴力的な描写があるよりも恋愛物の方がとっつきやすいかもしれないな」
「そうですね。非現実的な方が楽しいかもしれません」
「非現実的?」
「はい。恋愛は、わたしには縁のなさそうなお話しですので」
まさしく、縁のないジャンルでしょう。
「そのようなことはない。いつなんどき縁が転がり込んでくるかわからないから」
「そうでしょうか? そうですね。ドミニク様がおっしゃるのでしたら、きっとそうなのですね」
「ああ、ぜったいだ。きみは可愛いから、ぜったいに間違いない」
ドミニク様にジッと見つめられると、恥ずかしいというよりかは息苦しくなってきた。
しかも、胸の辺りが痛くなってきた。痛い、というよりかは苦しいというのかしら。鼓動が早くなっている。
鼓動は、どんどんはやく大きくなっていく。
心臓の動きが、すぐにでもとまってしまうのではないかと不安にさせられる。