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不幸中の幸い中の幸い

「理解しただろう、アイリス。俺はそういう人間なんだ。勇者と呼ばれるにふさわしい、高潔な人間ではない。……強い人間では、ないんだ」


 シリアスな雰囲気ってこれで合ってる?

 もう全部聞かれた以上なんとか同情してもらってこの場を見逃してもらうしか方法がないんだが。

 きっと走って逃げたら追いかけられるので、ゆっっくりと踵を返しゆっっっくりと歩き出した。

 どうだ、俺の背中から『放っておいてくれ』というオーラがにじみ出ているだろう。

 シリアスムーブ講座その一。

 恥ずかしいところを見られても焦らないことだ。これ大事。

 徹頭徹尾クールなキャラという仮面は剥がれたが、それでも気難しい男だというイメージは崩さないように振る舞おう。


「──まってください、タイガ様ッ!」


 ワンチャンここから逃げればリカバリーできなくもないから見逃してくれ、と。

 そう考え背を向けて離れようとしたその瞬間──彼女が後ろから抱きついてきた。


「ひ、ひとりになっては、いけません」

「…………」


 何事。

 

「…………?」


 えっ、なにごと?

 あの、ちょっといいか。



 ──背中に、クソデカおっぱいが、当たっている。



「頼りないと、知ったような口をきくなと、そう思われてしまうかもしれません。ですがどうか。どうか……あなた様一人で抱え込まないでください」


 アイリスが何か言っている。

 それは分かる。

 だが困ったことにその何もかもが耳を通り抜けてしまう。

 たぶんテメェ逃がさねぇぞとか、このまま教会に連れてって斬首だぜとか、そういう脅しの類だと思われるのだが俺には何の声も入ってこない。


 ──お、おっ、おっ。

 おっぱいが、柔らかい感触が背中全体に広がっている。

 背中全体に感触が広がるってどんだけデカいんだよその乳。ふざけすぎだろおっぱいオバケかよ。

 ちょっと待って、本当に集中できない。

 俺が逃げようとしたから教会の人間であるアイリスは立場を優先して俺を拘束した。それはわかる。スゲーよくわかる。

 しかし抱き着いて引き留めるとはどういうことだ。

 アイリスに限らず勇者パーティの面々はみんな拘束魔法が使えるはずだ。

 それを使って縛り上げればいいのに──待てよ。

 まさか、冥途の土産のつもりなのか?

 おっぱいおっぱいうるせェから死ぬ前にこの感触だけ味わわせてやるよ、ということなのだろうか。


「ですから──わたしを──」


 神はここにいたのか。

 このロリ巨乳、聖職者の鑑かよ。

 慈悲ってのはこういうことを言うんだな。

 死ぬ前だろうと何だろうと、半年間も目の前にありながら視線を外し一ミリも触れなかった憧れのシスターおっぱいを背中全体で堪能させてくれたのであれば、もう未練があっても死んでいい。


「タイガ様。……お願い、申し上げます」

「あぁ、そうだな。ありがとう、そうさせてもらう」

「──ッ!」


 とりあえず上辺の返事だけ返し、思考を殺して、ただひたすらに背中の感触に全集中する。

 清廉なるロリシスターの聖なるホーリーおっぱい背中味わい──神はここにいた。

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