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パーティの最古参

 ──この二人はあの二人なのではないか、と。 


 視線の先で戦う二人の少女を前にして、そう思えてならないのだとアタシの記憶が叫んでいた。

 タイガを新たな勇者として迎えてからもう半年が経過しようというのに、未だ脳裏に焼き付いているあの少年と少女の顔がチラついて止まらない。


 勇者の十代目にあたるタイガがこの世界へ召喚されるよりも前──アタシは三人の勇者とパーティを組んだことがあった。

 一番最初に行動を共にした勇者であり、妙に馴れ馴れしかった六代目こと、トウマ様。

 同じパーティに所属するも仲間として関りを持つよりも早く魔物との共存を目指すと言って聖都を飛び出し、遺体となって戻ってきた七代目勇者。

 そして大賢者の弟子でありながら勇者を二人も死なせた愚か者として師匠に投獄され、一年間の幽閉を経てから新たに出会った、八代目のサヤ様。

 

 誰も彼もが中途半端なところで脱落した。

 腕は確かだった。それは疑いようのない事実だ。

 聖剣の力を存分に引き出せているという点を鑑みれば勇者としての資質を疑う余地はなかった。

 しかしダメだった。

 だって、いつの間にか死んでいたから。

 自分がいるから大丈夫だとか、明るい態度で希望に満ちた発言ばかりしていたのに、アタシの見ていないところで彼らは下級モンスターの群れの中心で命を落としていたのだ。


 ちぃととやらで仲間を守り続けるんじゃなかったのか。

 復讐のためだけに生きるのはきっと辛いから、一緒に楽しいことを見つけていこうと、そう言っていたではないか。

 最初からそんなこと言わなければこっちも落胆なんてしなかったのに。


 ──この世界は理不尽だ。

 身に覚えのない歴史が因縁となって、アタシの生まれたときから既に魔物と人間は戦争をしていた。

 聖剣が魔王によって制限をかけられ、この世界の人間には扱えない代物になってからこの国も手段を選ばなくなったらしく、気がつけば異世界人の召喚などという禁忌にも手を出していた。

 だが、そんなことアタシにはどうしようもない。

 アタシ一人では人間と魔物の戦いは止められない。

 ちっぽけなただ一人の人間では異世界からの実質的な拉致という国の最高指導者が下した決定に対して、連れてこられた本人への同情だけで命をかけて反旗を翻せる理由もない。

 

 だから、思考を停止した。

 故郷を滅ぼした相手への復讐だけを考えればいいと、自分自身を極限までシンプルにした。

 優しかった母を、育ててくれた父を、暖かい居場所を与えてくれた村の人々を鏖殺したあの憎き竜を殺せればそれでいいのだ、と。

 ただその判断が、自分自身を狭量な人間するだけの悪手だったことに気がついた頃にはすべてが遅かった。

 タイガは墓石の前で泣き崩れ絶望し、トウマ様もサヤ様も故人となっていた。


「ふー……終わった。まだ割と残ってたな」

「そだねぇ。十代目が寝る前にバフかけてくれて助かったよ」


 故人となった──はず、なのだが。


「いこ、六代目。ウチら教会にバレたらやばいし」


 互いを”六代目”、”八代目”と呼び合い、タイガを十代目と呼称するあの少女たち。

 彼女らの姿には見覚えがあった。

 アタシの師匠の書庫にあった本の中にホムンクルスについての概要が少しだけ記述されたものがあり、その一例として挙げられていた完成体の絵にあまりにも酷似しているのだ。


「──待ってください」


 付近の無人となった民家にタイガを寝かせ、そこから出ていこうとする少女二人を後ろから呼び止めた。

 二人は分かりやすく肩を跳ねさせ、玄関に向かっていた脚がピタリと停止する。


「……トウマ様と、サヤ様……なのですか?」


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