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かわいそうなのは抜けない


「めんどくさ……」

「なっ!」


 め、め、面倒くさいだと! ふざけるな!

 いったい俺がどんな気持ちであんな性欲なさそうなフニャチン野郎を演じてきたと思ってるんだ。

 この世界では舐められたらすぐ破滅に直結する。

 他人から奪い取ることが常識となっているクソ殺伐とした余裕のない人間で溢れかえったこの世界で、自分の身を守るにはこうするしかなかったのだ。

 動揺すれば隙を突かれる。

 穏やかさを見せれば仲間や村民が人質に取られる。

 だからこそつけ入るスキがない寡黙な雰囲気を纏い、人質をとっても人質ごと殺してきそうだからそんなのやるだけ無駄だと思わせるような、冷たく硬い鉄の仮面を被り続けたんだ。

 いわゆる生存戦略である。他に選択肢など俺には残されていなかった。

 なるべく胸を見ないように。

 なるべく太ももを観察しないように。

 性欲溢れる二十代の感情を殺しに殺して今があるのだ。

 それを面倒くさいと一蹴するとは何事か。


「結局パーティの女の子に嫌われたくないだけだろう? 国のトップと直接繋がりがある勇者ならその権限も絶大なんだし、命令すれば立場上彼女らは従わざるを得ない。そもそも勇者パーティって名前の部隊なんだからあの中じゃきみが一番偉い人だ」


 俺は首を横に振った。


「無理やりはダメだ。嫌われたくないからだとかそんな理由ではなくな」

「じゃあどんな理由なんだよ」


 そんな分かり切った質問をするとはやはり愚かな男だ、翔太郎。


「──かわいそうなのは抜けない」

「…………、」

「っ? かわいそうなのは──」

「いや二回も言わなくていいよ! 聞こえなかったわけじゃないから! 聞こえなかったことにしたかったけど!」


 何を興奮してるんだ。

 落ち着け、どうどう。


「つまり間宮の性癖の話じゃないか……! シリアス顔してくだらない相談しやがって……」

「別にいいじゃん、いまのおまえ暇人だし」

「好きで暇人やってるわけじゃねーの!」


 荒ぶった様子で胡坐をかきながらプカプカと宙に浮かぶ翔太郎の姿は、なんというか半透明だ。

 俺の相棒が暇人でかつ透けて見える身体になっているのには理由がある。

 答えは簡単だ。

 彼が現在──物理的に死んでいるからである。


「ったく。殺した本人が平然としやがって……」

「しょうがねーだろ。魔王への服従を強制するあの刻印、翔太郎の肉体に直接埋め込まれてたんだから。ちゃんと魂だけ排出して幽霊になる術式も事前に教えたろ?」

「分かってても怖かったけどね!? 友人が真顔で殺しにかかってくるのは!」


 くそー、この~、と当たらないパンチを繰り返す翔太郎。

 無駄なことをしても疲れるだけだというのに。やはり愚かな男だ。



 ──俺たちの目的は元の世界への帰還にある。


 こんなヒトと魔物が殺し合いを続けるファンタジー世界なぞこっちから願い下げだったので、こっそり二人で会いながら綿密な計画を企てていたのだ。

 作戦は大きく分けて三つだ。

 まず俺と翔太郎に打ち込まれた服従の刻印を何とかする。

 次に、俺たちをこの世界に召喚した術式とその起動方法を調べる。

 最後に翔太郎を召喚した魔王城か、俺を転送させた聖導国家エドアールの王城に忍び込み、ゲートを起動させて元の世界へ帰る──とこんな感じだ。


 で、いまは作戦の一段階目。

 俺の刻印については、もう外す方法を見つけてあるため、怪しまれないよう聖導国家に反旗を翻す直前までそのままにしておくとして。

 教会よりも慎重な魔王は、翔太郎の内側に刻印をブチこんだため、こればかりは彼の肉体を諦めるしか道はなかったのだ。許せ親友。

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