レッツ敵討ち
『じゃあ質問だけど、十代目はこの世界でやりたい事とかあるの?』
「仲間のおっぱいを揉むことです」
『アハハ、不純~』
先輩たちからの情報収集をあらかた終え、余った時間で雑談をしていたその時だった。
『お、おーい十代目。なんか魔物の群れが遠くからこの墓地に向かって進軍してんだけど……』
事態の急変。
この日を一言で表すとするならばそれ以外には思いつかなかった。
聖都近郊に突如として出現した魔物の群れ──というより、明らかに何者かによって統率された軍団が警備の薄い居住区を襲撃して略奪行為を始めた、との一報が遠隔通話魔法で入ってきた。
墓地へ訪れること以外何も決めていなかったため、今日は自由な休日だワッホイと浮かれていたのだがそうは問屋が卸さないらしい。
やはり面倒くさい世界だな、とつくづく思う。
神祇官だけじゃなく魔王もキモい。
たまには平和な日常を送ろうという考えには至らないのだろうか、あの馬鹿共は。
今回の魔王軍側の目的は、聖都近郊を襲うことでエドアール側の戦力をそちらに向けさせ、ひとりぼっちの孤立無援状態となった勇者をこの墓地に埋葬してやろう、ということらしい。
俺が勇者墓地へ赴くことを伝えたのは仲間の三人だけだ。
普通に考えれば俺がここにいることなど魔王軍側は知る由もないはずなのだが──そこら辺は一旦置いといて。
墓地に現れたのは不自然なほどに下級モンスターだけで構成された弱々しい魔物の群れであった。
まともに戦えば負けるはずのない相手だが、幸いにもついさっき雑魚モンスターに変装する四天王がいるという話をしたばかりだ。
どう考えても《《アイツ》》がいると、その場にいる全員が空気で察した。
「フハハハ! 人類最後の勇者を殺しに来てやったぞッ!」
そして、なんと指輪を身に着けた骸骨──つまり噂の四天王ことポコチン本人が魔物の群れの中央から出てきた。
まるでこの軍団は私が連れてきましたと言わんばかりのド派手な登場の仕方だ。
それを目の当たりにした六代目と八代目が、俺の背後に隠れながらコソコソと耳打ちをする。
『おい十代目、分かってるとは思うが』
『ポコチンはああいう性格じゃないよ』
もちろん。
そんなことは百も承知だ。
コソコソ隠れながら勇者を殺してきたような奴が、いまさら大仰な名乗りをあげて、相手の目の前に姿を現すはずもない。
中央にいる指輪骸骨は十中八九デコイであり、本物は別にいるのだろう。
「よし。じゃあとりあえず──敵討ちでもしましょうか」