少しの違和感
「──ふっ。最後の晩餐、か」
悟ったようにそう呟いて立ち上がる。
すると、すぐそばにいたエレナが目を見開いて硬直していることに気がついた。
おそらくアイリスによる情報共有で俺が現在置かれている状況は把握しているはずであるため、大方俺が無様に抗うとでも考えており、その実態が意外にも殊勝なもので驚いたのだろう。
「……ね、ねぇ、勇者」
「どうした、エレナ」
おずおずと後ろから俺に声をかけてきた。
彼女は俺を名前ではなく勇者と呼ぶ。俺個人になど興味はなく、あくまで勇者という立場だから仲間として振舞っているんだという意思表示なのかもしれない。多分この認識は間違っていない。この世界の魔法使いってだいたい他人に興味ないやつらだし。
「っ! ……いえ、なんでもない。先に行くわね」
俺が返事をするよりも早くエレナはそそくさと一階へ降りていった。
あの余所余所しい態度も相手が自分の胸を揉みたがっている変態だと判明したあとなら当然の反応だ。
むしろ普通に会話しながら荷物の準備を手伝ってくれただけありがたい。
彼女と今生の別れになるのは、やはり寂しさを感じてしまうな。
あのローブの下にあるハリのいい巨峰を揉みしだいてからここを去りたかった──
──ん?
いや、待て。
落ち着け。
何か、おかしくないか。
実際にこの目で見たわけではないが、きっとアイリスは他の二人のパーティメンバーにも俺の処遇については事前に話してあるはずだ。
ヤベーやつなので近日中に処刑しますぜ、と。
だが、それだとこの状況はおかしい。
エレナはどうして──わざわざ俺の分も含めた荷物の準備を手伝ってくれたのだろうか。
殺されてパーティから永久離脱するメンバーの荷物など、バッグのスペースを潰してまで入れる必要はないはずだ。
四天王の一人を討伐しに向かう旅が始まるのは今日から数えてちょうど一週間後。
近いうちに死ぬ仲間の荷物など、今のうちから処分を始めてもおかしくないはずなのだが──
「間宮、おい間宮」
突然聞き馴染みのある声が鼓膜に響いた。
聞こえた方向、つまり背後を振り返る。
そこには、やはり見慣れた悪友の姿があった。




