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降って湧いたチャンス



「タイガ様、エレナさん。お夕飯ができました」


 現在寝泊まりに使用している聖都の宿──その二階の大部屋で魔法使いのエレナと次の討伐の旅に向けた荷物の準備をおこなっていると、エプロン姿のアイリスが部屋に入ってきた。

 時刻は夕日が沈んだ頃。

 今日中に斬首されるのかと身構えていた俺は、これがどうして未だのうのうと息をしていた。

 自分の首を触りまだ胴体と頭が繋がっていることに安心を覚えたのか、不意に顔がほころんでしまう。

 そんな俺を見たアイリスもまた嬉しそうな表情をして、居間のある一階へと降りていった。

 

 数時間前、翔太郎の墓が鎮座している草原に現れたアイリスはなぜか俺の不審な発言を教会に告発することはせず、ただ『帰りましょう』の一言しか発さなかった。

 その時は彼女の行動の意味を察せなかったが今ならわかる。


 これは俺の背中に幸福の源を密着させてくれた時と同様、聖職者という立場からなる慈悲に他ならない。

 いわゆる最後の晩餐というやつだ。

 曲がりなりにも半年間このパーティで冒険をしたのだから、最後に別れの挨拶と食事くらいはさせてやる、ということなのだろう。

 性的な目を向けられていると発覚したというのに、それでもこんな行動に出るなんてあまりにも優しすぎる。あいつ聖母の生まれ変わりか何かなのだろうか。その無駄にデカすぎる乳に詰まってるのは慈愛の心だったんですね。


 ──さて。

 頼れる仲間の気遣いによってなんとか数刻の延命が叶ったわけだが、このチャンスを見逃すわけにはいかない。

 背中で幸せいっぱいおっぱいを堪能したときは死んでもいいと考えてしまったものの、助かる可能性が増えたのであれば話は別だ。

 俺の目的は変わらずホムンクルス錬成による翔太郎の蘇生と元の世界への帰還にある。

 同情と憐みで心の救済を図ってくれたロリ巨乳シスターには悪いが、それでハイ罪を償って死にますと素直にギロチン台へ身を捧げられるほど殊勝な感性は持っていないのだ。


 しかし夜逃げを企てているとはいえ、それを察知されてはお話にならない。

 なので抜け出す逃走経路を頭の中で組み立てつつ、今晩の就寝前までは敬虔な信徒の如く大人しく死を待つ男として振る舞うことに決めたのがついさっきだ。悟られないよう頑張るぞ!

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