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68 捨て駒

「なんだこれ……」


 俺は思わず呆然としてしまった。

 隣町まで行く途中、たまたま通りかかることになった街道村という場所に足を踏み入れたところ、そこは阿鼻叫喚の嵐になっていたのだ。


「戦ってる……?」


 武器を構え走り回る男たち。

 少し離れた場所で、そのうちの一人の下ろした剣が、同じく武器を持つ男の首元を捉える。

 切り裂かれた方の男はなすすべなく倒れ、そこにさらに剣がつき立ちトドメを刺されていた。

 地面にはすでに複数人の肉塊が横たわっており、中には子供や年配の女性のものと思われるものもあった。恐らくだがこんな光景がこの村の至るところで繰り広げられているのだろう。


「ひ、ひぃいいい!」


 隣にいた御者が情けない声を上げ腰を抜かしてしまっている。

 うーん、どういうことだ? 肉の割かれ方や血の匂いなどもリアルだし演劇とかっていう可能性はないだろう、この人達は本当に命を掛けて戦っている。


「なんなんだ一体」


「……盗賊の襲撃だ」


 おじさんが重い雰囲気を醸し出しながら口を開いた。

 盗賊……? ああ、なるほど。

 日が暮れかかっているので見ずらいが、よく観察してみれば優勢な側の方の服装は戦闘に最適化されたものであることがわかる。革鎧や、本格的な武器を装備しているのだ。つまり想像するにこのガチ装備側の方が、この村を襲っているという予測が立つ。つまり典型的な盗賊のふるまいというわけだろう。


「そんな感じだね、でも凄いな、俺たちが襲うってタイミングでこんなイベントが降り掛かってくるとは」


 襲撃のバッティングというやつだ。そう考えるとこの村は可愛そうだな、どうなっても滅ぶ運命じゃないか、ホント思いやられる。


「ちっ、くそどもめ」


 おじさんが凄い形相になって騒動の現場を睨んでいる。怖い、なんだよそんな顔されたらビビっちゃうんじゃんか。でもそうかおじさんは以前に自分の村を盗賊に蹂躙された過去があるんだっけな。そもそもそれによって幽霊になっちゃってるわけだし、思うところがあっても不思議ではないのかもしれない。


「大丈夫?」


「ああ、大丈夫、おらぁ冷静だ。冷静にいかってんだよ、こういう底辺のゴミカス人種が存在しているということ自体にな」


 ああ、こりゃ相当キレてらっしゃいますわ。頼むから俺には怒らないでくれー。


「……でもどうしよっか。完全に出鼻をくじかれた感じになっちゃったけど」


「こいつらごとやればいいんじゃねぇか。結局得られる結果としては変わんねぇだろ」


「まぁそれはそうか」


 いつになく強気なおじさんの提案に乗ることにした。

 確かにこの村がどうなっていようが、俺たちはそれなりに歳のいったおっさんを集められればそれでいい。やることは変わらないというわけだ。


「じゃあまぁ混乱に乗じてやりますか…………うん?」


 そう思い行動を開始しようとした俺だったが、かなり近くから男のくぐもった声が聞こえることが分かった。俺たちではない、第三者のものだ。


 何かと思い、ひっそり近づいてみると、そこには男と女がいた。

 物陰に隠れた男が女を組みしき、そういう行為に及んでいたのだ。


「は、は、ハハハハハハッ!!」


 男は凄く楽しそうに笑っていた。

 女の方はぐったりとしてなんの反応も見せていない。


「えぇ……」


 俺は言葉も出なかった。びっくりだわ、何してんだよこいつ。人のそういうやりとり初めて見たわ。


「戦の中ではよくあることだ……敗れた側の女はさらわれ犯される。俺の村だってそうだった」


 おじさんは冷静に言葉を口にしていた。さすが、大人の余裕というやつですか。ドギマギしてる俺が恥ずかしくなってきた。


「まぁとりあえずあの人に状況を聞いてみるか」


 行為中申し訳ないが、俺は無造作に男に近づいていった。


「んぁ?」


 俺たちに気づいた様子の男が顔をあげる。


「な、なんだテメェら!!」


 男は慌てて飛び退き、ズボンを上げていた。


「はっ、逃げずにやろうってか、無駄だぜ、どうせお前らは俺たちのおもちゃにされてしまいだッ!」


 その台詞の勢いそのままに地面にあった得物を手に取り、男がこちらに向かって突っ込んでくる。刃渡り三十センチくらいのダガーナイフに見える。器用にシュイシュイシュインと手先で回しているところをみるに相当扱い慣れてる感じだ。


「カカあッ!」


 男は素早い動きで一番前に出ていた俺に飛びかかってきた。

 ナイフを腰に引き、突き刺そうとする構えのようだ。


 そして射程圏内に入ったところで、男のナイフが案の定俺へと突き出される。

 俺の胸部あたりを狙った一閃だ。

 俺はナイフの刃を掴んだ。

 刃はぐしゃりと潰れ、ふいっと上に振り上げるとナイフは男の手元を離れ、上空を舞いながら俺たちの後方へと山なりに落っこちていく。


「……は?」


 男は俺に攻撃してきた体制のまま固まっていた。何が起こったか分からないといった顔だ。

 うーん、正直言ってすべてが遅い。素人の域をまるで出てないんだよな。まぁ盗賊なんてこんなもんか。

 男の力量に少しガッカリしながらも、俺は男の右手の人差し指を掴み、ごきりとねじ切った。


「う、うぎゃあああああああああああ」


 男が絶叫している間に、右足をを蹴りで吹き飛ばし、もう二度とまともに歩けない体にしてやった。

 あ、ちょっとやりすぎたかな、まぁ死にはしないだろう。さて、尋問タイムといくか。

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