66 約束だよ? 結婚しようね
「あー、結構日も傾いてきたな」
俺は馬車に揺られながら、窓から覗く空を見て呟く。
なんやかんやあり現在俺とおじさんは馬車をゲットして隣街を目指していた。
運転は元々の馬車の持ち主である御者の人に任せている。隣町のある場所を俺たちは知らないので、本当に助かっている。
「このままだと日が暮れちまうんじゃねぇか? 馬車の運行は大丈夫なのか」
「どのくらいで着くかにもよるんじゃない? 聞く所によるとそこまで離れてもいないって話だけど」
まぁ一応聞いてみるとするか。
「ねぇ、あとどれくらいでつくの?」
俺は馬車の前方の窓から顔を出し、外で手綱を握る御者の男に尋ねてみた。
「は、はい。二時間も走らせれば到着するかと思います」
それだと日が暮れてしまいそうじゃないか? この世界の日没、日の出の時間帯も地球と似たようなものなので、順調にいけばもうすぐ日が落ちきってしまう。今思えばこの星がどのような構造になっているのかまだ聞いたことないな。球体なのか、平面なのか。まぁ分かったところで意味はなさそうだから別にどうだっていいけど。
「馬は夜道とかでも走れるの?」
「問題ないかと思います……馬は比較的夜目が効く方ですので」
そうなんだ、だったらいいか。二時間はちょっと長いが、刻一刻を争うというわけでもない。まぁよしとしよう。
「そ、それよりも、案内したら本当に解放してくれるんでしょうね? 約束しましたもんね?」
男が怯えるような表情で俺に尋ねてくる。
この男には殺さない代わりに街まで案内するようにと告げていたのだ。
「それはあんたの働き次第だろ。あんたが優先的に決めることじゃない。なんなら今死んで貰っても構わないぞ? また新しい人に頼めばいいだけの話だから」
「……そ、そんな!」
「でも俺はかなり寛容な方だからな。約束したことを破ることはないと俺自身は思っている。その言葉で十分?」
「……ぐっ……やりゃいいってことでしょ、やりゃ……」
男は苦虫を噛み潰したような顔で再び前を向いた。
まぁそうは言ったけど実際次の案内役を探すのは凄く面倒くさいし、できればこの男には最後まで案内してもらいたいというのがある。あんまりやる気を下げるようなことを言うべきではないのかもしれない。まぁ最後にちょこっとフォローしたから大丈夫だとは思うが。
「なんかお前さん人の扱いが……なんというか相当手慣れてるよな」
おじさんが呆れたようにポツリと呟いていた。
「え、そう? まぁ必要になれば人間だろうが動物だろうが協力してもらうさ。目的をきちんと達成するってのが一番大事だからね。余計なことに気を使ってうまくいかないって結構バカバカしいと思うし」
「それはまぁ、そうなのかもな」
そうこうして馬車は順調に進んでいく。
「あ、そう言えば隣町……名前なんだっけ?」
「グリリバだろ」
「そうそう、グリリバの街に着いたらどうするか決めてなかったよね」
「確かにな、でもひとまず休憩すんだろ? お前さんは睡眠が必要だろ」
「それはそうだけど、その後とかの話だよ。今後の方針というか」
「うーん、そうだな。俺としては正直お前さんの考えに全てを託している節はあるから、何かいい案があるってのならそれに素直に従うだけだ。勿論俺にできる限りのことは精一杯やらせてもらうが」
「そうは言ってもね、とりあえずおさらいしとくと最終目標はおじさんの村を蹂躙した盗賊を探し出して復讐することだよね?」
「ああ。その通りだ」
「で、それをしようにも今のおじさんの状態じゃ不便極まりないから、憑依できる肉体を見つけようって話になってるってわけでしょ」
霊体の体じゃ現世に干渉できる時間に限界がある。
盗賊を皆殺しなどにするのであれば、とてもちょっとの時間では足りないだろう。戦闘力的にも武器とかは持ちたいだろうし、本格的な復讐をするなら媒体となる肉体は欠かせないように思える。
「そうだな」
「だとしたらその肉体の候補を大量に確保できるような場所に行けばいいんじゃないかな」
「それはまぁ数がありゃあるほど当たりの確率も上がっていくだろうが、そんなとこあんのか?」
「さぁ。あればいいなって」
「願望かい」
「おじさんぐらいの年齢の人って普段何をして生きてるの?」
「うーん、そりゃ難しい質問だな。当然人とか環境とかによって生き方は違ってくるだろうし……一概には言えねぇよな。強いて答えるなら色々じゃないか」
「そこそこ働き盛りな歳だよね? だとしたら例えば大工とか、漁師とか、結構男が固まってる印象があるんだけど」
「さぁ、そんなに関わったこともねぇからよく分かんねぇな。なんだ、集まってる場所を襲撃するって考えか?」
「そう思ったんだけど、よくよく考えればめんどいか。余計なこと考えずに街ごとガッと滅ぼしてしまったほうが早い気もするな」
そうだ、考えてみればそれが一番肉体を確保できるような気がするぞ。こそこそ隠れながらみたいに考えてたけど、そんなことせずとも堂々と男どもを食い荒らせばいい。なんなら俺たちを驚異とみて排除してこようとする奴も俺からしたらいい敵だ。倒せば倒すほど強いやつが出てきそうだし。なんだこの作戦、おじさんの肉体もためらいなく探せて、俺の強いやつを倒すという目的も達成することができる。神のような作戦じゃないか? もうこれやるしかないだろ。
「街って、何考えてんだ……」
「大丈夫、俺に妙案が浮かんだから。あとで話すよ、どうやら目的地に着いたみたいだ」
すっかり暗くなった景色の中、前方に人工的な光が灯っているのが分かった。




