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63 生しょうが

「それじゃやっちゃってもいいよ」


 俺はおじさんに行為を促した。

 現在、平原の真っ只中に俺たちはいる。

 馬車に乗っていた者や護衛のうち、四人を捕縛することができたので、あとはおじさんに任せることとする。

 生気を吸い取るとか乗っ取るとか言ってたけど、具体的にどうするとかはまだ聞いてないし俺に何ができるとも思えない。ひとまず温かく見守ってあげるしかないだろう。


「ああ、分かった」


 おじさんは真剣な眼差しで返事をする。

 そして一番近くにいた藍色の髪の生意気な男に近づいていく。

 因みに浮いてる状態ではなく、どういうことかは分からないが足を地面につけた状態になっている。


「お、おい、どういうことだよ」


 その男が明らかに怯えるのが分かる。

 おじさんが近づいていくにつれてそれは顕著になっていった。

 おじさんがしゃがみ込むと、地面から手を放し、後ろにのけぞった。

 あ、放した。それは流石にルール違反だよな。これを許すとなんでもよくなっちゃう気がするし……


 俺は魔力のムチで男の太ももを切り裂いた。


「ああ゛ッ」


「放すなって言ったよな? 言うことは聞けよ」


 これでも大分手加減してる方なんだけどな。本来なら足を切り落としたりしてもいいところだ。


「う、ぐっ」


「それじゃ、いくぞ」


 おじさんが男の前にそっと膝をつき、男の顎に手をやる。

 なんか絵面が怖いことになってる気がするんだが、絶対何かの気の所為だよな。俺の目が腐ってるだけだよな!


「おい! 俺たちは助かるんだよな!? 殺さないって言ってたよな!? 信じてるぞ! 信じて……」


 男がまくし立てる中、おじさんは男の唇を奪った。

 まぁあくまで学術的な観点からものを申すならこれは接吻という行為だろう。唇と唇を引っ付け合い、主に愛情を確認し合う際に用いられる行為だ。

 おじさんは男の唇にしつこいまでに食いついていた。何を見せられているのかと、俺は軽く死にたくなった。いや、おじさんがすることだ、きっと意味はあるはず。そう思い見ていると、だんだんと藍色の男の肌の血色が悪くなりつつある気がした。それは物理的なものなのか、それとも精神的なショックでそうなっているのかは正直分からない。そしてそれに反するように、おじさんの方は活力に満ち溢れていっている気がした。


 それが十秒ほどは続いただろうか。反抗することもなくなされるがままになっていた男から、ようやくおじさんが口を放す。

 おじさんが立ち上がり離れると、藍色の男は完全に精根尽き果てた様子でぐったりと地面に寝そべった。


「ふぅ、生き返ったぜぇ」


「…………」


 満足そうに口を拭うおじさん。

 元気を取り戻すその様は見ていてとても喜ばしいものであるはずなのだが、なぜか俺の口からは言葉の一つすら出てきはしなかった。



「こ、これは……」


 そして当然のように絶句する一同。


「お、おい! どういうことだ!」


 まず突っかかってきたのは俺が腕を潰した茶髪の青年だ。

 まぁ当然の反応だわな。


「き、危害は加えないってそういう話だったろうが!」


「久しぶりに補給できたぜ、こいつらには悪いがな」


「う、うん、よかったね」


 おじさんは満足そうに俺に微笑みかけてくる。


「何が目的だ!」


 年寄りのおじさんも取り乱している。


「なんというか……そんな風に接種するんだね、生気って」


「ん? ああ、口からが一番吸い取りやすいんだ。やっぱし若いやつは生命力に溢れてていいな。今の一発でほぼ回復できた」


「その一発でどれくらい持つんだ?」


「どのくらい活動するかによるな。普通に活動するだけなら数日くらいは確実に持つが、現世に干渉するとなると数秒でほぼ使い切っちまう」


「ふーん」


「聞いてんのかよッ!」


「ちなみに唇を付ける行為は干渉のうちに入らないの? 大体十秒ほど続いてたと思うけど、数秒で使い切るっていうならその時間は無理なんじゃない?」


「うん? あれは軽い干渉だからほとんどエネルギーは使わないぞ。相手により力を伝えようとするほど消費しちまうんだ。殴るとかなると特にな」


「なるほど、そういうことなんだね」


「おい! いい加減にしろよ!」


 ついに茶髪の男が立ち上がった。

 潰された片腕は当然だがぶら下がっている。


「なんなんだよお前らは! 俺たちを殺すのか、殺さねぇのか! ハッキリしろよ! 目的は? 目的を言え! 金目のもんっつうなら今はなんにも持ってねぇよ! もう分かったら解放しろよ! これ以上はなんのメリットもねぇだろうが!」


 男は涙目で食って掛かってくる。

 まぁ言いたいことは分からなくもない。男からすれば俺たちの動機はほんとうに謎で理解に苦しんでもおかしくはないよな。


「いや、悪い悪い。正直行き当たりばったりでね。じゃあもう回復はできたってことでいいの?」


「ああ、そっちは問題ねぇ」


「じゃあ後は憑依の問題かな」


「ああ、だが上手いこといくかどうか……」


 自信なさげにうなだれるおじさん。

 まぁそれは鼻から分かってたことだからゆっくりいけばいいでしょ。


「とりあえずやってみようよ。憑依はどうやってるんだ?」


「俺もまだ分かってない部分が多いんだが、感覚的にいけば、まず依代を限りなく仮死状態にするんだ。そして命が事切れる瞬間に、その魂のあった場所に潜り込むって感じなんだが」


 なにそれ、メチャクチャむずそう。


「ということは、あれか、ゆっくり殺せばいいのか」


「そうだな、まぁ普通に殺せば、殺す行為と実際に死ぬまでの間に時間ができっから、なんとかチャレンジはできるとは思う」


 そういうことらしかった。

 ほんとに微妙な試みだな。正直俺からしたらちんぷんかんぷんだが、霊体であるおじさんからしたら何か分かることがあるということなのかな。まぁ俺はおじさんを信じるだけだからな。


「ということで、申し訳ないけど……」


 俺は視線を立っている茶髪の男に向けた。


「な、なんだ」


「いくよ、えい」


「……え?」


 俺は分かりやすいように、素手を男の胸に突き立てた。

 ジワ……と衣服に赤黒い液体が広がっていく。


「そん、な……」


 男は大粒のナミダを流しながら、絶命していった。



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