61 タン絡ませ
中にはおじさんが二人いた。
いや、一人はおじいちゃんと言った方がいい年齢か。頭の天辺付近が大きく禿げており、生き残っている髪も白く染まっている。そしてもう一人は五十代くらいの男だった。
ほう、やっぱりいたじゃないか人間。まぁこれだけの護衛を雇ってるんだ。人がいなければ何してるのという話になるしな。
「な、なんだ貴様!」
中にいる七十代くらいのおじいちゃんが吠えてきた。
うーん、なんとも気が強そうな人だ。おじいちゃんはおじいちゃんでも正直全然タイプじゃないな。俺は優しい感じの知的そうな年寄りが好みなのだ。喧嘩腰に怒る人は老若男女問わず嫌いだ。
「えっと、僕はこの馬車を襲った危ない人なので、ひとまず降伏していただけますか? さもないと危害を加えますよ」
「何をわけの分からぬことを言っておる! おい、峠の道標! 中に敵が侵入してきたぞ! 護衛はどうなってるんだ! 仕事の落ち度だぞ!」
七十代の男は外に向かって叫んでいる。峠の道標? もしかしてさっきの護衛たちのことか? ドアは思いっきり開いてるからギリギリ聞こえてるかもしれないけど、屈服させてるから動かないと思うけど。
「悪いですが外にいた人たちは無力化させていただきました」
「はっ? Eランク冒険者というから雇ったのに護衛も務まらない役立たずだったのか……? ちっ、なんでこんなについてないんだ私は! とんだ不良品を掴まされたものだな!」
男は顔を真赤にして、ツバを飛ばす勢いで怒っている。
「貴様! 盗賊の部類か知らないがこんなことしてタダで済むと思うなよ!? 街に帰ったら衛兵に言いつけて指名手配してやる! こう見えて私は国との繋がりも少しばかりあるのでな。お前みたいなクズ同然のやつとは存在の格というものが違うのだ!」
男は俺に対してそんなことを言ってきた。
えー……何かいろいろツッコミどころ満載なんですけど。そもそもこの状況でなんでこんなに偉そうにできるのか分からないし、ましてや帰って言いつけてやるだって? なんで自分が助かる前提でいるんだろうか。もしかするとこの人自身凄い強かったりするのか? それか横にいる五十代の男が護衛の切り札とか? それだったらまぁ頷けるけど。強いやつは大歓迎だしな。
「どうでもいいですけど、戦いを挑んでくるというのなら攻撃してきていいですよ。その代わり負けたらちゃんと降伏してくださいね」
「何をさっきから訳の分からぬことをッ! おいウェマー! どうにかしろ!」
「え、はい!? 私ではどうにもなりませんよっ……」
「なんだと!」
男の怒りはマックスに達してるようだった。
「クソっ! どいつもこいつも役立たずめ! 何という日だ、私に限ってこんな憂き目にあうとはな! ちっ、もういい、この期に及んでは仕方ない、私も譲歩しよう。おい貴様、何が目的だ? 馬車か? 金か? 必要なら私がいいという額までよこしてやる。寛大な私に感謝しろよ? 通常であれば貴様のような薄汚い存在、私のような男と関わることすらできないのだからな」
男はそうぞんざいに言い放つ。
なんだろう、戦わないのかな? だとしたら何の根拠があってこんなに偉そうにできてるんだ? 何か奥の手があるとかだろうか。ダメだ、全然理解できない。一つ分かるのはこの人の主張は著しく合理性にかけているということだ。全てがうまくいくと思っているご都合主義者とでもいうのだろうか。今のままだとそういうことになっちゃうけど……。
「何もないというのなら降伏ということでいいですよね? 僕もそんなに暇じゃないんであまり話を長引かせないでくれます?」
実際は結構暇な方だが、急かせるために言ってみた。
「なんだその言い草は! 野蛮人は案の定言葉遣いもなってないようだな! 私がこれだけ厚意を向けてやってるというのにそれを無下にするとは、ゴブリンの頭脳は理解に苦しむ。そうか、ゴブリンに人間の言葉を使うというのがそもそもの間違いだったということか。はっ、私としたことが、とんだ思い違いをしていたようだ」
額に手を当て、なにやら自分で納得している様子の男。
はぁ、なんかこれ以上話し通じなさそうな感じだしもういいかな。これ以上引き伸ばすのは本当に時間の無駄な気がする。
「降伏しないということですね?」
「偉そうに……一つ忠告してやるがもし私に危害を加えてみろ? 私の下僕たちが貴様を地の果てまで追うことになるぞ? つまり貴様は死ぬのだ。いや、ここまでの愚弄、死すら生ぬるい。あらゆる拷問に掛けた上で」
そこまで男が喋ったところで、俺は手を振るった。
魔力の爪で、男の右耳を切り飛ばしたのだ。
「……え」
何が起きたのか把握しきれないのか、饒舌を取りやめ呆然とする男。
なんだ、やっぱり全然反応しきれてないじゃないか。あの強気な態度はハッタリだったのか? やっぱり思考回路が理解できないな……
「う、ぐぎゃあああああああががああああ!!!!!!」
男は負傷した部分を抑えながら、声にならない声を上げていた。
うーん、反撃してくる様子もなしか。となりの男も慌ててる感じだし、戦闘の極意ゼロだなこりゃ。あれ、というか待てよ? 何となく攻撃しちゃったけど、もしかして不用意に傷つけたりするのは良くないんじゃないか? 確かおじさんの霊が宿る可能性もあるとか言ってたよな? やっちまったか。耳って自然治癒で再生するっけ? しそうにないよな……。
そんなこんなで馬車とその護衛たち全てを制圧したのだった。




