52 せめる。
人間の街を目指し歩いていると二軒の小屋を見つけた。
平原の中ぽつんと建っている。
流石にここで入らないわけにはいかないだろう。
さもないと今後一生後悔し続ける自信がある。
コンコン。
俺は小屋のドアを叩いた。
「…………」
だが何も返事がない。
三回ほど繰り返しても何の音沙汰もなかったので、俺はドアを開けて中に入ることにした。
ガシャ、ガシャ。
しかし鍵がかかっているのか固くて開かない。
引き戸か押戸か分からないが、いずれにせよ開けるのは無理そうだった。
くそ、面倒くさいな。仕方ない、ぶっ壊そう。
バキ! ガラガラガラ……!
ドアを思いっきり蹴破ると、凄い勢いで吹っ飛んでいった。
「な、なんだ!?」
すると中から声が聞こえた。
小屋の中は雑多としており、一言で言えばすごく汚かった。
「ごめんくださーい」
「は!?」
俺の前に姿を表したのはボサボサ頭のおじさんだった。
白のシャツに薄汚れた簡素なかぼちゃズボンを履いている。
おお、人間だ。耳も尖っていない。なにげにこの世界で初めてあった人間なんじゃないか? いや、
一番最初にメガネの少女に会ったといえば会ったか。まぁあれはちょっと特殊だし現地の人間で数えればこれが初めてだよな。
「あなたは誰ですか?」
とりあえず質問してみた。
「こっちのセリフだよ! 何故俺の家が壊されなきゃなんねぇんだ!」
おじさんはキレていた。まぁ普通自分の家のドアを壊されれば怒って当然だとは思うけど。突発的にやっちゃったけどやめとけばよかったな。
「申し訳ないです。ノックしても誰も出てこないので、てっきり留守なのかと……」
「ああそうだよな、留守ならドアをぶっ壊して不法侵入しても……ってならねぇよ!? どうしてくれるんだ俺のドアを!」
なんだやけに威勢のいいおじさんだな。こういうノリのいいおじさんはかなり好きなんだよな。もう少しすれば肌ももたれてきて俺好みのお爺ちゃんになるだろうけど。ちょっと今はまだ青すぎるかなぁ。
「それはホントに申し訳なかったですけど、出なかった方も悪いですよ。相手を待たせることへの罪の意識が足りてないんじゃないですか? そういう人が平気で遅刻したりするんですよ」
「いや、まぁ確かにすっかり寝こけちまってたけどよぉ……それでドアを壊されるのはやっぱり納得はいかねぇが……」
「こんなところで何をしてるんです? 周りには何もないと思いますけど」
ねちねちと尾を引いてる雰囲気だったので話題を変えて誤魔化してみる。
「あ? いや、何をしてるも何もここに住んでるんだが」
「一人でですか?」
「そうだぞ。何か悪いか?」
「そういうわけじゃないですけど。普通はもっとライフラインが充実してるような利便的な場所に居を構えるかなと思ったので」
「人の人生なんだ、他人が何をしようがお前さんには関係ないだろ」
おじさんはふん、と鼻を鳴らしながら言った。
やば、今のまじで可愛いわ。くそ、そんな不意打ち気味に胸キュンさせやがって。卑怯だぞ。
「それはそうですね。でもやっぱり何でこんなところにいるのか気になるんですよ。ちょっとお邪魔させて貰っても宜しいですか?」
「は? 何がどうなったらそうなるんだ」
俺はおじさんともう少し話したいという気持ちからついそんなことを口走ってしまう。それにどの道人間の街までのルートも教えて貰わなければならないのだ、おめおめ引き下がるわけにもいかない
「いいじゃないですか。おじさんも話し相手がいなくて退屈でしょう。僕がお相手してあげますよ」
「そんなもん必要ねぇお断りだ。というかそんな変な格好してる怪しいやつをほいほい家にあげるわけねぇだろ」
今の俺はいつか出会った部族の衣装に身を包んでいる。確かにファッションとしては少し奇抜かもしれない。
「じゃあお言葉に甘えて」
「お、おい! 勝手に入んじゃねえ! 誰がいれるかよ!」
ぐいぐい中に入っていく俺を押し止めようとするおじさん。ああ、ヤバいかもこれ。受けを拒絶する感じがマジで俺の琴線を刺激してくる。ダメだもっと、もっと。
「だから入んじゃねえって! 痛い目みたいのか!? おい、だから、おい、やめろ……!」
想像以上におじさんが抵抗してくる。それはそれでいいのだか、そんなに人を中にあげたくないのかと少し違和感を感じてくる。ここまでくれば一端諦めても許容してもおかしくない塩梅な気もするのだが。
「本当にやめてお……うおっ!」
俺は軽くおじさんをはね除ける形で無理やり中に押し入った。あぁちょっと乱暴しちゃったかな。いうて全然力入れてないけど。これで嫌われちゃったりしたら嫌だな。
そんな不安を抱きながらも、とりあえず座るところがないかと部屋の内部を見渡す。そしてとあるものが目に留まった。
「……え?」
乱雑に紙やら布やら鉄やらが散らばっている部屋の中。
この場においてやけに似つかわしくない物が一つ。
それは男だった。
年の頃は部屋主のおじさんと同じ四十代くらいに見える。
その男は床にひっそりと横たわっていた。目が完全に見開かれた状態で。
その目は瞬きが行われる様子もなく、乾ききったままとなっていた。
俺には分かった。
この男は、死んでいる。
そして状態的に死後数時間は優に経過しているということも。
「…………」
背後から気配を感じる。
もし振り向いたとしたら、一体どんな顔をして待ち構えているのだろう。
俺は触れてはいけない一件に足を踏み入れてしまったのかもしれなかった。




