42 寿司ネタざむらい
「何かてめぇ態度が気に食わねぇな。でも俺さまは寛容だからよ、一瞬で方を付けてやる」
立ち塞がってきた男はそう言い捨てた。
王城の核となる場所を目指していた俺たちだったが、建物に入ろうかというところで絡まれてしまったのだ。相手はどうやら俺たちを殺す気らしい。
はぁどうしようかな、すごい自信を持ってそうなやつだし多少はやれるのかもしれないけど、もうこれ以上グダるのも嫌だしなぁ。全部サクッと片付けてしまうかな。相手の意思は尊重していって上げたいけど、俺にも都合というものがあるのだ。いつまでもこんなエルフのどうのこうのでもたついてるわけにもいかないもんな。俺は世界を見なければならない!
男は建物の上から俺を見下ろしている。
そして周囲にはその仲間計八名。
俺はひとまず建物の上の男の元へ跳んだ。
まずは頭を打ち取る。そうすれば戦意も削がれるだろうし、ヘタに残して何かされるという可能性も減る。戦力自体も大幅ダウンだ。
俺は男の元に一直線に突っ込んでいく。
男は一瞬面食らったような表情を浮かべたが、すぐにその場で跳躍、上空に躍り出た。
なるほど、確かにすごい身体能力だ。その身のこなし、猿のようでしなやか、実にお見事。
しかしその選択は愚かだったな。
俺は男がそれまでいた位置に手を着くと、素早く体勢を立て直す。
残念ながら俺も森育ちなんでね、猿度はかなり高いんだぜ。
そして宙で無防備になっている男の元へ再び跳んだ。
男は槍を構え、防御の体勢に入っているのが分かる。
まぁどうとでもできるが、そうだな、これでいいか。
俺は手の指から魔力を伸ばし、鉤爪を作る。
そう、必殺の引っかき攻撃だ。俺は猫でもあるのさ。
俺は長く伸ばした爪で引っかきにかかる。
いつも通りであればこの爪の存在に反応できず、的はずれな守り方をして大ダメージを負うことになる。
しかし男はこれに反応し、右手での爪攻撃を感知して、爪を槍で受け止めた。
ほう、見えてるんだな。
じゃあこれはどうかな。
俺は次に左手でウニのように魔力を針状に伸ばし、攻撃する。
これは面ごと制圧する範囲攻撃だ。針の数は百本を優に数えるだろう。
守るには面で防御するか、すごい勢いでかわす必要がある。
だが男の持っている武器は槍で、そんなもので広い範囲を防御なんてできるはずもない。
男はウニで貫かれ、蜂の巣になった。
いや、それよりも酷い、なんかもうブツブツのただの穴あき人間だ。
数多の針に貫かれた瞬間、ブシュっと全身から血が吹き出ていた。
その状態で、地面に着地する。
貫かれた穴たちから、魔力の針にかなりの量の血がゆっくりと伝ってくる。
魔力を解除すると、大きなボロ布のようにボタっと地面に落ちた。
ただただ可愛そうな感じになっていた。
……はぁ、あっけなかったな。まぁこんな所でもたもたしてる場合じゃないからな。サクサクと進めていかないと。
俺が元いた場所へ振り返り歩いていくと、そこには固まった九名の奴たちがいた。
あれ? 戦わないのか? まぁ今の攻防が一瞬すぎてまだ状況が整理できてないんだろうな。
だったら変に待ってやる必要もないか。これ以上時間は掛けないと決めたからな。
俺は九名のうちの一人に突進した。
フードから顔が垣間見える。そいつも例にもれず男のダークエルフで、驚いたような表情で飛びのこうとしていた。だが身のこなし的には全然で、飛び退いた先に猛スピードで追いつき、引っ掻いてやっつけた。
体に四本の深い傷を負って、地面でのたうち回っている。腕も片方飛んでるし、戦闘不能だろう。
「て、撤収!」
すると残った八人のうち七人が一斉に、この場から去っていった。
なんだろう、どいつもこいつも逃げの判断だけは早いんだよな。まぁ生きる上で大事なことだけどな。生きていれば、後から何度でもやり返せるんだから。
そして俺は最後その場に残っていた一人の元に近寄り、話しかける。
「なにボケっとしてんの?」
その最後の一人、エルフの王女様は、脳の全てがはてなで埋まってそうな顔で突っ立っていた。
「い、いえっ、そ、その、何が……」
「終わったんだよ。早く中に入ろうぜ。こんな奴らじゃ腹の足しにもならん」
グルメな俺には一切味のしないやつらだった。
こんな調子じゃ主犯格とやらの実力も思いやられるぞ。本当に大丈夫なんだろうな? 何のために来たのか分からなくなるんだが。
「わ、わかりましたわっ!」
一泊遅れて、俺の背中にさーっと付いてくる。
はぁ、とにかく早く終わらせよう。決着をつけて、世界を見て回るんだ。森とかエルフとか流石に見飽きてきたしな。
その後建物の中へと入った俺たちは、二にデリアの案内の元、中心部へと進んでいった。
中心部とは王城の敷地内でもド真ん中付近にあるエリアのことだそうで、そこに主要な部屋や場所が密集しているのだとか。
てわけでそこを目指して進んでいたのだが、途中ところどころでダークエルフのやつらが現れ、俺たちを妨害してきた。大人数でかかってくる時もあれば、いかにも自信のありそうなやつが、一人で絡んできたりもした。
その悉くを返り討ちにした俺たちは、ついに王城最大の名所、大広場へと足を踏み入れたのだった。