41 愛さえあれば?
見張りを突破した俺たちは王城の内部へとさらに進行していた。
「なんか全く手応えがなかったな。クーデターの主犯格とやらは本当に期待できるんだろうな?」
さっきの見張りの奴らもそうだったが、これまで出会ってきたダークエルフたちは総じて大したことのない戦闘レベルだった。もし今後現れる相手が永遠にこの程度だというのであれば完全に拍子抜けを食らってしまうだろう。今に来て不安になってきていた。
「……行ってみないと分かりませんわ。とにかく先を急ぎましょう」
そう言うニニデリアの態度からはどこか焦りのような感情が見て取れる。
さっきまでは全くそんな急ぐなんて素振り見せてなかったのに。どうしたんだろうか、やっぱり戦闘の楽しさをもっと味わいたいとかってことか? そんなわけないか、俺じゃあるまいし。というか別に俺だって戦闘を楽しみたいとかいう感情はそこまで持ち合わせてない。どちらかと言えば強い相手との勝負に勝つというところで満足感を得ているだけに過ぎないのだ。俺にとって大事なのは仮定ではなく結果なのさ。
「まぁ広そうな庭だけどいうてすぐそこなんだろ?」
俺たちは今現在、彫刻やら石柱やらちょっとした建物などが点在している庭にある道を、堂々と歩いている。ニニデリアがいうにはこの道をくねくねと辿っていった先に、メインの王城へと繋がる場所にたどり着けるのだという。
「見えてきました、あそこですわ」
そう言って彼女が指を差してみせたのは、一際大きな学校のような建物だった。といってもとんでもないほどに綺麗な造りがなされており、昨日建てたんじゃないかと思えるくらいにはピカピカでいい感じだった。
「真っ直ぐ入ればいいんだな?」
「はい、そこがエントランスとなってますので」
はぁ、ようやく建物の中に入れるぞ。無駄に道が長いなぁ、ていうかこれだけ長く歩いてて誰とも会わないってそれはそれでどうかと思うけど……。ていうかこの王城の中にも人っているんだよね? まさかあの見張りたちがラスボスとか言わないよな?
「じゃぁ早速……」
「おいおいおい、どこに行くつもりだぁ?」
俺が建物の中に入ろうとするのと声を掛けられたのはほぼ同時だった。
気づくと俺たちはいつの間にか何人かの人物に周囲を囲まれつつあった。
なんだ? ようやくお仲間のご登場かよ。
ちなみに俺に話しかけて来たやつは入ろうとしていた建物の上に立っていた。
「どこって、中に入ろうとしてたんだよ。あんたは誰?」
その人物はまだ若そうに見える肌が黒い男だった。若いというか少年と呼んで差し支えないくらいの年齢か? とにかくその男も例に漏れず長い耳を持ったダークエルフだった。
「俺か? んー、まぁそうだなぁ、改めて何者なんだと聞かれると返答に困るんだがなぁ、まぁとある部隊のリーダー、と言っとくのが正解なのかねぇ。わかんねぇが」
男はかなりぶっきらぼうな口調をしていた。
すごいな、何でそんな風に喋るんだろう。まぁ文化の違いというやつなのかね。
「なるほど……で、このタイミングで来るということは、やっぱり俺たちの進行を阻止しようってことなのか?」
「ああ。うるさいハエが入り込んで来たって言うからな。誰もいかねぇから仕方なく勤勉な俺さまが出向いてやったってわけだ。ったくあいつらガラクタで遊んだりして何が楽しいんだか、俺にはあの感性はちと理解できねぇが……。ああ、こっちの話こっちの話。とにかくお前らはもう終わりだから」
男はそう言うと、持っていた槍をクルクルと回し、背中にピタリと付けた。
「どうする? 大人しくココで死ぬか。捕まって中に連れて行かれるか。俺は優しいからよ、選択肢をあげてやんよ。ちなみにおすすめは前者の方だ。なぜなら後者の場合はどんな死に方をするか分からねぇからな。あいにく俺はスパッといくタチなんで、死ぬ時も変に勿体ぶったりはしねぇ、ダラダラとした苦痛はないだろうから安心してくれよ。良かった俺で。相当運がいいと思うぜ? 冗談抜きによ」
男はおしゃべり好きのようで、聞いてもないことをどんどん話してくる。
「うーん、なるほど。まぁいろいろ気遣いしてくれてるようだけど、結構だ。なぜならお前たちはここで死ぬんだ。それだけが決まってるんだよ」
俺の言葉に対し、男はハァ、とわざとらしいため息をつく。
「はぁ、お前マジでつまんねぇな。それを平気で言えちゃうってマジで寒いしくそつまんねぇわ。どういう自信引っ提げてんのか知らねぇけどよ、人の尺に触ること言っちゃだめなわけよ。まぁ何というか人としてテメェの価値がすでに知れた感じするわ」
「何でもいいよもう。とにかくこんなところで立ち止まってる場合じゃないから」
というかもうこういったやり取り重ねていくのも面倒だから全部一気に終わらせたいな。ここからはもう一切喋んなくてもいいかな。そっちの時間短縮になると思うし。相手からしたら訳の分からないままに倒されて多少の不満は湧くだろうけど、ま、どうせ死んだりするんだろうから関係ないよね?