24 帰還しまーす
俺は助けた少女に話を聞いた。
するとなんと彼女はどこぞの国の王女ということらしかった。
そしてそこで起きた反乱から逃げるべく、彼女の父である国王の配慮により川へと逃れたらしい。そして湖まで流れ着いたところをたまたま通りかかった俺が拾ったのだ。
「私は……どうしたら……」
……で、王女様からしたら、戦禍を免れたのはいいものの、自分の置かれた状況にどう対処したらいいのか分からず困っているといったところか。涙を流し絶望の表情を浮かべている。
「まぁ事情は分かったよ。悲しくて、辛くて、自分が嫌で嫌いでどうしようもなくゴミクズみたいに思えるんだよな」
「…………おおむね、その通りですが……」
ちらりと覗いた顔は泣きながらも何でお前に言われないといけないんだよとでも言いたげだった。
「ちなみに一つ聞きたいんだけど、そのクーデターを起こした反逆者? たちは強いのか?」
「……え?」
少女は涙を拭いながら聞き返してくる。
「いや、あんた達のお国の戦力が弱すぎて負けてるとかだったら拍子抜けだから」
「そ、そんなことありませんわ! 我が国の兵は厳しい鍛錬を積んだ屈強な戦士たちですわ。千年を超える期間皇室に仕官してきた軍霊長や『精霊の神子』の異名を持つ歴代最強クラスの戦士もおりますし、民から精霊魔法の適正者を募って結成した魔学隊という切り札だって用意されていたのですから!」
挑発っぽく聞こえてしまったのか、彼女はつばを飛ばす勢いで反論してきた。
そういうつもりで言ったわけじゃないんだが、ちょっと言い方が悪かったかな。
相手がちゃんと強いのかどうかという確認だったんだが。
「なるほど、よくわかった。そんな自称最強メンバーたちも歯が立たないくらい強い相手ってことなんだな」
「自称じゃありませんわ! 他国に認められるほど強いのです!」
「負けてるんじゃなんともな」
「ぐぬぬぬ……」
彼女は歯ぎしりして俺を睨みつけてきた。子犬みたいで可愛いな。そんな表情だから負け犬かもしれないけど。
そして意味もなくにかっと笑ってみせた俺に、ついに堪忍袋の緒が切れたのかびしりと指を突きつけてくる。
「さっきから何なんですかあなたは! 妙に煽ってきたり……確かに助けてくださったことには感謝いたします。しかし我がエルフ一族の誇りを侮辱することとは話は別ですわ。一族の代表として許容するわけにはいきません! 今すぐ撤回しなさい!」
その一族も存続の危機だけどな、などと勢い余って言いかけたが、この辺でいいかなと思いやめておいた。つい面白くてふざけてしまったが、何もこんなやり取りをしたいわけではない。それに相手は病み上がりなのだ、というか病んでいるのだ、優しくしてあげるのが神様流というやつだろう。
「悪かったよ。もちろん全部冗談だ。実はだな、俺はこの森で頑張って暮らしてるんだが、その中で強いやつを探していたりするんだよな」
実際には迷子になっているだけだが、強いやつを倒して最強になるという目的は確かにあるので、あんまり余計なことは言わないでおいた。
「……強いやつ、ですか?」
エルフの子は釈然としないといったジト目ながらも応答してくれた。
「ああ、俺はとにかく最強になりたくてな、強いと言われるやつを倒していくことで最強になろうとしてるんだ。だから最強になるためには俺には最強な存在が必要なんだよ」
「……ちょっと何言ってるのか理解が及びませんが、とにかく強い方を倒すことが目標ということですの?」
「その通りだ。だからその反逆者とやらを倒してみるのも面白いかなと思ってるんだがな」
俺の目的は世界最強になることだ。
国とやらを乗っ取ろうとするレベルの肝の据わったやつなら相当に期待できるだろうし、最強へ至る道を辿る上でぜひ戦ってみたい相手だ。こいつに勝てるならば世界最強に僅かでも近づくことができるだろう。
それにこの森で生きてる中でも刺激の強いイベントは大歓迎だ。目標にも近づけて俺も楽しめておまけで少女の役にも立てるって、一石三鳥の大得じゃないか。そう考えるとますますやるしかないな。
「反逆者たちを……倒してくださるというのですか?」
「ああ、たぶんな」
俺の言葉に彼女は一瞬希望を見るような目になったが、すぐに顔を伏せてしまう。
「お言葉ではありますが……いくら強いからといって彼らを倒すことは不可能かと思います。一国の軍を相手にも引けを取らない……いや、それをも上回ってくる本当の実力者ですの。確かにこういった魔物を仕留めることができるあなたは多少なりとも腕に覚えがあるのかもしれませんが、これはちょっとした喧嘩とかいう次元の話ではありませんの。ですから、その、気持ちだけでも」
「いや、あんたがどう見るかとかは勝手だと思うけど、俺はただそいつらに会いたいっていうだけだから。勝てるか勝てないかとかは実際に見て判断するし……だからとりあえずその国の場所とやらに案内だけして欲しいんだが」
「……案内するだけなら勿論可能ですが……我が国の精鋭でも無理なものをあなたにどうこうできるとは……」
「まぁ、とにかく行ってみたら答えは分かるだろ。それともまさか戻るのが怖いなんて言うんじゃないだろうな」
「そ、そんな訳ありませんわ! 死ぬことなど、今更厭うはずもありません! 私の命はあの場に置いてきたも同然なのですから!」
と言うわけで、俺はその国とやらに案内してもらうことになった。