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22 深呼吸はし過ぎちゃだめ

 とりあえず金髪の少女を陸地へと上げた俺は、焚き火の近くに寝そべらせた。

 体がずぶ濡れだから温かくしてやった方がいいだろうしな。

 タダでさえ弱ってるのに、これ以上何か重なれば命に関わるかもしれない。

 因みにただ地面に寝かせるのもアレだったので、昼間に仕留めた巨大なイタチみたいな生物のお腹を枕がわりにさせてみた。もふもふである。死体ではあるが、まだ殺してからそう時間は経ってないし大丈夫だろ。臭くなければなんとかなる。はず!


 そうして俺は少女が起きるまで待ち始めた。

 叩き起こしても良かったが、そんなに時間に困っているというわけでもない。

 病人を刺激して変に支障をきたしても良くないと思い、しばらく様子を見ることにした。

 見張りをしながらのんびり待つ。


 このまま衰弱死するなんてことないだろうな……。

 あまりに静かなのでそんなことを思ってしまう。

 いや、別にこの人が死のうがどうなろうが俺が知ったことではないんだけど、永遠に口を開かないとなれば何も情報を得られなくなってしまう。それに折角助けたのだ、死なないに越したことはないだろう。



 そしてどのくらい時間が経っただろうか。

 すっかり夕焼けが沈みきった頃、ようやく変化が起きた。

 彼女の表情が僅かに動いたのだ。


「う、うぅ……」


「おっ、生きてたか。おーい大丈夫かー」


 少女は生きていたようだった。

 これでひとまず最悪のパターンはなくなったな。


「う………………ん?」


 彼女は寝ぼけまなこで上体を起こした。

 何がなんだか理解できてないといった感じでキョロキョロ辺りを見回している。


「大丈夫か?」


「……え? あれ、ここは」


 そしてようやく現実に戻ってきたのか、次第に慌て始めた。

 なんだろ、寝起きに弱いのかな?


「あのー」


「え? はっ、え? えぇ!?」


 見回していた少女の照準が俺に合った途端、バッと俺から遠ざかるように飛び退こうとした。

 しかし後ろのイタチ型生物に引っかかてうまくいっていない。


「だ、誰ですの!? こ、ここは一体っ? あ、あなた何者ですの!?」


 俺を前にして完全に混乱しているようだった。

 小柄な少女はやはり眠っている時と同様、かなり整った顔立ちをしている。白い肌に、艶やかな金髪。瞳の色は綺麗な翡翠ひすい色で、唇は小さなピンク色だ。

 こんなに可愛い人生まれて始めてみたかもしれない。テレビのアイドルですら見たことない気がする。


「いや、まずは落ち着いてくれ」


「これが落ち着いていられますか!? 説明しなさいっ! ここはどこ!? わたくしをどうするおつもりなのです!?」


「俺はあんたが湖に浮かんでるところを助けただけだぞ。そんなに喚き立てるなよ。そっちこそ何者なんだよ、こんな森で一人で何してたんだ?」


「え? 私……? 私は………………うん? うぇッ!!」


 少女は何か悩んだ素振りを見せたかと思えば、背後の巨大イタチに目を丸くしていた。

 忙しいやつだな……。というか普通に会話が成立してるな、てっきり言葉が通じないものかと思ってたんだが普通に通用するぞ。この辺の仕様とかどうなっているのだろうか。そう言えば何も説明受けてないよな……メガネ少女にでも聞いとけば良かったか。


「ば、ばばばばけものっ!」


「安心しろそいつはもう死んでるぞ」


「……え?」


 恐る恐るといった様子でイタチの様子を伺う少女。

 そしてピクリとも動かないのを確認し、いささか落ち着きを取り戻していた。


「死んで……ますわね……って、あなた何者なのです!?」


「だから通りすがりの者だって。それに俺のことはいいだろ、あんたのことを知りたいんだよ俺は」


「私……ですか? そう言えば最後の記憶が……えー……確か………………っ!」


 しばらく考えていたが、何か思い出したのかハッとした表情になった。

 そして突如として悲壮な顔つきになる。


「……いか、ないと……」


 ポツリとそう呟く。


「どこに?」


「お父さま……お父さまの元に……」


 そして何かに取り憑かれたかのようによたよたと歩き出したかと思えば、すぐに前のめりに倒れ込んでしまう。


「あ……れ……」


 自分で自分が不思議だといった顔をしていた。


「まだ本調子じゃないんだろ、ずっと流されてきたってなら結構体温を奪われてると思うぞ」


「で、ですが! 私は行かないと! 行かなければならないのです!」


 少女は目に涙を溜めて俺に訴えかけてくる。

 え? なんか急に必死だな……意識を失う前に何かあったのか?

 倒れたのもどっちかというとショックで立ち上がれないって感じの倒れ方だったし。


「何があったのか知らないけどどの道その調子じゃ動けないだろ。とりあえずは休んどけよ」


「……ぐすっ……お父さま……」


 少女はシクシクと俯いてしまっていた。

 よほどのことがあったのか。

 ここまで悲しいってよっぽどだよな。なんか関係ないはずなのに俺までモヤッとしてきたわ。これがもらい泣きってやつなのか? 映画でも結構涙腺にきたりするのに、リアルだとなおさらだな。


「とりあえず火元で温まって休め。なんなら肉も焼いてあるぞ、ちょっと硬いけどな」


 俺はひとまず少女が落ち着くまで待つことにした。




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