17 心を猫にする
お兄さんが血を撒き散らしながら、ドサリと地面に倒れる。
ひゅっひゅっ、と空気の抜ける音は、裂かれた喉から出ている音なのだろうか。
即死はしなかったらしいが、致命傷は負ったようだ。
まぁ動かなくなってるのでトドメをさす必要もないか。
俺は素早く腰元からひょうたんを回収し、蓋を開け天を見上げながら一気に仰ぐ。
にゃはぁ、やっぱりうめぇ……。勝利の美酒ってやつ? まぁ水なんだけどさ。ほんといくらでも飲めちゃうわ。
またもや一瞬で飲み干してしまい、おかわりとばかりに周囲を見る。
ゔ……といった感じで俺に明らかにビビっている部族たち一行。
うーん、そんなに怖いかね。
まぁ変な炎も使うしこんだけ仲間をやられたらそうもなるか。
ちょっと可愛そうだけど、俺だって人生がかかっている。
恨むなら俺と出会ってしまった己を恨んでくれ。
要領さえ分かってしまえばあとは簡単だった。
水分補給で体力をちょっぴり回復できたことで、もう一つ動きにキレもでてきた。
まずパッと目についた木の上にいる部族に狙いを定めた。
さっきからスリングみたいなので無限に石を飛ばしてきてウザかったんだよな。
足に魔力を込め、ロケットのように一直線に飛びかかる。
だが流石に距離があったのか、木からギリギリで飛び退かれてかわされた。
俺は木に爪を立て、側面に捕まる。
手から炎弾を放ち、落ちていく部族の頭部を撃ち抜いた。
この距離なら外さない。
これで三人目。
そして次に近くの木にいたもう一人の部族に飛びかかる。
部族はすでに弓を構えていて、宙を飛ぶ俺に放ってきた。
反射的に手で弾き、矢はどこかへ落っこちていく。
んー、なんか凄い集中してる。
反射神経が上がってる感じするな。
「ボボ!?」
そして明らかにもたついていた部族の首を右手で突く。
揺れる枝から血を撒き散らしながら落ちていった。
四人目。
そして次に少し離れた地面の上にいる二人組に視線を合わせる。
俺に睨まれ相当に怯えているのがわかったが、お構いなく木を蹴って彼らへと突っ込む。
まずは片割れの方を狙い、四足歩行の低い軌道から右手引っかきを繰り出す。魔力を爪に見立てリーチを少し伸ばして攻撃してみた。
「ボがあぁっ……!」
槍を構え防御していたが、魔力の爪を補足できなかったらしく四本の線が腕を切り裂く。
武器を取り落とし、もがくソイツの顔面を再び爪で切り裂く。
冗談じゃないぐらいの真っ赤な顔に染まったソイツの首を横から突いて葬り去る。
隣を見てみると、もう片割れの方は、何をしていいのか分からないといった顔で立ちすくんでいた。
仲間のカバーくらいしたらいいんじゃないのかと思ったが、まだ若そうだし恐らくこんな経験も初めてなんだろうと勝手に思うことにした。
何もしてこないので俺は普通に距離を詰めて炎弾を放ち、頭部を抜いた。
相手が少し動き狙いが微妙にずれて頭の端の方を貫いてしまったが、それでも即死級のダメージだったようだ。ソイツは倒れぴくっと一回身震いしてそれきり動かなくなった。
ひとまずこれで六人目。
残りの部族数は四体になったはずだ。
さてと思い周囲を見てみるが、俺の目に映ったのは、背を向け一目散に逃げ去る部族たちの姿だった。
同じ方向に向かい全力ダッシュだった。
実力差を悟ったのだろうか。
ある意味良い判断なのかもしれない。
だが逃がすわけにはいかないので、俺は逃げていく部族たちの方へ向け手をかざした。
手の平の先に赤い炎の球が生じる。
これをそのまま飛ばしてしまえば最初のガタイのいいリーダー格の二の舞いだ。物資ごと燃やしてしまいかねない。それに逃げる複数人相手を一度に倒すことは難しい。一匹ずつ狙っていたのでは、何人かには森深くに逃げられてしまうかもしれない。
だが……こうしたらどうかな?
俺は生み出した炎の球から細かい粒のような炎を大量に放出させた。
それはさながらマシンガンのように、面で制圧しにかかる。
遠目から四人中三人が倒れるのがわかる。
だが一人はマシンガンの弾をくぐり抜けたのか、そのまま逃げていってしまった。
ひょうたんへの被弾を避けるためかなり荒く撃ったので、こうなることもあるのかもしれない。
だが一人であるなら補足するのは容易い。
俺は四足歩行で追いかける。
相手は結構すばしっこかったが、俺の身体能力には及ばず、追いついたところで背中をどつき、張り倒した。
抵抗してきたので顔面に拳をめり込ませた。
鼻付近が陥没した手応えとともに、そいつは動かなくなった。
これで十人目。
ノルマ達成だった。
俺はその場にいた部族全員を殲滅したのだった。
「ふぅ、終わったか……」
……なんだろう。本当にこれで良かったの感がすごいんだが。
いや、これも俺が生き残るためだ。
自然界の摂理というやつだろう。上の階層の者が下の階層の者から恵みを得て生きていく。ピラミッド構造とでもいうのだろうか。それなはずだ!
あー、にしてもなんだかどっと疲れた……まぁさっきまで干からびてたんだから当然ちゃ当然か。まだ頭も痛いし体もだるいわ。
まぁいいや、ひとまず戻るか。
俺は足元で肉塊となってる部族から奪ったひょうたんを呷りながら、とりあえず最初に部族たちと戦っていた場所に戻った。