表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/77

16 銀の匙

 俺は対峙している部族の一人に狙いを定める。


「おりゃあああ!」


 俺はひとまず殴ることにした。

 気合である。

 あいにく俺は魔力を操れるため、防御は固くできる。

 格闘戦になったとしてもそうは死にはしないはず。


 俺が狙った部族は俺より少し背が高いかなくらいのお兄さん? だ。草地の上で槍を構えている。まっ、ぶっちゃけ顔なんて全員同じに見えるから誰が相手でも一緒だけどな。


 俺はそのお兄さんの元まで全力ダッシュした。

 おお、意外と早いんじゃないか。

 前世の俺もそんなに足は遅くはなかったが、それよりさらに早くなってる気がする。


 相手もいきなりの俺の行動に後手を取ったのか、槍を構えてそこに留まるだけだ。

 よっし、先手必勝、殴って勝つ!


 そして俺は殴りのモーションに入った。

 足がもつれてコケた。

 ずーっと、地面をうつ伏せで滑る。


 ……あ。だめだ、なんか、体が思った以上に動かない…………まだ、寝ず食わずの影響が残ってんのか……変に魔法も撃ったし、確かに、無理しすぎたかも……。


 思えば俺は病み上がりだった。

 というか今でも頭がズキズキ痛むし、心臓の動悸もやけに激しい。

 テンションでごまかせるようなコンディションじゃなかったみたいだ。

 ああ、のど、渇いた。水飲みたい……。


「……ん?」


 顔をあげると、少し前にいた部族のお兄さんが槍の投擲体勢に入っていた。

 ついに相手も攻撃する気になったようだ。


 そして最悪なことに俺は中途半端に前に出ていて、周囲の部族からスキなく囲まれているポジションに来てしまっている。

 当然、全方位からくまなく投擲物が飛んできた。


 え……やめ……




 俺は瞬間的に魔力で全身を覆った。



 がっがっがっ。



 飛来してきたものが、俺の体にきちんとヒットしてきた。

 飛んできてたものは槍を始めとして石や矢など様々だ。

 だが痛くはない。

 流石俺の魔力、相手のコントロールも凄いが、俺の防御がそれを上回っていった。


 うぅ、痛くはないけど当たったって感覚は分かるんだよな……しかも普通なら絶対痛いようなことをされてるのに痛くも痒くもないとか、なんか感覚がバグりそうだ。神経にズレがある感じがなんか気持ち悪い。いたっ、今なんて顔に思いっきり矢が刺さったのに実際は刺さってなくて何も感じない……変な感じだな、にしてもうっとおしい!


 いっそのこと炎魔法をぶっ放してやろうかと思ってしまう。

 しかしこやつらの物資を燃やすわけにはいかない。

 歯がゆいが、スマートに、エレガントに倒すに他はないのだ。


 俺はひとまずうっとうしい飛来物を炎の障壁を作って防いだ。

 俺を中心に半円状に炎のドームが展開される。

 飛来物は当たったそばから炎の流れに沿って上へと軌道を変え流れていった。


 ふっ、どうだ、メガネ少女の見様見真似でやってみたが、案外うまくいったみたいだな。

 あのバリアみたいに完璧な防御という感じではないが、炎の勢いを利用することで擬似的に再現してやったぜ。ヤバい俺天才か?

 技名は炎鉄壁【フレイムガード】でいいかな。いや熱式防空壕【フレイムシェルター】の方がいいか。そうだなこっちでいいや。今後はこれでいこう。


 それじゃあ後は反撃! といきたいところなんだが……うん、だめだ体が重い。心は前を向いてるのに体が付いてきてくれない。サイレントで足もつったし最悪だ。


 俺は炎の向こうに微妙に見える部族のお兄さんを見た。

 相手の腰にはやはり例のひょうたんがある。

 俺はそれをガン見した。

 ごくり。

 反射的に喉が鳴る。

 飲みたい。アレを今すぐにでも飲みたい。

 そりゃそうだ、俺は今これだけ喉が渇いている。

 飲みたいに決まっている。飲むしかない!


 俺は馬に人参効果を狙ってみた。

 効果はてきめんで、体中の全細胞が一つの目標に向かっていくのが分かった。俺の目は獲物を狙う猫の目になっていることだろう。


 俺は馬鹿力を発揮し、凄い勢いで地を蹴った。

 フレイムシェルターを通過し、四足歩行で地を掛ける。

 にゃお!!


 そして相手、部族のお兄さんに勢いそのままに飛びかかった。

 相手は普通にバックステップのような感じで後ろに下がる。

 そのスピードはあまりに俊敏で、俺の適当な四足歩行では追いつけなかった。

 俺は人間で猫ではないのだ。当たり前だった。


 そして少しもたもたしている俺にまたもや色んな投擲物が襲いかかってくる。

 相当に鬱陶しいが、でも今ので何か感覚を掴めた気がした。


 人間の身体能力では猫になれない。

 だったら――身体能力を上げてしまえばいいのでは?


 神がかり的な発想で、俺は魔力を身に纏うのではなく身に"込める"ことにした。

 すると気のせいだろうか。纏った部分の筋肉が活性化される感覚を覚えた。

 いや、たぶん勘違いなんかじゃないぞ。体が軽い。絶対に今までより軽い。

 そういえば覚醒モードの俺って謎に身体能力とか高かったような? もしかしてコレを無意識にやってたとかなのだろうか。

 まぁどうだっていい。

 とにかく今はエサが最優先だ。



「にゃあああ!!」



 俺は後ろ足に魔力を込め、タンっと地面を蹴る。


 今までの比じゃないくらい加速し、あっという間にお兄さんの元に到達。

 左手でお兄さんの喉元を引っかきにかかる。


 慌てた顔で持っていた槍でガードしてきた。

 槍の取り回しが可憐だ。

 それなりの使い手なのか?

 まぁ関係ないね。


 ガキン!


 槍でなんとか防がれるが、返しの右手引っかきが炸裂!


 がら空きの左胸付近に四本の深い傷跡が刻まれる。


 右手の指先にも瞬間的に魔力を込めたが、やはり威力はかなりのものになっているらしい。


「ぐあぁ……」


 言葉にならない押し殺した声を発するお兄さん。

 胸元を押さえてよろめき無防備になっているところ、俺のトドメの左手の手刀で喉元を一閃。


 喉からおびただしい血を吹き出させながら、お兄さんは倒れていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ